第2話 入学と友人

豊の家に夢香がきた日から早数日、春休みの期間が終了し夢香の入学式の日がやってきた。


 「おはようございます・・豊お兄ちゃん。」


 「おはよう夢香ちゃん。早く寝ぐせを直して身支度してきな。もうすぐ朝ごはんできるから。」


夢香は自身の瞼を擦りながら洗面所へと向かい、豊は手際よく朝食の準備を進めた。


 「やっと目が覚めた。いただきます。」


 「はいどうぞ。入学式って確か10時からだったよね。」


 「はい、そうです。お兄ちゃん来るんですか?大学があるんじゃ。」


 「今は履修登録期間だからまだ授業はないよ。家にいても暇なだけだし入学式参加するよ。一応保護者だしね。」


豊は入学式以降、着ることがなかったスーツを取り出してクリーニングのビニールをとり、部屋着からスーツに着替えていく。パリッとしたシャツを着て、不慣れな手つきでネクタイを締めていく。


 「夢香ちゃんも食べ終えたら着替えてね。後15分後くらいに家出るよ。」


 「はい。」


夢香は残っていた朝食を食べ終え、自身の部屋に着替えに戻った。紺色を基調に水色のリボンがついたセーラー服を身にまとい、必要な荷物を持って部屋を出ると未だにネクタイに苦戦する豊がいた。


 「あれ?どうやって結ぶんだっけ?」


 「お兄ちゃん。こっち向いてください。」


豊が振り向くと、夢香が慣れた手つきでネクタイをあっという間に締めた。


 「おぉ、ありがとね。」


 「いえ、中学はネクタイだったので慣れているだけです。」


 「それ高校の制服?かわいいね似合ってるよ。」


 「あ、ありがとうございます。」


豊のまっすぐな褒め言葉に夢香は少し照れて、顔をそらした。


 「あっもうこんな時間。そろそろ出ようか。」


 「はい。」


家を出る時間となり、2人は歩いて学校へ向かった。約10分程度歩き、学校へ到着した。


 「それにしても本当に女子ばっかりだね。なんだか肩身が狭いよ。」


 「まぁ女子高ですからね。教師もほとんどが女性らしいですし。」


夢香がこれから通う高校は全国的にも有名な女子高だ。部活動がとても盛んで運動部・文化部どちらも優秀な成績を収めている。

さらに、学習環境や学校行事も非常に優れており、通いたい高校ランキングで常に上位に位置している。


 「それじゃあ先に会場に行ってるね。」


 「はい。」


豊は入学式の会場へ向かい、夢香は自身のクラスを確認して教室に向かった。教室にはほとんどの生徒が登校しており、それぞれ交流を深めていた。夢香が自身の席に座ると、隣に座っていた女子生徒が話しかけてきた。


 「あの・・初めまして。このクラスの子だよね。私、水沢藍みずさわあいっていうのよろしくね。」


 「私は日向夢香。よろしくね。」


 「夢香ちゃんだね。夢香ちゃんはこの辺の人?」


 「いや、今までは東北に方に住んでたんだけど、訳あってこっちに住んでる従妹のお兄さんの家に住まわせてもらってるの。」


 「へぇーそうなんだ。」


そうこうしていると、担任の先生らしき女性が教室に入ってきた。


 「おはようございます。まずは皆さん入学おめでとうございます。私の自己紹介はまた後でするとして、もうすぐ入学式が始まりますので体育館へ移動します。私が案内しますので後ろからついてきてください。」


新入生たちは先生の後についていき、体育館へ向かった。新入生たちは体育館の広さの驚いた。市民体育館の倍近く広く、2階席も新入生200名の保護者が余裕もって座れるほどであった。


 「すごい広いね、流石部活動に力を入れるだけあるね。夢香ちゃん。」


 「うん。」


夢香ももれなく体育館の広さに呆気に取られていた。その後、新入生が全員そろい、入学式が始まった。校長先生の挨拶、生徒会長による学校紹介など入学式は滞りなく進んでいき、無事に終了した。新入生たちは教室へ戻っていき、保護者達も一緒に教室へついていった。


 「それでは改めまして入学おめでとうございます。私は、あなたたち1年2組の担任を務めます。佐々木志保ささきしほと言います。担当教科は英語です。これからよろしくお願いいたします。」


その後、先生からその後の行事の予定などの説明の後、その日の学校は終了した。新入生たちはそれぞれ自分の保護者の元へ向かっていったが、なぜかいるはずの豊の姿がなかった。


 「あれ?夢香ちゃん、保護者の方はどうしたの?」


 「さぁ?ホームルームの時はいたんだけどな。どこ行ったんだろう?・・っていた。」


夢香が豊を探しに廊下へ出ると、上級生らしき女子生徒に絡まれている豊の姿があった。


 「お兄さん誰かの保護者ですか?」


 「若いですね。おいくつなんですか?」


 「いや・・あの・・。」


豊は女子生徒たちのマシンガントークと質問攻めに戸惑っていた。それを教室から出てきた夢香たちの担任の先生が止めに入った。


 「あっこら、あなたたち。お兄さん困ってるでしょ。その辺にしときなさい。」


 「は~い。お兄さんまたね。」


女子生徒たちは先生の言う通りに帰っていった。


 「すみません。この学校に若い男性の方はあまり来られないのでテンションが上がってしまったんだと思います。お気をつけてお帰りください。」


 「すみません、ありがとうございます。」


豊はその後、夢香を見つけ駆け寄ってきた。


 「あっいたいた。ごめんね、トイレ行ったら急に話しかけられちゃって。」


 「まぁしょうがないですよ。」


 「隣にいる子はお友達?」


 「あっそうです。今日友達になった藍ちゃんです。藍ちゃん、この人が私の従妹の豊お兄ちゃんだよ。・・って藍ちゃん?」


藍は豊を見つけたまま、目をそらそうとしなかった。


 「えっと・・藍ちゃんだっけ。夢香ちゃんと仲良くしてあげてね。」


 「はい!もちろんです。末永く。」


 「末永く?」


 「藍~。帰るよ。」


 「はーい。それじゃ夢香ちゃん、お兄さんさようなら。」


藍は大きく手を振りながら両親の元へ走っていった。


 「俺らも帰ろうか。」


 「そうですね。明日から学校ですしね。」

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