「何気なく」
「お兄ちゃん?」今年最後のプールサイドにヘタって春見(かすみ)と妻の姿を追い掛けて居たとき不意に若い声がした。
振り向くと未だ二十歳代の女性が俺を見て佇んでいた。「誰?」西陽に左半分だけ照され右半分が暗くて視認出来なかった。多分ビキニの似合う容姿だろう。
「二股千絵(にまたちえ)よ、チ・エ。」冴えない大原輝の逡巡は3秒で終わった。
そうか!分かった。面影はある。元カノのいや、彼女に為り損ねた直美(なおみ)の連れ子の千絵(ちえ)!?
あれから25年くらい経つ。あの頃は8歳だった。可愛らしい女の子で素直な良い子だと思っていた。どんな修羅場を潜り抜けて来た?そんな顔をしている。「久しぶりやん。飯でも食いに行こうか?」「お兄ちゃん・・・奥さん居るんじゃ無いの?」心配顔をしてこちらへ近寄り尻をペタンと着けて座った。水着はまだ濡れていない。髪の毛も。「泳ぎに来たの?」
「内のは、気にしなくて良いよ、明日別れる。」
千絵はヘエ、とだけリアクションは少な目に応答していた。「何を言ってるの!?離婚?恋人同士?」目玉が飛び出るくらいに驚いていた。「反応が遅いよ!丁度お前らの事情がある。寿司食いに行こうか?回っているヤツ。」
「スシクチーね?」千絵は嬉しそうに振り向き笑っていた。
「アホか、変わらんな千絵は?」
「スシローじゃ!」
25年前からアホを引きずっている。
「うわあ!」人差し指をピン!と立て時計回りに回した右腕のベクトルは孝の目の前に居た3人の子分が吹っ飛んだ!パワーは間違いない!「よし、完成や。」不敵な笑みを浮かべた八束孝(やつかたかし)は、探偵団の隊長で、5人の子分を引き連れていた。
だから・・・。
喧嘩を売られたら隊長が全面に立つ!
子分達に背中を押されたからだ。
眼前の敵は国松充(くにまつみちる)だ。
「お前が大将か?弱そうやのう。」不敵な笑みを浮かべる相手に人差し指をピンと立て時計回りに回したブーン!ブンブン、ブーン!あれ?
「何しとん?」え?いや待って。横を向いて脚を踏ん張りブーン!ブーン!ブーン!
ハアッ!ハアッ!ハアッ!息が上がっていた。
何で飛ばん?アホかおまえ。
そう言いながら隊長の首を締め上げ、「弱いのう!」と言われ、ゴホッ!ゴホッ!ゲホ!
「止めたり!しばくで!」孝は救われた。
救世主は高橋直美だった。
涙が流れ「孝ちゃん泣いてる!」の声に何で飛ばん?と、子分に問い質した。「そんなん嘘やん!信じてたん?アホやあ!飛ぶわけ無いやろー!?」アハハハ!
アハハハ!アハハハ!
孝を取り囲んで笑い者にしていた。
悔しくて、悔しくて「あるわけ無いもんな・・・。」一人寂しく裸の王様だった孝自身を反省していた。
逃げるな しおとれもん @siotoremmon
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