7・木星の……地表?
「うわ……!! しっかし、太陽系最大サイズの惑星ってのは……。流石にヤバいっすね……」
ケルドムが声を漏らした……。
木星大気圏内に降下していく、我らの乗るアフラ・アル・マズダ号であったが……。凄まじい大気流が艦外を吹き荒び、うねり轟く稲妻が時々船体を直撃してくる。
「……我らは……。生きて地球に戻れるのでしょうか……」
弱気になる、私のお目付けの中年副官、ゼイラム。コイツは実は、何故かあのシンクの奴が、「お前の補佐に適任だ、バカ妹」と言って私につけた、初の人事組み合わせの副官である。
「さてな。こうなってしまっては。私にもさっぱりわからん」
私は、ある意味開き直っていた。
護衛艦をすべて失ったが、木星にケンカを売りに来たのでない以上。
「しかし……。あの悪魔公爵とやら。木星の地面やら地表に叩きつけると言っていましたが。木星に地表など存在しませんよ? 核の事でしょうか?」
ミズキが首をかしげる。そう言えばそうだ。木星の大気構成はほとんどが水素で、その内部には液体水素が大量に海として眠っている。これが、木星の主たる資源と言われているものであるのだが。だいたい、木星の大地と言えば、その液体水素の上に浮かぶプレート大陸帯(人工的なものである)の事を指す。
特殊な科学技術魔法で出来た、『真空中から発生する陰エネルギーと陽エネルギーのうち、陽エネルギーを強制選択して熱量を加え、浮力とする水素の結晶版』という超ド級の貴重品で出来たプレートなのだが。それを大量投入するほどの価値が、この木星の三重水素にはある。
……というか。同質量の物質価値としてはプレートの方が遥かに上なのだが、そこを作業場にして汲み上げられる液体水素の量が半端では無いので採算が合う、というわけなのだ。
「液体水素の海まで。あとわずかです。……着水します」
ミズキが冷静な声で言う。そして、アフラ・アル・マズダ号のある機能を展開。
「結晶水素プレート、周囲の水素を利用して作成します」
まあ、そう言うわけで。地球宇宙軍船舶の中でも、結構な新型であるツァラストラ級の艦艇船舶には、船底に結晶水素プレートを作成する機能も搭載されているというわけだ。もっとも、その元原子という材料がなければ作れないのだが。
「ここが……、木星の海か。静かなものだ……。雷鳴が上空で少々うるさいが」
クリーズも。コイツはいつも嫌味なほどに冷静沈着なインテリ野郎なんだが。ミズキに輪をかけた落ち着き払った態度で言う。茶でも立てそうな雰囲気をもっているな、コイツ。
「木星宇宙軍の連中は……。来ねえのか? 俺達、立派な領宙領空侵犯どころか、ここに着水したことで領海侵犯までやっちまってるのに、なぁ……」
バッシュの奴が、金髪のとげとげ頭をボリボリと掻きながら言う。
「たぶん、あの悪魔公爵と死神天使。あの二体のアンノウンの言っていた木星の大地とは、液体水素の海に浮かぶプレート大陸群の事を指しているのではないかと思われます。木星人の活動領域はそこしかありませんから……」
メルシェは、その生物科学技術の賜物の青い肌の。スタイルがミズキや私よりもいい身体で、首をひねって考え込んでいる。
「どっちにしても、アレよォ……。アタシたち、動かない方がいいわよォ? 放っておけば、時間が過ぎて。この旗艦様の機能が全回復して、木星から脱出できるもの。変な事、考えてる人いるのォ⁈ いないわよねェ⁈」
多少臆病者の気があるピウフィオが、オカマ口調で言う。というか、コイツは本物でガチのオカマなのだが。女装男性という代物である。そのピウフィオが安全策をやたらと口にするのだが、私は違う事を考えていた。それに沿った発言をするために口を開く。
「いや……。うむ……。そうだな、しばらくは待とう。この船が回復しきって、いつでもこの木星から離脱できる状況があった方が。
「ちょっと待ってよォ!! 何言ってんのよ提督ゥ!! 船が直ったら、即離脱!! 不測の事態が起こったんだから、一回仕切り直しよォ!! 地球まで帰るのよォ!!」
「手間だ。面倒くさい」
「ちょっと、提督ゥ!! 怖いわよアタシィ!!」
「度胸が必要な時というものはある。現に今、我らはこうして船の回復を待つ間の度胸を必要とされているというわけだ」
そうなのだ。
木星宇宙軍がやってこないのも、木星人が地球製の船が不時着したと襲ってこないのも。
そうである以上、ただ、待つ。
実際の所、これだけでも随分と度胸も肚の据えも。
必要になってくるのである。
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