振り出し

期待と不安

泣き虫実桜ちゃんを卒業したと豪語していた実桜。小学校では沢山勉強して沢山お友達を作って遊ぶのと家族に話していた。何かあれば泣いて不安そうな顔をしていた姿はなくて明るく笑顔でいた。


日本とは違ってカナダの年度は9月で入学式だけでなく、給食という制度がないために毎日お弁当を作らなければならないことに日本人のお父さんは驚いていた。それ以外にもプリントや授業で使うものは学校に置いておく、ランドセルがな、ロッカーが無いなどがある。

日本ではお馴染みの運動会もある所はあるくらいでどこの小学校でも行なっているわけではない。


入学初日、スクールバスで学校に向かった。

実桜自身、そして家族全員が小学校で上手くやっていけるのだろうか、イジメがないだろうかと悩みは尽きない。両親とも実桜に何か些細なことでもあれば言うようにと口酸っぱく言おうと考えていた。


初日を終えて実桜は不安を口にしていた。

「クラスメイト、実桜以外の子は白人の子がいなかった。もしかしたらイジメられるかもしれない」


その話を聞いて父はどこにいっても人種差別がある。それは子供だけでなく、大人の中でも平気であるからこそ心配をしていた。何かあればいつでも対処出来るようにと心づもりでいた。


数日、数週間、数ヶ月と学校生活が進む中で実桜からいじめられているという話は一切聞いておらずひと安心。だがホントはいじめられているけど親に心配をかけないようにしていることも無きにしもあらず。


その時が来た時にスグに対処出来るようにと常に何をしたらいいのかと考えていた。カナダの学校教育、そしてイジメはどうなのか、対策はどうなのかと調べていた。


特にイジメられているといった話を聞かない一方で学校でこういったことがあった。今日はこれが楽しかったと言った話も全く聞かないため逆に不安になる。仲のいいお友達が出来たよと聞けばまた安心なのになと呟いていた。


テストが返却されて点数が良くても悪くても決して叱ると言うことは両親はしなかった。テストで何が出来て何が出来なかったのか復習して次に活かそう。復習もしつつ予習もして大変だけど次は頑張ろうと励ましていた。


新学期になったら隣に座っていた子がいなくなることも珍しくはない。それはカナダにある小学校が公立であるため、素行不良で退学という訳ではなく飛び級で義務教育過程を終えている子や大学を卒業してしまう子もいる。


飛び級制度自体は日本人のお父さんは知っていたが愛娘の通う学校でもそういう子がいるとは思いもしなかった。だからといって部屋に缶詰にして勉強を強要して飛び級しようねなんて決して言わないしさせるつもりも毛頭ない。


進級してちゃんと卒業をしてくれればそれでいい。その上で何か自分で学びたいと思えるものがあればそれを突き詰めてもらえればいいという考えだった。


あくまでも勉強よりも自分の好きなことをやり通すことの方が大事なのかなという方針であった。


恐れていた

何とか事なきを得ることなく、落第することもなく無事に進級をして新学期を迎える。日本の小学校とは違い、何年何組というものはなくスプリットクラスといって2つ以上の違う学年が勉強する制度が採用されていた。


これには上の学年の子が下の学年の子を教えることによって勉強をインプットしてアウトプットするだけでなく、困った時に助け合う環境や協調性を育むためでもある。


学校に行く前から年下の子と遊ぶことも少なくなかった実桜にとってはお姉さんとしてしっかりしよう。勉強以外でも悩んでいることがあったら親身に話を聞いてあげようと考えていた。


新しい子たちは白人は誰もおらずまたしても孤独のような気持ちでいた。肌の色で人を決めていけない、だからここにいる全員と仲良くしようとしていた。


だが実際はそうではなかった。

まだ学校に通い始めた子から指を刺された。

「ホワイト、ホワイト」

連呼をされるが年下の子が言うことを気にしていてはままならないと軽く流していた。


カナダでは白人の割合が多い統計があるとテレビでやっていた。関わらずなぜか実桜の住む地域はそうではない。家に帰って割合や統計について家族に尋ねるとカナダという国ではそうかもしれないけど、地域まで細分化するとそうではないと伝えられる。


なんだろう、もしイジメにあうならば年上か同級生だと勝手に思っていた。年下の子から指を刺されたのはあくまでも珍しいからだ。慣れればそう行ってくる人もいなくなるだろうと心の中で勝手に思っていた。


家族からは何かあれば言おう。だけどただ揶揄からかわれただけでこれがヒートアップしたら言おうと決めて寝床についた。勉強することもイヤじゃないし、学校に行くのもイヤじゃないと自分に言い聞かせていた。


数日間は言われていたものの徐々に実桜のことについて何か言ってくる年下の子はいなくなっていた。これで安心と思っていた時だった。


お弁当箱を出して手を洗いに行こうと机を離れ、戻ると勝手にお弁当箱が開けられていておかずがなくなっていた。それも大好きな甘い玉子焼きがない、その光景を見て芽から涙が出てきて人目をはばからず泣いてしまった。


教室にいた全員が実桜の方を振り向いた。すると周りの男の子が泣いている実桜を差して嘲笑あざわらう子が何人もいた。


とりあえず持ってきたハンカチで涙を拭って今日だけだ、偶然食べられたに過ぎないと自分に言い聞かせた。流石に何日も続いたら家族に相談しよう、平静を装って家の玄関を開ける。


いつもと同じ表情でいないと気づかれるといつも以上に緊張をしていた。バレないように、バレないようにと心がけていた。明日は何もありませんようにと祈りつつ晩御飯を食べて翌朝を迎える。


翌日は学校に行くとお弁当箱を隠されるだけでなく、行方不明だったお弁当箱の中身は全て空っぽになっていた。実桜のお弁当なのに全く食べることはなかった。


実桜が誰かに何かをした覚えは全くない。なのにどうして空腹のままお昼からの授業を受けることになる。何も食べていないからなのかお腹は鳴るし、全然集中出来ない。まだテストまで時間はあるが今の現状だと成績が下がることは言うまでもない。


テストの成績を見てから家族に言うかどうするかと考えるようにしていた。家族にはなるべく迷惑をかけたくないというのが実桜の考え。小学生ながら両親には心配をかけないようにと考えていた。


最初にイジメをされてから数ヶ月が経ち、分岐点はどこだったのかとふと振り返る。年下の子からホワイトと言われた時だろうか?それとも大好きな甘い玉子焼きを食べられた日だろうか?考えても分からない。


好きだった学校もまた何かイジメをされるのではないかと思うと段々と億劫になっていた。けど転校するとなると手続きが必要だし、私立に行くとなるとお金もかかる。お金のかからない公立に行くにしても同じ州で受け入れてくれるだろうか。ダメなら引越しとなるといくらかかるか見当もつかない。


俯いていては気づかれる、自分は何も悪いことをしていないのに家族に偽らなければならないのが苦しい。泣いたりしたら間違いなく何があったのか聞かれると引きつった笑顔が増えてきて学校は楽しいと自分から言っていた。


他にも意識していることは寝言で呟いてもバレるのではないかと思うと中々寝付けない。毎日寝不足気味で学校に行くからテストを受けるのが怖くて仕方ない。


このままでホントに大丈夫だろうか……。

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