第17話 アナザーワールド 11 扉
「ふにゃぁ……。」
思わず声が漏れる……が仕方がない。
それだけニャオの胸は気持ちいいの。
ニャオに助けられ、ギュッと抱きしめられてから結構な時間が経っていると思うけど、私はまだ顔をあげられずにいる。
護るべき相手を護れないどころか逆に助けられるなんて……。
情けなくて顔をあげることが出来ない……決してニャオのふかふかから離れたくないってわけじゃ……ない……はず?
「えっと、リオン、大丈夫?」
「だいじょばない……。」
私はクレアの質問にいやいやをするように答える。
「聞いた?今の聞いた?甘えたリオンちゃんだよ?きゃわわ~。」
ニャオの琴線に触れたのか、更にギュッと抱きしめられる。……ちょっと苦しい……でもしゃーわせ~……。
「でも何でリオンちゃんこうなってるの?」
「情けなくて落ち込んでるんだって。」
ゆいゆいの問いにニャオが応える。
「でもね、無理しなくてもいいんだよ。」
そう言いながら私の頭や背中を撫でるニャオ。
「でも、ニャオとクレアは絶対守るって決めたのに……逆に助けられるなんて……。」
私はニャオの胸に顔を埋めたまま、ボソッと呟く。
「だから、一人で頑張らなくていいの。私がピンチの時はリオンちゃんが護ってくれる。逆にリオンちゃんがピンチの時は私が助けるの。パーティってそういうものでしょ?」
ニャオがよしよし、と頭を撫でながらそう囁くように言ってくれる……ダメ、この優しさに甘えて埋もれていたくなる……。
「ぉい、今聞き捨てならない事、言いましたね。」
ゆいゆいが、私の肩を掴んで、ニャオから引き離す。
あぁ、もうちょっと……。
「ニャオとクレアは……って、私が入ってないんですが?」
……ふぃっ!
「こらぁ、なぜ顔をそむけるっすかっ!」
顔を両手で挟まれ、くいっとゆいゆいの正面に向けられる。
「だ、だって……。」
「だって?」
「ゆいゆいはネタ要員だしぃ。」
「うがぁっ!なんすか、その扱いはっ!」
ゆいゆいのお陰で少しだけシャキッとできた。
今は落ち込んでいる場合じゃないよね。
待遇の改善を要求する!と喚くゆいゆいを置いといて、私はニャオに視線を向ける。
「それで、ゴブリンの洞窟の方はどうなったの?」
「うん、ソレなんだけどね……。」
ニャオの話では、洞窟の奥の方に巨大な気配がしたので、確かめに行ったら、ゴブリンキングらしい個体と、その周りに、ゴブリンジェネラル、ゴブリンエリートと言った上位種がいて、ホブゴブリンやゴブリンたちを使役してたらしい。
流石に魔法の援護なしで飛び込むわけにもいかず、洞窟の外へ戻ってきたところで、アルちゃんから、私達が捕まっていることを聞いたという。
「でね、入口の瓦礫のせいで、こっち側には来れないみたいなんだけど、こっち側に興味がないのか、気にした風はなかったよ?」
「そうか、じゃぁ、こっち側にいれば安全ってことだな。」
ニャオの言葉を聞いたマコトがそんな馬鹿な発言をする。
同じことを思ったのか、ミーネ以外の全員がマコトに冷たい視線を向ける。
「な、なんだよ……。」
皆からの視線を受けてたじろぐマコト。
「アンタバカなの?私達が何でゴブリンの巣穴に飛び込んだと思ってるの?」
ソーニャが呆れた声で言う。
「なぜって……。」
理由に思い至ったのか、マコトは黙り込む。
