それぞれのフィールド
ブレずに
何の権限もないのにとりあえず意見を述べようと常に考えている実桜。チアリーディング部としての活動として大会に出場をするだけでなく、運動部の試合に応援に行って応援をする。会場に華を添えるのも大事な役目だと感じる。
メインは当然だが、チアリーディングの夏の日本選手権と冬の全国高等学校選手権で人数が揃ったことにより大会にエントリーをすることが出来たが、最下位が定位置となっていて結果が出ないことでモチベーションを保つのも大変。だけど、誰も下を向く者はいない。
「前回の大会よりも、昨日よりも自分たちは上手くなっている。勝ちたい、優勝したい気持ちはみな同じ。だけどそれ以上に観に来てくれている方や審査員に心に残るパフォーマンスをしよう」
これが福山実業高校チアリーディング部のモットーであった。
いかに自分たちの求めるパフォーマンスを追い求めつつ結果を出す。難しいことだと実桜を含め、チアリーディング部全員がそれを実感をしていた。
新メンバーも含め、全員でチアリーディングとは何か。大事なことはなにかと部活後に全員が残ってミーティングというほどではないもののたまにはと杏華先輩が言い出す。思っていることは何でも言って、先輩とか入りたてとか関係なくどしどしと意見を出そうとホワイトボードを運ぶ。
意見がある人はホワイトボードに書いていき、全て出切ったところで杏華先輩がスマホで写真に撮るからと先に伝えた。部員同士、顔を見つめ合いだれから話すか
何も言わずに立ち上がるモモちゃん。ホワイトボードの前に立ってペンを取って何かを書き始める。そこにはこう書かれていた。
「チアリーディングとは何か。ワザによって飛ぶ人がいれば、それを受け止める人がいる。だからこそお互いを信頼する必要があり、どちら側もタイミングが狂えばケガをする可能性がある。だからこそこの仲間たちならと自分を
それを聞いた部員全員、時間が止まったように時間が止まる。モモちゃんの話を聞いて頷いて確かにその通り、ケガをしたくてする人などいないが不測の事態だって有り得る。もう少し難しいワザに挑戦するかという話になる。
実桜を含め、頭を悩ませる。考え自体はいいことだし、新しいことをするということはケガのリスクにも繋がる上、果たして今のパフォーマンスを維持をする。いや、それ以上の物が出来るのかと未知数だった。
他力本願とは決して言わないが全員が杏華先輩の顔を見てお伺いをたてている。自分たちがやりたいと思っていても最後に決めるのはキャプテン。それについて行くだけだとそこに関してはブレずにいた。
「よし、全員リセットの気持ちでやろう。適性を見た上で決めるから今まで以上に大変になるだろうけど声をかけあって頑張ろう。ケガだけは細心の注意を払うように」
こうして試行錯誤の日々が続くことになる。
応援する側として
自分たちが勝つためにパフォーマンスをするのは当然だが、それ以外にも他の運動部で試合に応援に行くこともある。その時に他とは違う何かをしたいと考えている実桜であった。
自分たちの出場するチアリーディングでは細かく規定があるものの、それ以外なら基本的に規定などがない。だからこそ対戦校と差別化をしたいとぼんやりと考えてはいるものの、もう少し考えが固まってから言おうとしていた。
ある日、テレビで受験に向けてハチマキを巻いて鼓舞をしている姿を目撃をする。実桜にとって受験はまだまだ先のことだが、なぜか全員同じ白いハチマキに疑問を持つ。統一感としてなのか、どういう理由なのか分からない。
ハチマキを白で統一するのもいいかもしれないが季節感を出すのもいいのに、そう呟いていると実桜の頭の中に何かを
翌日、授業後に部室に行くと杏華先輩が着替えていた。挨拶をした上で着替え終わってから話があると伝えていた。
着替え終わって杏華先輩を探すが中々見つからず、どうしようかとひとまず先に練習場に向かって体育座りをして待っていた。すると前に使ったホワイトボードを持ってきてここに書くようにと促された。
「運動部の試合で応援に行く際、チアリーディングの衣装だけでなくて季節感を出すためにそれぞれの季節で色を変えて巻いてする」
次第に部員がやって来て唐突に置かれているホワイトボードを眺め、何事かという表情でいる。最後にモモちゃんがやって来たところで練習前に話があると杏華先輩が仕切ってくれてこのテーマについて話すこととなった。
