気がつけば
いつもの年よりも
大晦日が過ぎ、年が明けた。夜中まで眠い目を擦ってあけましておめでとうございます、そう言って寝るのが毎年の風物詩となっていた。万里男君にメールで伝え、日本にいるモモちゃんにも送る。時差があって同じタイミング、とはならないもののトロントでも年を明けたことを伝える意味合いを込めて送る。
モモちゃんと毎日のようにメールをし合っていたのにパソコンを開くのもメールを送るのも久しぶりのような気がする。万里男君の練習や試合を観に行くだけでなく、練習相手にもなって中々時間を割けずにいた。
万里男君が少年野球チームで頑張っていることを伝えたく、練習や試合で頑張っていることもメールで伝える。時差があるため、夜になってまたパソコンを起動して見ると万里男君も実桜ちゃんも元気そうでなりより、また何かあればいつでも連絡してきて欲しいと返信があった。
翌日、モモちゃんからメールが届いて水色の振袖を着て神社に
モモちゃんの着ている振袖かわいいし、神社近くには出店が出ているのか、トロントのみならず、カナダにはそのような文化はないと両親、そして万里男君から伝えられる。
少し残念な気持ちでいる実桜だがないものねだりしても仕方ないといつも通り生活をする。その中には万里男の練習や試合を観に行く、自主練を付き合うことも含まれる。そうしている間にひと月があっという間に過ぎていった。
2月に入ると大寒波をカナダのトロントを襲う。観光客は圧倒的に冬よりも夏の方が多くて冬のカナダは寒いというのは周知されている。だが最高気温が氷点下の日も当たり前で外に出るのも
この中でもお構いなしにベースボールの練習や紅白戦は行われるが窓の外を見ると自転車でグラウンドに向かう万里男君の姿を部屋から眺める。いつものように一緒に自転車で行っていたグラウンドにも行かなくなっていた実桜。
ずっと家にいても仕方ない、晴れの日にまたグラウンドに行こうと決心をするが雪の日が続き、酷い日はホワイトアウトで前も見えない日もあった。
2月14日、いつもよりも寒さが和らいで雪も降っておらず自転車でグラウンドに行けそうと判断をしてジャージ姿で途中でお弁当を買ってから向かう。久しぶりで万里男君だけでなく、他の選手も実桜のことを覚えているか心配でいた。
グラウンドに着くとみんな声をかけてくれた。
「実桜ちゃん、久しぶり。しばらく顔を見ていなかったから寂しかった。今年の冬は寒波で寒いけど風邪引いていないか」
まるで自分の妹のようにみんな実桜のことを心配してくれていた。何もしていないし、グラウンドの外で練習や試合を観ているだけの実桜をまるで少年野球チームの仲間のように受け入れてくれていることにホント嬉しいし、このチームのために実桜も何かしたいと思うようになる。
そう思っているとはいえ、何も準備をしておらず貢献出来ることは何かないかを考えながらこの日の練習を見つめていた。結局何も見つからず練習を終えるとみんなからカモンカモンも実桜を呼ぶ声が聞こえる。
「いつも練習や試合を観に来てくれてありがとう。迷惑でなければこれからもずっと来て欲しい。大会に出るようになったら毎試合来て欲しい、僕たちの勝利の女神になって欲しい」
英語でそのように書いてあって泣きそうになったが涙を
突然増えることになった色紙とチョコレート、この重さは実桜のために万里男君を始め少年野球チームのみんなが実桜のことを思ってくれてのことだなといつもよりゆっくり家に帰って行った。
万里男君と家の前でバイバイをし、もらった色紙と沢山のチョコレートを家に持って入る。これでしばらくチョコレートには困らないなと手を洗って食べようとしていた実桜であった。すると玄関の外から叩く音が聞こえる。
玄関を開けるとそこには万里男君が立っていてチョコレートを渡しに来てくれた。日本では女の子から男の子に渡すが、実桜の住むカナダでは逆で男の子から女の子に渡すのが習慣みたい。
実桜はありがとうと言うと万里男君は帰って行った。もらい物に文句をいうつもりなどないがさっきもチョコレートをもらったのにまたチョコレートなのかと思ってしまう。
だが、万里男君からもらったチョコレートは果たしていくらしたのか聞かずには言えないくらい高そうな雰囲気のする箱で開けるとハートや星の形をしたかわいいチョコレートだった。カメラでチョコレートを撮って記念にする。
それだけではもったいないと思ったのかモモちゃんにも箱とかわいいチョコレートを万里男君からもらったよとメールで送る。翌朝、モモちゃんからメールが届く。
「実桜ちゃんと万里男君って付き合っているの?」
このメールにはどう返していいか分からず、とりあえず仲のいいお友達だよと返信するので精一杯。少年野球チームの子たちからガールフレンドとか言われてもまさかモモちゃんから
羨ましい
4月上旬、モモちゃんから届いたメールを見て目を輝かせていた実桜であった。それは中学校の入学式で校門の前に舞う桜と黄色と白のかわいい制服を着ているモモちゃんの姿に。そこ制服はまるでディスカウントストアに売っていそうな感じで日本にはこんなかわいい制服があるのかと。
「かわいい制服だね、モモちゃんとっても似合っているし桜が舞う感じが映えているよ。ところで今、日本のどこにいるの?」
日本にいることは知っていたものの、具体的に日本のどこに住んでいるとかまで詳しくは聞いていなかったし、どこの学校の制服なのか単純に気になったというのもあった。
翌朝、返信が届いてメールを開いてみる。
「今は
広島県って所はレモンが有名なのか、もっと何が有名なのか気になって検索をすると海のミルクとも言われる
かわいい制服を着て学校生活を送るってどういう気持ちなのかな、授業後に毎日のようにゲームセンターに行ってプリクラを撮っては友達と色々なところに行って写真を撮るような日々を過ごすのかなと自分がモモちゃんの通う福山中央学園中学校に行ったかのように妄想していた。
日本人学校について高校がないことを知った実桜。日本人学校に通えるのは中学校までの残り数年、高校は現地の学校に通うかまたは帰国子女として日本のどこかの学校に行くかどちらかしかない。
既定路線は現地の高校に通うことになるが、お父さんの転勤があれば日本の学校に通えるかもしれないがこちらは実桜がどうにかして出来ることではない。こればかりは運としか言いようがない。
何はともあれ実桜が出来ることは高校は現地の学校に行くことを前提に死ぬ気で英語をやっておかないととんでもない事になりそうな気がして仕方なかった。
仮にお父さんの転勤で日本に行ったとしても英語の呪縛から抜け出せるわけではない。やっておいて損ではないと悟っていた。
その頃、万里男君はあることを考えていた。それはいつ、何があってもいいように特注で内野手用のグローブだけでなく右投げ用外野手グローブ、左投げ用外野手グローブ、キャッチャーミット、ピッチャー用グラブは右投げでも左投げ用でも出来るような専用のグローブをコーチに欲しいとお願いをすると経費で作ってくれることを容認してくれた。
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