「つまり、そのゴブリンキングとやらを何とかしないといけないってことよね?」
クレアが確認するように聞いてくる。
「………。」
「えっと、リオンちゃん?」
ずっと俯いて黙り込んでいた私を心配するように、ニャオが顔を覗き込んでくるが……。
「……クックック……ゴブリンキングね……。」
「ちょ、ちょっと、リオンちゃん、怖い顔になってるよ。」
「クックック……ちょうどいいわ。」
私は、ユラァと立ち上がり、ゴブリンの巣穴に向けて歩き始める。
「リオンちゃんっ、どこ行くのっ!」
「ちょっとゴキブリ……じゃなかったゴブリン退治に行ってくる。」
「ちょっとって……相手はゴブリンキングなんだよ?他にもたくさんいるんだよ?」
「大丈夫、今度こそニャオとクレアを護って、無事に帰すから。」
そんな事を言い合っているうちに洞窟の前に辿り着く。
元々、それほど離れていたわけじゃないから、時間がかかるわけがなかった。
「クックック……
「あ~、リオンちゃん、ゴブリン相手に八つ当たりする気なんだぁ。」
背後でゆいゆいがそんな事を呟く。
「八つ当たりって、そんな、まさか?」
……そこ、うるさいよ。大人げないって言われても、この怒りをどこかにぶつけないと気が収まらないのよ。
「行くよぉ、『
勢いのある爆風が洞窟を塞ぐ瓦礫を貫き爆散させる。
邪魔なものが無くなったところに火焔が渦巻きながら飛び込み、内部で大爆発を起こす。
「まだまだぁ!『トルネードカノン』とぉ『イグニスファイアー』!ついでに『メイルシュトローム』!」
洞窟に向けて極大魔法を次々と撃ち込む。
触れるもの全てを切裂く暴風が洞窟内を蹂躙し、衰えることを知らない灼熱の火焔がすべてを燃やし尽くす。そこに加わる渦巻く大量の水が、その場の熱気によって一気に水蒸気となり大爆発を起こす。
「うっわぁ……派手だねぇ。」
「それより、これだけのことをしても洞窟が崩れない事の方が驚きだわ。」
「って言うか、燃えてる、燃えてるよぉっ!」
爆発の余波が洞窟の外まで影響し、周りの木々に炎が燃え移る。
「リオンちゃん、やりすぎだってっ!ほら、周りまで燃え始めたよっ!」
「そぉ?じゃぁ消すね。……『アブソリュート・ゼロ』!」
魔力が辺り一面に広がり、洞窟及びその周辺を凍らせていく。
数秒後には、見事なまでの樹氷の景色が眼前に広がることとなった。
「ふぅ、ちょっとスッキ……リ……。」
ぱたっ。
私はその場に倒れ込む。
「あわわっ……。」
地面に倒れる寸前、近くにいたニャオが私の身体を抱き留める。
「リオンちゃんっ!」
「大……丈……夫……ただ……の……魔……力枯……渇……。」
私はそのまま意識を失った。
◇
「……だからっ、魔力枯渇を起こすまで魔法使うなんて何考えてるんですかっ!大体、オーバーキルもいいとこですよっ!見てくださいよっ、まだ溶けてないじゃないですかっ!」
くどくどくどくど……。
ゆいゆいのお説教はいまだ終わる様子を見せない。
ここは、ゴブリンの巣の中央。ゴブリンキングたちがいた場所なのだが……。
「……聞いてますかっ!」
「……聞いてます。ついカッとしてやりました。反省も後悔もしてません。」
「しなさいよっ!」
……でも仕方がないじゃない。大規模な魔法を使って私もスッキリ、ついでにゴブリン討伐も出来てWin-Winじゃない?