春夏秋冬、それぞれの色合いやイメージ。急に言われてポンポンと出てくることはないだろうと提案していた実桜自身が半ば諦めていた。
春は桜があるからピンク、夏はまっさらの空の青、秋は紅葉があるから赤や黄色、冬は雪の白色、サンタの赤色と思っていた以上に意見が出てそのまま決定をした。
実桜の意見が採用され、ハチマキの色が決まったが果たして使う日が来るのだろうか。
奮闘
チアリーディング部として中々結果が出ない。新しいことを取り入れて精度を上げているものの、他の高校も同様に高いパフォーマンスをしていて自己最高点を出しても最下位を脱するのがやっとだった。
それとは反比例するように運動部の活躍が際立つ。実桜やモモちゃんと仲のいい万里男君がいる野球部は春夏共に甲子園常連であり、それ以外にもバレー部、バスケ部、サッカー部を筆頭に県内では決勝常連で毎年、今年こそは全国大会出場すると周りから言われているほどだ。
可能ならば全部の部活、全試合に応援に行きたいが日程によっては同日同時刻に行われることもある。チアリーディング部の人数が増えたと言っても10人しかおらず、それぞれ分かれて応援するかそれとも片方だけにするかはいつも試合前日には議論になる。
基準としては会場の収容人数で決め、それを杏華先輩が各部活のキャプテンに伝えることもある。全てを任せっきりにするのはよくないと他の部員で出来ることはそれぞれ行っていた。
ある日、午前中にバスケ部の決勝でチアリーディング部員全員で観客席から衣装と白色と赤色のハチマキを付けて応援をし、勝利をしてウインターカップ出場を決めた。午後にはバレー部の応援に向かって午前中と同様に応援をし、優勝をして春高バレー出場を決めた。
バスケ部は初のウインターカップ、バレー部は春高バレー出場に同じ学校に通っているものとして誇らしい。勿論やっている選手たちの結果だが、そこに応援という形で携われたのは嬉しい。制服から衣装、衣装から制服と着替えが大変な日であったがそこまで苦にはならなかった。
年が明け、1月末日に学校に行くと選抜高等学校野球大会出場決定という垂れ幕がある。実桜はそれを見た瞬間、甲子園でパフォーマンスが出来る。福山実業高校センバツ連覇に貢献をしたい、1年生の夏から主軸として活躍している万里男君は試合に出るのかと気になっていた。
球場をもっと華やかにしたい、誰よりもその思いが強い実桜はもっと部員を増やしたいと考えていた。校内で会う女の子全員に声をかけて頭を下げるでもいいが、それをすると怖がられるし先生に怒られそう。
とりあえずモモちゃんに部員を増やすにはどうしたらいいかと尋ねた。
「ツイッターやインスタグラムで今年に載せた写真や動画、去年の甲子園でアルプスからの応援した先輩たちの動画をツイッターの引用ツイートやインスタグラムのストーリーに載せてみるとなもいいかも知れないよ」
引用……ツイート?ストーリー?何それと言っていることが何も分からない。再びモモちゃんに聞き直そうとしたらその場にはいなかった。
自分で調べろと言うことだと勝手に解釈をして家で引用ツイートとストーリーについて調べることにする。引用ツイートは元々あるツイートや写真、動画を使って改めて引用することによって知らせる目的。
インスタグラムは基本的にフォローしている人が24時間限定で見られるもので写真と文章を打ち込むことが出来るものらしい。こんな小難しいことを同じ世代の女の子たちはやっているのだと思うと尊敬したくなるレベル。
自分の部屋でチアリーディングの衣装に着替える実桜。鏡越しで自分の写真を撮った上で自分もこの衣装を着て甲子園でパフォーマンスすると昨春の甲子園でパフォーマンスした先輩たちの引用ツイートしつつ載せる。
同様にストーリーを載せるために実桜自身の写真とこれで甲子園でパフォーマンスをすると載せる。ツイッター、インスタグラムの両方で載せた実桜は疲れ果ててお風呂に入る。
寝ようかなとアラームをかけようとするとひっきりなしに通知がやってくる。同校の女の子が期間限定や兼部でもよかったらと何人もコメントが寄せられていた。ひとまず宣伝効果があったことを杏華先輩に個人ラインで送る。
これが世の中の言うバズるってやつなのか。ホント使い方を間違えたら大変なことになると実感をしていた。
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