6.お誘い

――ギャル子と嬢子さんとの出会いで、俺の生活が一変するということはなかった。廊下などですれ違っても軽く挨拶する程度であり、ボッチライフは軌道に乗っていた。羊田さんに追いかけ回される以外は……なにかと理由をつけて2人きりになろうとしてきていた。本当に勘弁して欲しい。そんないつもと変わらぬ平凡な1日を迎えていた。


「おはようございます。山田さん。」


「おはよう。嬢子さん、今日は歩きなんですね。その大きな荷物は、どうしたんですか。」


「はい。あの一件の後、お父様にきつくお叱りを受けまして、歩きで登校することになりましたの。その際に、地域の方への感謝とお詫びの気持ちを込めまして、ごみ拾いをすることにしましたの。」


 嬢子さんは高級ブランドのカバンを広げる。そこには大量のゴミが顔を覗かせていた。ツッコムか迷ったが、嬢子さんの清々しい笑顔に免じて喉の奥にしまう。


「そういえばもうすぐ夏祭りですが、ご予定ありますか?」


 嬢子さんが、くりくりした目で訊ねてくる。


「すいません。先約がありまして……」


 もちろん先約などない。だが、夏祭りなんてラブコメの宝庫である。絶対に阻止しなくてはならない。


「そうですか、残念ですわ……」


「久しぶり、2人とも!」


 大きく手を振って、ギャル子が走ってきた。


「なんの話してたの?」


「山田さんを夏祭りにお誘いしていたんですの。」


「えっ……あんたって太郎にゃん狙いなの!?」


「羊田が山田さんとお祭りに行きたいそうなんですの。」


「なんだー! 良かった!」


 ギャル子が胸を撫で下ろす。


「いやいや、全然良くないだろ!」


 俺は、間髪入れずにツッコム。


「山田さんは、先約があるようで断られてしまいましたわ。」


「太郎にゃんに、先約? ないないない。」


 ギャル子は大きく笑って俺を叩く。


「俺ら高2だぞ。大学受験に向けて勉強するんだよ。まあ、高2から先が存在するか分からないけどな。」


「そう。そういう嘘つくんだ……」


 ギャル子が不敵な笑みを浮かべる。俺はこの笑みを覚えている。ギャル子と初めて出会った時と同じだ。俺は体を大きく震わせる。


「あたし、太郎にゃんの朝のルーティンの写真あるんだけど見……」


「あー! わかったよ! 羊田さんと夏祭り行くよ! 今度こそ、その写真消せよ!」


「何言ってるの太郎にゃん? 折角だし、みんなで行こうよ!」


「それいいですわ!」


「いや、なんで2人は来るんだよ!」


「間違えて写真をばら撒い……」


「わかったよ! ラブコメでもなんでもかかってこい!」


 俺と作者との最終決戦の火蓋が切られた。


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