第6話 真っ赤な視界

「下がってください!」

 そう言ってリヴィオが前に出て、ポエットは笛を吹いた、通りにいる者達に伝えるためだろう。


「私も加勢します!」

 ポエットがスカートの中からメイスを出す。


 えっ、あんなの足にくくりつけて歩いていたの?


 通りですらりと引き締まった足をしていると思ったわ。

 それとやたらふわふわしたスカートだなって。


「殿下、私から離れないで」


「あ、あぁ」

 青褪めた顔でローシュ殿下は震えているわ。


 訓練とかはしていても実戦経験はないのだもの、無理はないわね。


 何かあれば魔法を使おうと構えていたが、加勢の騎士達も来たために大丈夫そうだ。


「大丈夫ですか?」


「えぇ」

 リヴィオの言葉に私は応え、ローシュ殿下を見る。


 青褪めた顔と震える体を見て、私はリヴィオに手を貸すように頼む。


「わかりました。殿下、手を」

 リヴィオの差し出した手は取らずにローシュ殿下はゆったりとした足取りで歩き出す。


「……大丈夫、けれど馬車の手配をお願いしたい」


「はい。ですが殿下の護衛が」

 リヴィオは周囲を見回すが、手の空いたものは居ない。


 皆襲い掛かってきたもの達を捕縛したり、ポエットも状況を伝えているために、すぐにこちらに来れないようだ。


「エカテリーナがいる。だからお願いだ」


「私が命に代えても殿下を守りますから。ね、リヴィオ」


「……すぐに戻ります」

 そう言ってリヴィオは走る。


「エカテリーナ、すまないが肩を貸してくれるかい」


「はい」

 断る理由もないし、ローシュ殿下に肩を貸す。細身とは言え身長もあるし、ずしんとしたわ。


 倒れたら一緒に転んでしまいそうね。


「情けない男で済まない。こんな事を目の当たりにしたことがないから」


「私も同じです。誰だって命を狙われたら怖いですよ」

 ローシュ殿下は私をじっと見つめ、何やら困ったような顔をしているわ。


「それなのに君は顔にも態度にも出ないんだね、本当に強い女性だ」


「そんな事ないですわ。私も普通の人です。本当は怖いし、今だって泣きそうですのよ?」

 ただ表に出さないだけなのだ。


「そうは見えないね、本当に君は嘘が上手だ」

 ローシュ殿下に暗く沈んだ声で言われ、私は顔を上げる。


「殿下?」

 何だかいつもと違う雰囲気だ。気のせいだろうか。


 だが考えることは出来なかった。


 新たな刺客が現れたから。


「殿下!」

 炎の渦がこちらに迫ってくるが、そんなものは私にかかれば関係ない。


(私は生粋の魔法使いだもの。この程度は問題ないわ)

 魔石を使用しないと魔法を放てない者より能力はある。

 迫る炎を片手で止め、そのまま術者へと返した。


 燃え盛る人影と悲鳴に耳を閉じたくなるが、そんな隙を与えてはいけない。


 だって後ろから新たな刺客の気配がするのだから。


(そんなのお見通しよ)

 既に準備はしていた。


 後は放つだけなのだが、そこで予想外の事が起きる。


「わあああぁぁ!」

 唐突に襲われた事に驚いたのか、目前で人が燃えたのに恐怖したか。

 叫び声を上げたローシュ殿下に私は体を押されてしまった。


「くぅ!」

 魔法を放つタイミングがずれてしまい、刺客の一撃をもらってしまう。


 頭に強い衝撃と痛み、けれどローシュ殿下を守らなければという思いが強かった。


 再度魔力を集め、刺客の体をばらばらにする。


 視界が赤く染まるが自分の血なのか刺客の血なのかわからないが、そこで私の意識は途切れてしまった。

 




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