9・やってきた木星宇宙軍中艦隊(ネレイド視点)

「……熱源確認。この電磁波の嵐の上空大気の中でもわかる、核融合反応です。数、6。こちらに向かって急速接近中……。です」


 ミズキが、私に告げる。間に合わなかったか、アフラ・アル・マズダ号の自動修復は。


「クリーズ、機動機関部の修復率は何%ほどだ?」


 私は、ミズキの声がブリッジ内に響いても眉一つ動かさない鉄面皮のクリーズに聞いた。


「27%ほど。いかんせん、破壊度が98%程度でしたので、残り2%からでは機械細胞分裂力も随分と弱っていましたので。ここからは速いのですが、時間切れのようですね」

「……仕方がない。交渉といくか」


 クリーズの応えに私がそう言うと。いつも黙っていたチョビ髭面のお目付け副官、ゼイラムが口を開いた。


「ネレイド提督。そう言ったことならば、この私にお任せを」

「ん? お前、なんか特技があるのか? そう言えば、シンクの奴はお前を私に着けた理由を言っていなかったな……」

「私の特技は、弁論と交渉術です。太陽系内惑星全域語学についても、十分に理解と知識を持っております。交渉事はお任せを」

「……そうか。任せる。あのシンクがつけた男だ、出来るんだろう。お前はそういう役割だったんだな。そう言ったことは確かに、私の不得手とするところではあるかもしれない」

「ネレイド中将提督。貴女の今までの戦歴戦果のデータは、シンク閣下から教えられています。何というか、センスの塊のような自由自在な。されども、一歩間違えば艦隊全滅の憂き目を見るような。しかしながら、とてつもない攻撃力を持つ用兵をなさる。おそらくこれは、貴女の性格を端的に表しているものでしょう。故に、凡庸であれども安全策を用いるこの私が、副官としてつけられたのかと思われます」

「安全策というのは。必要であることはわかるのだが、私はどうにも苦手でな。任せるぞ、ゼイラム。話をうまくまとめてくれよ」

「お任せあれ。……ところで、お聞きしたいのですが」

「? なんだ?」

「この交渉、何を目的と為しますか? それによって言葉の組み立ても変わってまいります」

「交渉目的……か。出来得れば、木星のトップと会談を持ちたい。それは欲の張ったことだとは分かるがな。出来るか?」

「……なるほど。おそらくは、可能かと」

「⁈ 軽く言うな、出来るのか? ゼイラム?」

「弁論の術とはそういう物。何とでも言いくるめて事態を動かす。マキャベリズムとはそういう物です」

「マキャベリ……? だと? あの力押し論者の開祖の名を出すとは。ゼイラム、貴様。どういう手を使うつもりだ?」

「言ってしまっては、面白味に欠けるというもの。ただし、私が提督の要望に応えるためには、クルーの一人の協力が必要となりますが」

「協力……? 誰の協力だ?」

「ケルドム少佐ですよ。この船の、まだ生きている兵装全般を操ることのできる」

「おっま……え? まさか?」

「まあ、見ていてください。面白くなりますよ……。フフフ……!!」


 ……まあ、呆れたことにだが。大体わかってきた。この少々弱気な男のかます弁論術とは。

 このアフラ・アル・マズダ号の主兵装の強烈な破壊力のバックアップというか、威嚇がなければ成り立たない代物だということが。


「熱源接近更に近く。熱源モニターから光学モニターに切り替えます!!」


 ミズキの声が響くブリッジ内。ワイドウィンドウには、木星の濛々たる大気しかまだ見えてはいないが、船の外部の高感度の光学センサーが捉えた映像が、ホログラフモニターに映る。


「……ミズキ大尉の言う通り。6隻だが……。ガチで宇宙戦艦じゃねぇかありゃ!! しかも、木星宇宙軍の主力艦のムータアズマ級だぞ!! マジでデカい、……ぜ!」


 バッシュの奴が大声を上げる。ホログラフモニターに映ったのは、全長がこのアフラ・アル・マズダ号の三倍近い化け物巨大宇宙戦艦、ムータアズマ級が6隻。編隊飛行をしている様子だった。


「……さて、では。掛かりますか。幸い、向こうはまだこちらに気が付いていない模様。弁論術というものは先手必勝です!! ケルドム少佐!! 先頭を飛行してくる敵ムータアズマ級戦艦に、この船の主砲を一斉射。いいですか? 一斉射だけですよ? それ以上は撃沈してしまいますからね!!」


 こいつ……!! ゼイラムの奴、何が安全策の男だ!! 私は、腹の中で笑いが沸き起こり、思わずプッと噴き笑いをしてしまった!!

 あっぶねえことを、安全第一にこなそうという妙な神経に可笑しさを覚えてしまったのだ。


「……いいの? 提督。やれってんなら、俺は。ぶっ放すけどさ?」


 ケルドムが、艦船兵装のコンソールパネルの上で指を遊ばせながら聞いてくる。


「まあ、ゼイラムができるというんだ。任せてみようじゃないか。少し面白くなってきた」


 私がそう言うと、ブリッジ一同が妙な空気になって、皆笑ったのだが。


「冗談じゃないわよォ!! なんであんたたち!! そんなヤバいことするのに笑えるのよゥ!!」


 ただし、このピウフィオを除いては。

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