くっころ姫騎士に洗脳美少女エージェント、催眠女子生徒などなどがいいタイミングで転送されてきてベタ惚れされたけどわたしはストレートの女の子なのでみんな元の世界に帰してあげる!

杉林重工

前章

 わたしを産んだのは空想だった。


 ***


 彼女は月面表層をわざわざ削って作った玉座に座り、顛末を堂々と見届ける覚悟だった。彼女にはもうそれしかできない。しかして、別にそれは彼女にとって諦めではなかった。元来、諦めるという言葉が辞書にないタイプの人種ではあったが、それより彼女が優先するのは、当人たちの意思であるからだ。


 彼女の視線は地球に落ちていた。青い星。その、どこでもないどこか。


 ある日、突然日常が崩れ出す、というのは、よくあっては困るのはもちろんだが、これだけ人間がたくさんいるのだから、全体的に見ればよくあるだろう。

例えばそれは信じていた妻が浮気をしていたり、大事に育てていたつもりの息子や娘が非行に走ったり。あるいはどこかの国で株価が急落したりして世間が一変したりとか、それとも作物の不作とか不漁とか、大きな地震とか。そういうものだと思う。


 ――だが、今、人類が直面している問題はそれではなかった。


『巨大移動体、現在もなおビル街方面へ進行中』


『対象確認。指示を乞う』


 その頭頂部は雲を裂き、形も知れない。おそらく、脚のようなもので移動してるのだが、それが一跨ぎで山を崩す。踏み抜いた後の大地に谷を作り、足音は大地震となって、空気を揺らして人を食う。


 それが突然現れてから、誰もがその全貌を把握できていなかった。あまりにも巨大すぎた。目撃者は一瞬で被害者になり、その断片すら伝えることすら叶わない。


 事態が明確になったのは、震度七超という規格外の大地震を四回も連続で計測してから三十分も経った後。衛星写真に堂々と影を落とす異物を確認したときだった。



 その長さ、実に十八キロメートル。それが、移動しているのだ。


 近づいた航空機は、それが一歩『歩いた』だけで発生する空気の振動に墜落し、ついぞその正確な姿を認識することはできない。ただし、それが驚くべきことに脚を備えていることは確認できた。このとき、人類にできたのはそれがせいぜいだった。


 故に、その巨大な移動体の『頭部』、その天辺に小さな人影が立っていることなど想像もしていなかっただろう。


 白銀の甲冑を纏い、その奥から覚悟を湛えた瞳でもって睨む先に、彼女の対手はいた。


 すでに更地、巨大移動体の影響はすでに大小含め数百キロに及んでいた。十キロ圏内など、もはや目も当てられない。


 少し前まで駅前特有のにぎやかさを持っていたビル群がすでに更地になっている。立ち上る粉塵が空気の震えに乱れ、狂った風に煽られ吹き付ける中、青黒い装甲に身を包んだ少女は、怪物上の甲冑の彼女をしかと見返していた。粉塵にも構わず、彼女は頭部を覆う装甲をあっさり解除した。真っ青な瞳の美しい少女だった。


 眼前の吹き荒ぶ砂塵の向こう、彼女はきちんと、それがなんなのかを理解していた。


 いつかこうなる気はしていたが、よもやここまでするとは思っていなかった。彼女はそう述懐し、しかし微笑んだ。対手はそうは思っていないだろうが、わたしはずっと、こうなることを楽しみにしていたとも思う。


 その、巨大と向き合う少女の姿をはるか遠くから見ている。彼女にとって、それは自身の演算した結果生まれた、曲線上の一点に他ならない。特に感慨をもって接すべきものではなく、その曲線の先がどうなっているのかも知っている。


 だが、その上で、少し懐かしさをもってその結果を指でなぞっている。あと少しで矛盾しそうな気持を、彼女は無意識のうちに無視している。


 なぞった先、曲線が切れている。そう、そこで彼女は己の持つ最大火力でもって、せいぜいの敬意を、最大の愛敬を表する心積もりである。すなわち、一瞬で二人を消し去ること。一切の妥協なく、手加減なく、である。


 演算通りに己が艦の主砲、四基八門を同時に撃つ。どんな時空間に逃亡しようと、その可能性は全て『史って』いるから。


 彼女は、そんな戦いの枠外にいて、小さなスマホを握りしめて小さな可能性の端にいた。傍観者、それが彼女の役割と言わんばかりの扱いだった。だが、それでいい。ほかの四人は皆が皆、自分が『出来る』ことが当たり前で、そのあまりに大きな力を振るっている。でも、自分は違う。わたしは、わたしを信じている。わたしが、できるといったから、準備をしてきたのである。だから、できる。後は、タイミングである。わたしが、そうすべきと判断する、その時を静かに待つ。


 最後の一人もまた、待つのが仕事であった。一人を除いて、否、皆が皆、あまりにも荒唐無稽になりすぎた。正直、彼女の知る範囲ではない。だが。だからこそできることがあることを知っている。いつの時代も、漁夫の利をいただくのは自分であることを信じて疑ってはいなかった。なにせ自分は影のもの。いずれ訪れる彼女らの隙を逃さずに、さくっと暗殺してせしめる所存。


 果たして、この時全長十八キロメートルの巨大移動体が地上を這い、それを迎え撃たんと小さな少女がそれを見上げ、遥か時空間の彼方からその二人を撃たんとしている間、二人の少女が己の計略に身を委ねる大惨事、これが歴史的事件になるのは間違いないが、こう呼ばれるとは誰もがこの時、考えもしていなかっただろう。


 これこそが、まさに世界を架けた空前絶後の大戦争。


――紅世原瑠朱ラブラブ花嫁花婿争奪覇界戦争の始まりであった。

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