そう言ったら、ゆいゆいの怒りに油を注いだようで、お説教がさらに激しくなった。
そしてかれこれ1時間……。
ゆいゆいのお説教のせいで精も根も果てた私は、なぜかクレアに抱っこされていた。
「一度、やってみたかったのよねぇ。」
そう言ってにっこり笑うクレアを前にしたら、何も言えなかった。というより、まだ回復しきっていないため、抵抗する力もなかったのだけど。
……これは益々バレるわけにはいかないよねぇ。
クレアに抱っこされ、ニャオの胸に顔を埋め、更には三人と一緒にお風呂に入った……うん、
「でも、よくあんな大規模な魔法が使えたわね。」
クレアが感心しながら言う。
「うん、なぜか使えた。」
どうして使えたのかは私にもわからない。
USO準拠で行けば、私は各種属性の魔法が使えるけど、各種属性を取っているため、使えるのは、まだ初級魔法だけ……の筈なんだけど。
そう考えると、やはりUSOをそのまま当てはめるには無理があるという事で、いよいよもって異世界転移説が真実味を増してきたのだけど……。
「『ストレージ』なんちゃっ……て、えぇっ!」
ゆいゆいの驚いた声が洞窟内に響き渡る。
「どうしたのっ?」
あわててかけよるが、ゆいゆいはアワアワしていて、言葉がはっきりしない。
仕方がないので側にいたニャオに聞いてみる。
「えっとね、よくわからないんだけど……消えちゃった。」
「消えたって何が?」
クレアの言葉に、ニャオは黙って指をさす。
私たちは一斉にそちらを見ると……そこにあったはずの氷漬けになったゴブリンキングの姿が無くなっている。
「いったい……?」
「あ、えーと、なんか、収納魔法が使えるみたい……。」
少し困った表情でゆいゆいが言いながら、虚空からゴブリンキングの像を取り出す。
何でも、ゴブリンキングの氷像を見ているうちに「持ち帰れたら楽しいだろうなぁ」とおもい、ラノベでよくある『ストレージ』が使えないかと、軽い気持ちで口にしたところ、実際に使えたという。
「『ストレージ』……ハァ、使えるようね。」
私達は、ゆいゆいの言葉を聞いた後、各自試してみる。
結果、すぐに仕えたのは私とニャオ、何回か試して使えるようになったのがミーネとマイナさん。クレアとソーニャ、そしてマコトは使うことが出来なかった。
「どういう事だろうね?」
「うーん、容量は魔力量の差だとして……。」
ゆいゆいはゴブリンキングとゴブリンエリート4体を入れても、まだ余裕はあるという感じ、ニャオはゴブリンキングのほか、エリートは2体で限界らしく、ミーネとマイナさんはゴブリンエリートなら3~4体は入れることは出来たが、ゴブリンキングはダメだった。
ちなみに私は、その場にある全部の氷像を入れてもまだ余裕がありそうだった。
……極大魔法の事と言い、どこかバグってるのかもね。それとも、これがチートってやつなのかな?
「出来る出来ないは、たぶんイメージの差かな?」
「イメージ?」
「うん、どうやらここでの魔法って、ルーンがどうとか呪文がどうとかっていうより、確固としたイメージの方が重要っぽいのよね。」
私はそう言いながら、手のひらの上にライトの魔法で光を作り出してみる。
白く輝く球体が光を発している。この球体をクマ……キャラ様にデフォルメしたヤツね……に変形させてみる。すると、球体がクマの顔に変化するが、光の強さが弱まる。同じように蝋燭をイメージしてみると、ゆらゆらとした儚い光に代わる。
蝋燭のまま強い光を出そうと魔力を込めると、一瞬だけ輝きが増したけど、そのまま弾けるようにして消え去る。
「こんな感じでね、私の中では、蝋燭は小さな炎ってイメージだから、蝋燭を懐中電灯のように、っていうのはイメージしづらくて制御が利かなくなるのよ。」
「へぇ~、そんなものなの?」
ゆいゆいがそう言いながら、棍棒に光を纏わせる。さらにはその光を伸ばしたり、リボンみたいに揺らしたりして遊んでる。
「すっごーい。確かにイメージ通りになるよぉ。」
「いや、そこまで自在に使いこなすゆいゆいの方が凄いと思うわ。」
どうやら、イメージ操作という点においては、すごく意外だけどゆいゆいが一番優れているみたい。……ほんと意外だけどね。
……その後、気をよくした唯唯を先頭に、私達はその洞窟の中をくまなく探検した。
