アルティメットスキルオンライン Re:スタート
@Alphared
第1話 SLOとリオン
「……降り注げっ、アシッドレイン!……からのぉ~シャイニングジャベリン!」
この辺り一帯が薄暗くなり、強酸の雨が降り注ぐ。そして、その薄闇を斬り裂くかのような強烈な光の柱が無数に降ってくる。
そんな状況下において、その場に居るもの達が出来ることはなく、一様に光に穿かれて倒れていく。
「ついでに、メテオストライク!」
少女の声に応え、上空から無数の隕石が降り注ぐ。
この追い打ちに耐えきれる者が居るはずもなく、その場で立っているものは少女一人だった。
「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった。」
「イヤ、斬ってないしっ!」
少女の呟きに目の前の男がツッコむ。
「アレ?まだ生きてた?」
「まぁな。長い付き合いだし、やることに予想はつくからな。」
男はそう言いながら立ち上がる。
「そう考えているのは俺だけじゃないぜ?」
男がそう言って周りを見回すと、数人が起き上がるのが見える。
「えー、つまんない。」
「「「「つまらなくねぇよっ!」」」」
少女の言葉に一斉にツッコミが入る。
「リオンのパターンはわかってるからな、念の為対状態異常ポーションと光耐性の装備をしていたんだよ。」
「それでも、メテオストライクは予想外だったけどな。オーバーキルすぎるだろ。」
仲間の一人の言葉に、リオンは反論する。
「だってぇ、アイツらキモい目で見てくるんだもん。」
「なら仕方がないな。」
「そうそう、仕方がないのよ。」
私がそういうと、なぜか残念な子を見る目で見られる……解せぬ。
「そんな事より、早くお仕置き始めようぜぇ。」
仲間の一人が倒れてる男を持ち上げながら言う。
「そうね。……じゃぁ行くよ……女神の慈愛、ホーリーリザレグション!」
私は、まとめられた死体に、魔法をかける。
範囲内に居るもの達を強制的に生き返らせる魔法だ。
範囲内にいれば人数制限はないが、生き返らせる人数が多いほど残存HPが少なくなるのだが、今回に限ってはそのほうが都合がいい。
「ウッ……ぐわっ………。」
生き返った男達を仲間たちが即座にとどめを刺す。
再び死した彼らを、私は再度生き返らせ、その都度仲間達がとどめを刺す。
……うーん、いつ見てもえげつないねぇ。
「お前が言うな、張本人。」
私のつぶやきを聞きつけた斧を持った男……ナオトがそうツッコんでくる。
「まぁ生き返らせてるの私だけど、仕方が無いじゃない。悪人に人権はないのよ。」
「どっちが悪人なんだか……。」
戦利品を抱えた剣士が苦笑いしながらやってくる。
彼の名はリカルド。パーティの頼れる盾役だ。
「終わったの?」
「あぁ、かなりの業物持ってたせいで、保険金も高額だったみたいだな。」
自分が死んでも、持ち物がルートされたりロストしないように保険というシステムがある。
当然価値の高いものほど、保険金が高額になる。
保険金は死んだ際に、自動で引き落とされるシステムになっているのだが、残金がなければ当然保険はかからない。
更に言えば目の前に転がっているPKたちのような犯罪者は、基本保険が使えないため、裏ルートでの保険を使うことになり、その金額は通常の3倍とかなり高額だ。
だから、保険金が切れるまで殺し続ければ、こうして戦利品を手にすることができる。
ちなみに、女神の加護を受けることができない犯罪者達にはこの方法は使えないので安心してほしい。
「しかし、今更俺達……というかリオンに手を出すやつが居るなんてなぁ。」
カリウスが、復活期限が過ぎて消えゆく男たちの亡骸を見ながら言う。
そう、私達を狙った奴らは、二度とそんな気が起きないように徹底的に潰して来たから、最近では手を出してくるような無謀な奴らは居なかったのだけど……。
