4.地域奉仕活動
次の日もなんてことない1日を乗り越え、放課後を迎えた。そんな俺達は地域奉仕活動に向かっていた。
「サクッと犯人見つけちゃお!」
ギャル子が意気込む。俺達に与えられた活動は、無断駐輪している犯人を見つけることだった。最近、高校付近のコンビニやスーパーで無断駐輪が頻発していた。その結果、うちの生徒が疑われていたのだ。本来先生が解決すべき問題だが、それを地域奉仕という形で俺達に丸投げされたのだ。
「あの自転車って学校に連絡あった自転車じゃない?」
学校に連絡のあった特徴に当てはまる自転車を見つけた。その近くにはリムジンが止まっていた。車の前には綺麗にそり整えられた白髭を携え、黒のタキシードに身を包んだいかにも執事というイケおじが立っていた。
「すごいな……」
俺は感嘆の声を漏らす。
「あのおじいさんなにか見てないか聞いてくる。」
ギャル子はそう言うと、一直線に執事風の男性の元へ向かう。
「ねえおじいさん、あの自転車誰が乗ってたか見てないっすか?」
俺はギャル子の後ろ姿を横目に、ギャル子の行動力に感心していた。
「あれはお嬢様の自転車でございます。」
「ビンゴ! もう犯人見つかったよ太郎にゃん!」
「まじかよ……いや待って、その人の言うお嬢様ってこのリムジンで通学してるんじゃないの?」
「確かにそうじゃん! 太郎にゃん冴えてる!」
「お答え致します。お嬢様は……」
「羊田さんお待たせ致しましたわ。あら、どうなさったのですか?」
執事風の男性の言葉を遮ったのは、俺達と同じ制服をまとった女子だった。星空の如くサラサラと輝く髪、端正な顔立ち、白く透き通った肌を併せ持った美人であった。
「これあんたの自転車なの?」
「そうですわ。あなた方は……?」
「あたしは、橋本ギャル子。こっちのモブっぽいのは太郎にゃん。」
「おい、俺一応ラブコメの主人公だぞ! 山田太郎です。」
「あら、ご親切にありがとうございます。わたくし金田嬢子ですわ。こちらは私の執事の羊田ですわ。以後お見知りおきを。」
「よ、よろしくお願いします。さっ、早速で悪いのですが、この自転車は嬢子さんのですか?」
あまりのお嬢様っぷりに俺は少しうろたえていた。
「そうですわ。わたくしが登校時に使って、地域の方に感謝の意を示したものですわ。」
「ちょっと俺の頭では理解できないのですが……」
「私、羊田がお嬢様に変わってお答えさせて頂きます。お嬢様のお父様は地域の方々に感謝をするようにと、お嬢様に常々言っておられます。ですのでお嬢様は感謝の意を示すべく、地域の皆様に自転車を差し上げられたのです。なので登校時は自転車を使い、下校時には車を使います……なんとお優しい……」
羊田さんは泣き出してしまった。
「それあんたが勝手にやってるんだよね……ただの不法投棄じゃない?」
「そうなんですの?」
ギャル子の的確なツッコミに、嬢子さんはキョトンとしていた。自分が間違ったことをしているのが全く分かっていないようであった。
「お嬢様になんてことを言うのですか! お嬢様の優しさが分からないんですか!?」
さっきまで鉄仮面だった羊田さんが、鬼の形相でギャル子に迫る。
「羊田やめなさい。御二方、私がなにか粗相をしてしまったみたいで申し訳ありません。」
嬢子さんは深々と頭を下げる。
「お嬢様、お止め下さい。お嬢様は悪くありません。」
「俺も嬢子さんは悪くないと思います。」
「太郎にゃん?」
「悪いのは嬢子さんの全てを肯定してしまった周りの人間だと思います。今回、感謝の気持ちの伝え方が間違っていた。いや、嬢子さんにとっては正しいことなのだと思います。普通と呼ばれるものは、その人が成長していく上で与えられたもので形成されていきます。だからもしも、その普通が世間とのズレがあった場合、その人にとっては世間の普通が普通じゃないと勘違いしてしまうんです。人間は集団でしか生きられない生き物なので世間の普通に合わせなければいけません。だから羊田さん、嬢子さんの全てを肯定するのではなく、物事の善し悪しをしっかり教えてあげてください。」
「山田様……」
すごい剣幕で羊田さんが近づいてくる。
「すいません、よその家庭のことなのに……」
俺は必死に頭を下げる。
「私のために戒めの言葉を頂きありがとうございます。」
「へっ……どちらかと言うと嬢子さんのために……」
予想外の言葉に俺は腑抜けた声を漏らしてしまう。
「羊田は感激致しました。あなたのように、他人のために本気で怒れる方はそうそういません。ドキドキしてしまいました。よ、よければお付き合いして頂けないでしょうか?」
「えぇぇ!!」
ラブコメってそういう事じゃないだろ!!
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