精霊カルテット

藤本 蒼

第1話 精霊と女子高生

 ユミが気がつくと森の開けた広場にいた。


 太陽が優しく照って、心地よい風が吹き抜けていく。

 周辺には鬱蒼とした森が広がっているが、自分が立っているのは草ぶいた原っぱだった。


 高校の帰りにクラスメイトの京子と一緒に電車に乗り帰っていたはずだったが、気がつけば”ここに呼ばれた”ようだ。


 ユミは普通の人間の女の子だが、祖先にエルフの血が入っている。他の親兄弟にはないような力があり、生まれながらに強い精霊の力をもっている。誓約の都合上、たまにそういう子が生まれてくるのだ。


 ユミにはエルフ特有の長く尖った耳は遺伝していないが、見た目は誰がどうみてもうっとりするような端正な顔立ちの少女だ。


 よく男の子からも声をかけられるが、力を持っていると分かると大きな騒ぎになるので、あまり積極的に人と付き合いたいとは思っていない。それだけ強い力なのだ。



 ユミが”こちら側”に呼ばれたのは実はこれで3度目だった。


 これもユミが受け継いだ力の影響だ。

 先祖が契約している精霊たちが話したいことがあると、意識だけこっちの世界に呼ばれるのだ。


 始めてきたのは小学生5年生のころ、2回目は中学三年のときだったので、内心またかと思ってる。


 1回目は湖の小島で水の精霊。


 2回目は砂漠真ん中に、風の精霊。


 で、3回目の今回は森だった。



 というとこは木の精霊からの呼び出しだろう。


「ドライアドー!私を呼んだー?」


 ユミは呼びかけた。


『あぁ、呼んだとも。ただ、お主を呼んだのは娘達ではないがな(笑)』


 野太い声が聞こえた。

 ザワザワと森が蠢き目の前に天にもかん大樹が現れ、幹に巨大な顔が出てきた。


 喋る度にザワザワと木の枝が揺れる。


 それは樫の木の古木のような姿で物語でもよく出てきて、森の主とも、世界樹とも呼ばれている。


「ああ、トレント!あなただったの!?」


 ユミは少し驚いた声で答えた。


 呼出主は古木の精霊トレントだった。


 数百年生きているドライアドを小娘というほど、何千年も生きている木の大精霊だ。



 ユミのこの能力は先祖からの盟約に基づいていて、その代わりにユミには強い精霊力が備わっているのだった。

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