「サービス終了が近いせいじゃね?あと一週間ですべて終わるんだから、最後に意趣返しをって考えてるんじゃねぇの?」
ナオトがそういう。
「ゲェっ、じゃぁあと一週間こんなことが続くのかよ。」
リカルドがウンザリとした顔で吐き捨てる。
セカンドライフオンライン……通称SLO。
それが今私達がプレイしているゲームの名前だ。
サービス開始から20年を超える老舗のオンラインゲームなのだが、時代の流れには逆らえず、とうとうサービス終了が決まった。
その終了の日まであと1週間を切り、運営が最後に行うイベントに向けて準備をしていたところに、大規模なPK集団が襲ってきたのだ。
まぁ結果はご覧の通りなのだけど。
「イベントが始まれば、変なちょっかいを掛けてくるやつもいなくなるだろ。」
「それもそうだな。」
ナオトの言葉にリカルドも頷く。
サービス終了最後の三日間は、運営が仕掛ける、本当に最後のイベントが行われる予定になっていた。
イベントの内容は、魔王が全軍を上げて襲ってくるというモノ。イベントが始まると、すべての国に魔王軍が侵略を開始する。それを阻止できるかどうかが、イベントの成否を決める。
イベント終了時に人類エリアが6割以上残っていれば勝利、6割を切ってしまえば、人類は魔王軍に侵略され、全滅エンドとなる。
運営も、最後ということで、イベントには力を入れているとともに、最後なので、どっちが勝利しても構わないと公言している。また、この結果が次のサービスに何らかの影響があるかもしれないことも匂わせている。
デッドオアライフ……まさしく生か死かを問われる内容となっていて、ハッピーエンドを迎えるためには、この戦いに勝利しなければならないのだ。
そのためにも、プレイヤーは一丸となって立ち向かわなければならないというのに……。
「みんなぁ、お疲れ~。」
不意に背後から声をかけられる。
「アルビ、遅いよぉ。」
私は振り返って文句を言う。
そこに居たのは、アルビナス。私たちのギルドのミストレスだ。
「あはっ、ごめんごめん。でも、首謀者はシメておいたから、もう邪魔されることはないよ。」
話を聞くと、私たちが戦っている間に、アルビナスはこんなことを仕掛けたやつの情報を集め、そいつらを別動隊を率いて締め上げたという。
「ま、いいけどね。でも少し疲れたから、今日はもう落ちるね。」
「あぁ、お疲れ。」
「おつ~。」
「また明日な。」
「(^.^)ノシ」
みんなとあいさつを交わし、私はホームへ転移してからログアウトする。
「……ふぅ、この時間もあと5日……いや、今日はもう終わったからあと4日しかないのか。」
涼斗は、PCの画面を見ながら溜息をつく。
最後のイベントが開始されるのは金曜日の正午だ。そこからは日曜日の深夜零時のサービスが終わる瞬間まで、ひたすら戦闘することになるから、アイツらと、馬鹿な話が出来るのも、明日が最後になるに違いない。
そう考えると、胸の中の寂寥感が大きくなっていくのを感じる。
SLOを始めてから4年……サービスの長さから考えればつい最近ともいえるのだが、それでも、この4年間は空き時間の殆どをSLOに費やしてきたため、サービス終了に伴う寂しさは……。
「……なんだ?おかしいな。」
涼斗は胸の中に芽生えた感情に違和感を覚える。前にもこんなことがあった気がするのだ。
しかし、いくら考えても、その原因が思い浮かばない。
「……気のせいだな。」
ずっとプレイしてきたゲームが出来なくなることがショックなんだろう、と自己完結をする。
「それより、明日は……ってもう今日だな。起きたら買い物に行かないとな。」
なんといっても三日間SLOの為籠城するのだ、物資の補給は必要不可欠である。
涼斗は、時計の次回針が3を指しているのを確認すると、アラームを9時にセットする。
「今が春休みでよかったぜ。」
十分睡眠がとれる、と思いながらベッドに入るが、またしても違和感を感じる。
……春休みだよな?夏じゃないよな?
