word3 「将来 ハゲるか」①

 【朗報】何でも検索できるパソコンが、本物だった件――――。


 こんなことって信じられるか――いや信じられない――――。


 謎のパソコンが突然家に現れたなんて……これから毎日、神様のようなことができるなんて…………。


 黒いパソコンが何でも検索できるというのはどうやら本当だった。未来のことでも宇宙のことでも、部屋の中でキーボードを叩くだけで、本当に真実を知れるみたいだ。


 まるで、宝くじの1等を当てたような気分だ。何もしていないのに10億円が転がり込んできたらきっとこんな気分になる。


 いや、その100倍は浮ついているかもしれない。


 事実、この黒いパソコンさえあれば宝くじの1等を当てるなんて造作もないことなのだから――。


 週末の朝……いや、もう12時だから昼だ。目覚めた俺は1番にリビングに行って、机に置かれている黒いパソコンを見た。


 無事に存在が確認できた俺はほっと一息ついて、黒いパソコンを撫でる。頬を当ててすりすりもした。


 正直なところ、こんなチートパーソナルコンピュータを手に入れたことはめちゃくちゃ嬉しい。正直なところ、俺が最もこれを必要としていた人間だと思う。


 正直なところ――。


 実は実は――。


 俺は……完璧な人間ではないからだ…………。


 そう、実のところ……。俺は欠陥がある人間だ。いつも言い聞かせているだけなのだ、完璧だというのは。小さな悩みをいくつも抱えている……。


 例えば――俺は良い大学を出て良い企業に勤めてはいるが、トップではないのだ。もっと超一流の大学を出て、もっと超一流の企業に勤める人間も当然存在する。


 さらに言えば、社長だとか芸能人だとかプロスポーツ選手。俺と同じくらいの年でもそういった職業でバリバリ活躍している人間だっている。


 彼らの収入は俺の数倍なんかじゃきかないだろう、年収何億と稼いでいるはず。比べると劣等感を抱いてしまう……。めちゃくちゃ羨ましい……。

 

 恋愛にしたってそうだ。俺は学生時代からそれなりにしてきた。決して嘘じゃないけれど、実は「してきた」という過去形なのだ。


 ここ数年の間、彼女がいない――。彼女いない歴は3年半ほどになる――。


 今住んでいるデザイナーズアパートも、所詮は外見が良いだけのアパート。機能面は大したことない。駅まで歩くのも12分くらいかかるし、隣の部屋との壁も厚くない。


 外面はきちんとしているなんてまるで俺みたいだし、愛着も開いてきたが、できればもっと良いところに住んでみたい――。


 性格は誠実で自信があるように他人の前では振舞っているけれど、本当の俺は小心者でネガティブだ。


 たまに自分のあらゆるところを肯定して、完璧だなんて言い聞かせているが、そうしないとやっていけないだけで全く完璧だなんてことはない。毎日酒を飲まないと、ストレスで押しつぶされるだろう……。


 あとは、汗っかきだとか……けつ毛が長いとか……ち〇こが小さいとか……そんな悩みもある。


 頭の中で現状を整理していた俺は、辛くなってきて肩を落とした。上半身の力が抜けてしまったみたいで、首の力も抜け頭も垂れた。自らの股間を見ながら、吹きかけるような溜め息を吐く。


 正直なところそうなんだ……俺にはたくさん、もっとあの人みたいにこうだったらと思う部分がある。


 もちろん比べたってしょうがない。自分より社会的に下の人間だってたくさんいるのも理解しているし、その人たちはもっと大きな悩みを抱えているかもしれない。


 でもそこそこエリートには、そこそこエリートなりの悩みが……内容は小さいかもしれないけど、そこそこ多くある。中途半端に上の世界を知ってきたから余計に多くの悩みが生まれていると自分では思っている。


 人並み以上に手にしてきたというのも本当だけど、何と言うか高水準に普通で、あらゆる面で誰かに負けてしまっている気がするんだ……。

 

 そして、何より深刻なのが……我が肉体の“おじさん化”である……。


 俺はもうそろそろ28歳になるが、最近自分の体の劣化をひしひしと感じる。体力的に衰えていて、走るとすぐ疲れるのはもちろんのこと、食生活は変えていないのに腹に脂肪が溜まってきたし、尿切れが悪かったり、体から加齢臭みたいな匂いがすることがある。


 中でも恐ろしいのが抜け毛が増えていることだ。数か月前から急に抜け毛が増えた。今のところ見た目に変化は無いが、もしかしたら将来俺は…………。

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