その目当てはお宝が手に入らないか?という俗物的なものだったけど。
結論として、お宝は手に入らなかった……全部凍ってたから。……ごめんね。
◇
「待って!」
洞窟の最奥?に辿り着いた私達は大きな扉を目の前にしていた。
早速と、扉に手を掛けようとするニャオを私は慌てて止める。
「何で?」
怪訝そうな顔をしながらもニャオは扉に手をかけるのをやめて近くまでやってくる。
「ン、ちょっと気になる事があるの。だから少し休憩しましょ?」
私はそう言って手頃な場所に腰を下ろし、持ってきたカップをみんなに配りお茶を注いでいく。
拠点で使っていたモノなので、当然と言えば当然だけど、ミーネとマコトの分はない。だからミーネには予備を使ってもらったけど、マコトの分がない。
仕方がないので、その辺りに転がっている石を使って即席のマグカップを作って渡したら、マコトは凄く嫌そうな顔をした。
形が悪いのは時間がなかったからだけど、嫌ならお茶あげないよ。
みんなでお茶を飲み一息ついたところで、私は切り出す。
「このドアの向こうはたぶん出口に繋がってると思うんだけど、少しおかしいのよね。」
「おかしいって?」
ソーニャが聞いてくる。
「うん、あのね、ゴブリン達、私たちの方に出てこなかったでしょ?だから反対側に出口があるって考えていたんだけど……。」
「だからその出口がここなんだろ?ここまで一本道だったんだし。」
少し苛立ったように言うマコト。そんな彼に愛想笑いを向けながら言う。
「うん、だから、ここはマコトに開けてもらった方がいいと思うの。」
「ん??まぁ、構わないけどな。」
少し怪訝そうな顔をしつつも、扉に向かおうとするマコト。
「でも、また何でマコト?」
「ん、この中で男の人は彼だけだから。」
マイナさんにそう答える私……ホントは自分も男だって言えないからね。
「マコトがいなかったらゆいゆいに頼むしかなかったんだけど……。」
「えっ、それって……、まさか……漢解除?」
流石はゆいゆい、たったこれだけで分かるなんて。
これまでの言動、そして行動、何よりストレージと言い魔法のイメージ力と言い、ゆいゆいは重度にサブカルに浸っているらしい……。ハッキリ言えば、ゆいゆいは立派なオタクだと思う。だけど、今はそんなゆいゆいが頼もしい。
ついでに言えば、ちょっとしたネタ振りにしっかり反応してくれるのはとても楽しい。
因みに、漢解除というのは、罠などをわざと発動させて解除するという、男の中の漢にだけ許された、由緒正しい禁断の罠解除法なので、クレアみたいにゲーム初心者で無ければ、大抵の人が知っていたりする。
なので当然マコトも知っており、ゆいゆいの言葉を聞いて、今にも開けようとしていたその手を扉から離す。
「それは流石に………。」
漢解除の意味をニャオから聞いたクレアが、少し困った顔をしながら止めようとする。
「うん、でもね、まだ罠があるって決まったわけじゃないし。ここはマコトに漢を見せてもらおうと。」
するとおずおずとミーネが口を挟んでくる。
「調べてからでも………?」
「誰が?」
私の一言でミーネは黙り込む。
「えっとね、さっきも言ったけど、この先が出口であることは間違いないと思うのよ。他に道がなかったからね。でも、頻繁に使うなら扉って邪魔かな?って思っただけで。」
そう、私の懸念はただそれだけに尽きる。扉を開けて出入りするゴブリン……あまりにもイメージにそぐわない。
ただ、これも私の勝手なイメージだけで、ここのゴブリンはキチンとしていて、扉を開けて出入りしているのかもしれない。
だけど、そこがハッキリしない以上、そして現在罠の有無を調べることが出来る人材がいない以上、クレアやニャオに開けさせるわけにはいかない。
それに、マコトにはさっきの貸しがあるから、ここできっちりと返してもらわないとね。
「という訳で、さっさと開けていいよ。」
私はそう言いながら、ニャオたちを背後に置き、魔力結界を張る。
「マジか……。」
マコトは、悲痛な顔で扉に手をかけ……しばらく躊躇った後、一気に開けるた。
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