38・主役の出番は舞台が出来上がってからだ!(エリゴール視点)

 うっけっけっけ!! 宇宙空間に、火星宇宙軍の艦艇の爆発の光の華が咲く。

 随分と美しいもんだぜ、これは!!

 このエリゴール様の放つ、超強力な極高温の炎魔法で。縦横無尽に宇宙を炎が走り、それに包まれた敵艦はどんどんと爆散していく。


『き、貴様ぁっ!! 何者だっ!! 悪魔公爵とは何のことだ! この世界に悪魔など、存在はせんぞっ!!』


 あーうるせえ。ネルヴァッドとか言うらしい、敵の提督が霊声通信でぎゃんぎゃん騒ぎ立てやがる。


『ほう? 悪魔が存在しねえって? まぁ、そう思ってろや。個人の見解は、個人が持つ分には自由だからな。ただ、存在しているものを存在しないと強弁して、死んでいくことも俺は止めてやらねえがな。ぎゃっははは!!』


 あー、爽快。俺は本来、殺戮や虐殺が大好きな性を持っている。そう言うわけなんだが、この殺戮癖は、普段は女神との契約で振るってはならないことになっているんだな、これが。

 だが、この木星の自立独立の活動を支えるならば、という条件付きで。俺は女神から、全ての力をリミット無しで振るう権限を貰っているというわけだ。


『んにゃははははは!! オラオラ、ガンガン行くぞぉ!! おい、聞こえてんな? 木星宇宙艦隊!! 俺が敵の士気を拉ぐからよ!! テメエらもガンガン撃ちやがれぇっ!! 言っとくがよ? 俺が人間ごときに力ぁ貸すなんて、まずあり得ねぇ事なんだからな⁈ 有難いと思ったら、キリキリ働かねーかっ!!』


 俺が、そう呼ばわると。木星の宇宙艦隊が呼応するように動き始めた。

 流石に、朴念仁というか朴訥な木星人にも、今がチャンスだという事は分かるようだ。


『ワッハッハー!! それでいいんだ、この雑魚虫共ぉ!! 虫なら虫なりに、必死に生きて見せろやぁ―――――――っ!! 虫であっても、生き抜いたものにはいい事がちゃあーんとあるからなぁっ!!』


 俺なりの、弱者に対する鼓舞の言葉が。広まると、木星宇宙艦隊の奴らから物凄く怒った声が聞こえてきた。


 曰く、我々は虫けらではない。

 曰く、我々の力を見よ。

 曰く、悪魔公爵とやら、認めさせてやるぞ。


 なんて諸々の声が、霊声音波として、俺に聞こえてくる。

 はっは―――――!! バッチリ上手く行ったぜ!! 

 雑魚虫や弱者呼ばわりをされて、我々は弱くない、戦いを懸命にやって見せる。そう言う反応は、とても好ましい。

 俺の鼓舞で、俺に怒りを覚えつつも。火星宇宙軍に向かって突撃して砲撃を浴びせまくる、木星宇宙軍の連中。

 そうだ、戦いな。自分たちの自由、自分たちの権利、自分たちの人生を購うために!!

 戦いを避けて、自らが損失を受けて。それが大人である、それが世の為である。

 そんな観念は欺瞞だ。世は、力を持つものが。己の存在をきっちりと、表現しきるものが。

 世の中では正当な評価を受けられる。


『おい、艦長!! あの悪魔を!! 悪魔公爵と名乗る変な猫を押しつぶす!! 特殊兵装、アポカリプスクラッシュの準備だ!!』

『はっ!! ネルヴァッド様!!』


 んー? なんか、変な声が聞こえてきたぞ?

 やる気か? この俺相手によォ? んんんー?

 俺は、その声がした敵艦隊の旗艦の方に迫って行った。宇宙空間を、自分の皮膜の翼で。真空の大気を切りながら。


『旗艦アプスー、特殊兵装の科学技術魔法回路、稼働臨界点まで。あとカウント3!!』

『対重力ショック、備えろっ!!』


 ほほう? なんて言うかさぁー?

 火星船舶の癖に、生意気にも魔導力の高まりを感じさせる、アプスーとか言う敵旗艦。


『稼働臨界迎えました!! 放ちます、アポカリプスクラッシュ!!』


 ん? ん? なんだなんだ?

 俺の頭の上の方向と。俺の足元の方向に。

 強烈な重力反応が発生し始めた。んー。多分これは……。


『押しつぶせっ!!』


 おおおおおおー!! すっげえすっげえ!! 強烈な重力と重力の間に、凄まじい力場が発生して。

 俺にものすごい高圧、高温のプレッシャーを与えてくる。

 そして、頭の方向の重力帯と、足元の方向の重力帯が結合して。

 俺を包み込み、小型のブラックホールと化す。


 ……あっぶねえ特殊兵装だな、これは。木星とか火星の衛星の軌道が変わったらどーすんだか。


 ま、こういう。強い力・・・は俺のいい喰いモンになる。

 俺は、小型ブラックホールの中心に閉じ込められつつも。思いっきり息を吸い込んだ。そして、大口を開けて。俺の周りに集まっている高密度の重力を。


 喰いまくった・・・・・・


『げっふ。結構腹いっぱいになんなこりゃあ。御馳走さまだぜ』


 俺は、小型ブラックホールを食い尽くすと、そのお礼というか、お代として。


『受け取りな。お釣りはいらねぇ!!』


 そう叫んで、重力の塊を口から吐き出し、敵旗艦アプスーに向かって高速で飛ばした。

 命中、爆発、そして収束。さらに、重力に飲まれて圧縮され。

 アプスーはその姿を宇宙空間の戦場から消え去らせることになった。

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