なぜ夏だと感じたのか、いくら考えてもわからない。
そして、答えが出ないまま、いつしか深い眠りへと落ちていくのだった。
◇
「実は、リオンちゃんじゃなくて、アルビ狙いでしたぁ!」
「出直しておいでっ!」
「こん~って、えぇっ!」
私がギルドホームの扉を開けると、そんな声が聞こえてくる。
今日のギルドホームはいつもに増してにぎわっていた。
「あ、リオンちゃん。こんにちわ~。アナタに言ったんじゃないからね。」
「あ、うん。それで何やってるの?」
「大暴露大会よ。」
「ばくろ……ってえぇ?何それ?」
「もう最後だからな。この機に今まで言えなかった秘密を盛大に暴露して笑おうって企画だ。」
私の問いに、近くにいたニルスが答えてくれる。
「はぁ……。」
私は気の抜けた返事をしながら、これはある意味チャンス?などと考えていた。
美少女ヒーラーの私、リオンの中の人は、実は男である……。そんな秘密を抱えたままずっとプレイしてきた。
涼斗だって、初めからネカマプレイをするつもりだったわけではない。
ただ、キャラメイクの段階で、どうせなら美少女を眺めて遊びたい、ただそう思っただけなのだ。
SLOの中では、様々なファッションも選択できる。だけど、男を着替えさせて、何が楽しいんだ?それがリオン誕生のきっかけだった。
初めてプレイした時、右も左もわからない初心者に対して、みんな親切にしてくれた。女性キャラのせいか、みんなちやほやしてくれた。
そんなことは初めての経験だったので、思わず女性を演じているうちに、今の仲間たちと出会う。
こいつらは、気のいい奴らばかりで、そんな奴らを騙していると思うと気が引ける……しかし、だましきれば、だましたことにならないのでは?そんなことを考えているうちに、自分は男だと言い出すきっかけもなく、そのまま4年間、ずるずるとネカマプレイを続けてきたのだ。
だから、コレがいい機会なのでは?どうせ最後なんだし……。
そんなことを考えている間にも、暴露大会は続いている。
「よっし、じゃぁ次は俺だな。」
そういってナオトが前に出る。
「実は……今まで黙っていたが、…………。」
ナオトはそこで言葉を切り、溜を作る。
「私JKなの、きゃぴっ!」
「キモイぞ~!」
「マジかっ!」
「ありえねぇ」
ナオトの爆弾発言に阿鼻叫喚となる。
「じ、実は、私も男だったのっ!」
一応この流れに乗ろうと、涼斗は爆弾発言をする……したつもりだった。
「「「「「「………」」」」」」
「えっ、あれ?どうしたの?」
「いや、リオンよぉ。ナオトとネタが被ってる。」
「えっ、あれ?」
「リオンもネタ切れするんだな。」
「いやいや、リオンって、意外とワンパターンじゃないか?」
「「「「「「だよなぁ!」」」」」
……おかしい、爆弾発言なのに誰も信じてないどころか、ネタだと思われている。
「エイプリルフール企画ならもっと捻ってくれよ。」
ニルスの言葉に、私は思い出す。今日は4/1だ。
だからこそのナオトの発言であり、私の言葉をだれも信じなかったのだ。
……まぁ、本当のことを言っても、エイプリルフールってことで誤魔化せるからな……って、あれ?なんで俺、ナオトの言葉を本当の事としてとらえているんだ?
俺の中に、また違和感が生じるが、そのことについて考える暇はなかった。
いきなり襲撃が始まったのだ。
「え?イベントは明日からじゃ?」
「リオンちゃん何言ってるの?プレイベントでしょ?公式にアナウンスがあったわよ。」
アルビナスがそういいながら装備を整えギルドハウスから出ていく。
……こんなイベントあったっけ?
私は違和感を感じながらも、装備を整えて、アルビナスの後を追うのだった。
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