2.赤面

「俺がラッキーアイテムってどういうことですか?」


「朝の……占いで、酔っ払い顔の人がラッキーアイテムって言ってたの。」


「なんだその占い……てか、俺が酔っ払い? 」


「あんた顔真っ赤だから。」


「あっ!」


 さっきまでの自分の行動が蘇る。ラブコメ展開を回避するために逆立ちしていたが、逆にそれがラブコメ展開に拍車をかけてしまったようだ。確かに頭に血が溜まっていて、顔がいつもより温かい気がする。


「俺も朝の占い見ましたけど、ラッキーアイテム酔っ払い顔なんて言ってなかったですよ? なんて番組ですか?」


「……占い。」


 美少女ギャルは俯いて小声で喋っているため、聞き取れない。


「え?」


「5人は戦隊の5分占い!!」


 5人は戦隊は幼稚園児から小学生低学年の年代にかけて人気のテレビ番組だ。キャストに今をときめくイケメン俳優の木村イケ助が起用されており、女性層からの人気もあった。


「言っちゃった、言っちゃった。キャー恥ずかしい。ふー。」


 美少女ギャルは逆立ちしていた俺よりも顔を赤く染め、手で顔をあおいでいた。


「子供向け番組ですけど、木村イケ助さん出てますし、結構女性も見てるのでそんなに照れなくても……」


「あたしも最初は木村イケ助目当てで見てた。だけど、あの何者の攻撃も受け流しそうな綺麗な曲線を描いた頭部、何事も見透かされそうなツヤを放ったゴーグル……」


 さっきのモジモジしていた美少女ギャルとはうって変わり、お経を唱えるかのようにつらつらと5人は戦隊への想いを語る。


「はっ! つい興奮して……こんなに5人は戦隊の良さ教えてあげたんだから、今日1日は私の傍にいなさいよ!」


「勝手に話したんじゃないですか、嫌ですよ!」


「わかった。じゃあ代わりに敬語やめて。同じ色の校章ついてるからあんたとあたし同じ高校のタメでしょ。私は橋本ギャル子。あんたは?」


「俺は山田太郎。ぶつかって悪かった。じゃあ。」


 俺はラブコメ展開を阻止すべく、その場から早々に立ち去ろうとする。


「ちょっと待って! 太郎にゃんさ、さっき逆立ちしてたでしょ。」


「そうだ、俺は逆立ちして登校する変なやつだ。関わらない方がいい。」


「ここってよく女子高生通るよね。」


「ああ。それがどうした?」


「あんた女子のスカートの中覗こうとしてたんじゃないの?」


「そ、そんなわけないだろ。た、ただの筋トレだよ!」


「口ではなんとでも言えるよね。」


「えっ……」


 ギャル子の不敵な笑みに身震いする。


「素直に応じてくれればこんな手使わなかったのにな。」


 そう言ってギャル子は草の茂みからスマホを取り出す。


「この写真を見てみんなはどう思うかな?」


 スマホには、俺がギャル子のスカートを覗こうとしているようにしか見えない写真が映し出されていた。こんな写真が学校の奴らにばらまかれたら、俺の平穏なボッチライフは終わってしまう。俺は平穏なボッチライフと覗き魔のレッテルを天秤にかける。


「今日1日はラッキーアイテムとしてギャル子に飼われてやる! ただ1つ条件がある。」


「なに?」


「俺に絶対惚れないこと!」


「はっ? キモ。調子乗んな。」


「すいません……」


 カムバック、俺の平穏……

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