『香司』 美結

キボウノコトリ

第0話   『香司』美結


初めまして。

香司こうし』の、美結みゆ……と、申します。


香司こうし』と言いましても……

世間で言うところのパヒューマーやフレーバリストといった、化粧品や食品等の調香師ちょうこうしではございません。


わたくしめのお仕事は……

お話をまじえながら、香木こうぼくよりお客様に見合ったものを選別、香りを提供して、お客様に心の満足をしていただくことにございます。


香道こうどうのような高尚こうしょうなものでも、セラピストのような大それたものでもございません。

ただお客様と香りを楽しみ、人生の手助けが出来れば……。そんな想いから日々細々とつとめている次第なのです。


しかし、こうとは本当に素晴らしいものですわ。

白檀びゃくだん』の甘美な爽やかさ。

沈香じんこう』の多彩な表情。

伽羅きゃら』に至っては、あの幽玄ゆうげん音色ねいろが奏でる無常の世界なんてもう……。



こほん……。

これはこれは……、大変失礼致しました。

私、すぐに話が旅立ってしまいますの。


もし、皆様にいとまがおありでしたら、私とお客様の体験談を少しだけお聞き下さいませ。


ただ、わたくしめのこうには……

正式には、香木こうぼくには分類されない、ほんの少しばかり変わったものが多いのでございますけれど……。




それでは……、まずは一人目のお客様のお話……。




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