そんなのじゃ嫌

ゆうさん

第1話 突然の再会

気温も上がり、花粉も多く飛散するようになったある年の春。1人暮らしの男子大学生の部屋の前にいたのは配達員さんでも大学の友人でもなく数回しかあったことのない従妹の女の子だった。


ある春の土曜日の朝。地方の大学の文学部に通っている男子大学生、春菊豊はるぎくゆたかの部屋のインターホンが鳴った。まだ目も覚めきれぬまま玄関を開けると、そこには大きなキャリーケースを持った従妹の日向夢香ひゅうがゆめかが立っていた。

豊は最初、寝起きだったのと数年ぶりの再会で夢香のことがわからなかった。だんだんと目が覚めて、思考が回ってようやく夢香であることに気が付いた。


 「もしかして夢香ちゃん?久しぶりだね。とりあえず入りな。」


 「お久しぶりです。豊お兄ちゃん。お邪魔します。」


豊は夢香を部屋に入れ、コーヒーを入れた。


 「本当に久しぶりだね。最後にあったのが今から4年前だったからえっと・・・今何歳?」


 「今年で16歳です。この春から高校生です。」


 「へぇーもう高校生なんだ。早いね。」


 「豊お兄ちゃんも少し前まで高校生だったじゃないですか。」


 「もう2年も前だよ。俺も今年で20歳だし。それよりこんな大荷物持ってどうしたの?」


 「それなんですが。」


夢香はコーヒーを飲み干し、自身のスマホでどこかに電話をかけた。


 「どうぞ。」


夢香は自身のスマホを豊に渡した。


 「?出たらいいの。・・・もしもし。」


 「もしもし豊ちゃん?久しぶり~覚えてる?」


 「夏美なつみさん?」


電話の相手は夢香の母の日向夏美ひゅうがなつみだった。


 「急にごめんね。ちょっと事情があって夢香をそっちに住まわせてあげてほしいの。」


 「はい?住まわせるって俺の家にってことですか?だめでしょ年頃の女の子が男に家に住むのは。」


 「まぁまぁそんなこと言わないで。夢香も豊ちゃんの家ならいいって言ってるし。それに、さっき言った事情っていうのが元旦那のことなの。」


豊はその一言で大方の事情を理解した。夢香の元父親は夏美と4年前に離婚している。なぜなら、夢香の元父親は当時12歳の夢香を襲ったからだ。幸い、最悪の事態になる前に親戚の人に止められたがこの一連のせいで夢香は男性恐怖症になった。一連の事件の後、元父親は二度と近づかないと書面にサインをして九州まで引っ越し、夢香たちも念のため東北の方へ引っ越していった。


 「は~。事情は大体理解できました。元父親が今夏美さんたちのいる地域に現れたってことでいいですか?」


 「流石豊ちゃん。状況理解が早くて助かるわ。こっちだと親戚の人が誰もいないからもし何かあったら次はどうもできないからね。事態が落ち着くまでお願い。」


 「夏美さんは大丈夫なんですか?」


 「えぇ大丈夫よ。私は自分の身は自分で守れるわ。仕事もあるしね。・・っあ。ごめんもう出ないと仕事遅刻しちゃうから切るわね。夢香をお願い。」


そこで電話が切れた。


 「また大変なことになったな。」


 「すみません。こんなことに巻き込んじゃって。」


 「いや夢香ちゃんは悪くないよ。悪いのはあの人。それより高校はどうするの?夏美さんの所からここはだいぶ遠いけど。」


 「あれ?母が言ってませんか?ここから近い高校通います。保護者も豊お兄ちゃんで登録してるって。」


 「え?初耳なんだけど。夏美さん大事なところ省くからな。」


 「すみません。」


夢香はずっと申し訳なさそうに下を向いている。


 「まぁどうにでもなるでしょ。少しの間だけどこれからよろしくね。」


 「はい。よろしくお願いします。」

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