35・あの船が欲しい!!(ネレイド視点)

「オイオイオイ!! やべえぞ、敵さん!! 自分たちの味方ごとこっちに撃ってきやがる!」


 バッシュが、ブリッジで。自分の椅子の上で悠長にビーフジャーキーを齧りながらそんなことを言う。喉が乾いたら炭酸水を飲みながら。


「囮……、扱いか。哀れなものだな、敵の先鋒も。しかし、あの船は確か……。メルシェ、あの旗艦の映像から船舶の等級と型番を解析できないか?」

「できる事は出来ます。急ぎますか?」

「急いでくれ。あれはひょっとしたら、火星の傑作艦であるかもしれん」

「畏まりましたが……。もし、その予測が当たっていた場合。如何いたすのですか?」

「頂く。こちらにはいい船は幾らあっても足りないんだ」


 私がそう言うと、兵装の攻撃パターンを入力し終えてオートモードにしていたケルドムが口を尖らせて言った。


「ったー……。提督、マジで海賊作法をかますんですね。地球宇宙軍の中将ともあった人間が。俺はやだなー。船は、新造艦じゃないと。前に乗っていた奴らの臭いがしそうでさ。なんか不潔だよ」

「ふふふ……。全くの同意見だ、ケルドム。私も、人が乗った戦艦には乗りたくない」

「? じゃあ、あの戦艦。敵の先鋒の旗艦だけどよ。奪ったらどうすんの?」

「船だけでなく、クルーもろとも奪い取る」

「はあ? アレは、敵の先鋒の旗艦でしょ? ってことは、先鋒艦隊の旗艦を寝返らせるってこと? 向こうの旗艦の主ってことは、提督でしょ? んな大物がおいそれと寝返るかねぇ?」

「今なら、落とせる。敵の総大将からの扱いが、どうやら酷いようだからな。さしもの軍律の厳しい火星宇宙軍でも、味方の勝利のために後ろから撃たれて死ねというのは、異常な命令だ。従うはずはないと思うし、もしそれを知らされずに出撃してきたとすれば。あの先鋒の提督は味方から裏切られた事になる。さぞかし頭にきていることだろうよ」

「ふーん……。まあ、話聞きゃあ、ご尤も。今がチャンスってことか……」

「そうなる」


 私がケルドムと話している間に、メルシェがあの敵先鋒の旗艦の機種を解析し終えたようだ。


「ネレイド提督。あの敵旗艦の等級はシュメール級。型番はイシュタル型。仰る通りに、作られた時には火星の技術力の結晶と言われていた名艦のようです」

「やはりな……。あのフォルムからして、タダの船ではないと思ったのだ。さて、手に入れるぞ。全艦隊を動かす。結界シールドを貼りつつ突撃。あのイシュタル型の船がいるラインまで、戦線を進める。ミズキ!! あと5宇宙海里の前進だと全艦隊に告げろ!!」


 私がそう指示を出すと、ミズキは頷く。


『皆さん、もう少し頑張れますか? 提督が命令を降されました。5宇宙海里の前進です! 結界を張りつつ、被害を最小限にしての戦線の押し込み。励んで下さい!!』


 霊声通信で、全艦隊に指示を飛ばしてくれた。それに対して、様々入ってくる通信から見える木星宇宙軍の士官の士気は高い。これならば、と私はある意味の安心を覚えた。


「提督ゥ!! あの敵先鋒艦隊旗艦、撃ってくるわよォ⁈ 撃沈しないって言ってたけど、どうするのォ⁈」


 ピウフィオの言うとおりに。我らの艦隊が前に進み、件の敵先鋒旗艦に近づくと。その、イシュタル型の船がこちらに攻撃を放ってきた。


「結界シールドで防御!! レーザー通信を開く! ミズキ、敵のレーザー通信チャンネルを解析! ハッキングをかけてもいいから、とにかくこちらの声を向こうに届かせろ!!」

「了解!! 敵のレーザー通信域には、軍事用プロテクトが掛かっている模様ですが、ハッキング開始いたします!!」


 私の命令に対して、おっそろしい勢いでコンソールのキーボードをぶっ叩きまくるミズキ。眼鏡のふちがキラリと光って、若干怖いかな?


「解析完了です!! レーザー通信、開けますっ!!」

「開けっ!!」

「了解っ!!」


 レーザー通信が、敵の旗艦のブリッジとの間に開かれ。向こうの様子が目に入ってきた。


『……なんだ? テメェは?』


 何やら、おっそろしい顔を向けてくる、敵先鋒艦隊提督。


『私は、ネレイドという。宇宙海賊だ』

『ああ? 意味が分からねぇぞ? お前、その地球産の旗艦の主か?』

『そうだ』

『んで、何の用だよ? 俺は味方の大将のセレスリーンのクソ野郎に、処分されかかってんだ。忙しいんだよ!!』

『貴殿が、マドルス中将か?』

『忙しいっつってんだろ!! 敵と話してる場合じゃねえんだ!!』

『助かりたければ、そう言え。こちらは、貴殿を賓客として迎え入れる準備がある』

『ああ? 何言ってんだよ!! セレスリーンに殺されそうだからって、矛を逆しまにして、叛乱軍に着けって? 冗談もほどほどにしろっ!!』


 ふむ。余り頭がよさそうではないな、このマドルスという中将は。


「ケルドム。あいつ、捕えることにした。マシンパルシービーム発射準備」

「ん? 撃つってんなら、俺撃つけど。準備宜し」

「撃てっ!!」

「マシンパルシービーム、発射。命中したよ」


 私たちのアフラ・アル・マズダ号から発射された、マシンパルシービームで。

 マドルス中将のイシュタル号は動きが取れなくなった。


『貴様っ!! 何をした!!』


 やたらと騒ぎまくる、マドルス中将。

 こりゃ、説得するのは多少面倒くさいな、と私は思った。

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