茜雲だってば




 連なる三つの山を管理している親方こと長庚ゆうずつは烏天狗であり、女性と結婚し、彼らの間に生まれた息子は人魚と結婚して、孫が生まれた。

 烏天狗と人間と人魚の血を受け継ぐ少女である。

 名を茜雲あかねぐもと言う。

 茜雲は通常時は祖父の長庚と同じく人間の姿を取っていたが、祖父とは違い疲労困憊状態に陥ると、青い身体に漆黒の翼が生えている魚になってしまうのだ。






「えーまた筍ごはんんーと、筍と厚揚げ豆腐の醤油煮いぃぃー?筍って口の中がいがいがするから嫌いなのにー」


 長庚が管理する山中に建てられた丸太小屋にて。

 半日をかけて回復して人間の姿になった茜雲は、ふくれっ面になりながら長庚を見たが、長庚は嫌なら食べなければいいと素っ気なく言った。


「ひどい!おじいちゃん!」

「山の恵みを大切に扱わん孫など知らんもんねー」

「ううううう」

「ほら。お孫さん。筍の天ぷらはそんなにいがいがしませよ」

彎月わんげつ!」

「はい?」


 揚げたての筍の天ぷらを丸太卓に乗せた彎月と呼ばれた少年は首を傾げた。


「お孫さん。目を三角にしてどうしたんですか?」

「だーかーらっ!私の名前は茜雲だってば!」

「はい。知っていますよ」


 彎月は丸太卓の前で正座になり、いただきますと手を合わせた。


「ちょっと!いただきますはみんなでしなきゃダメでしょ!」

「では、お孫さん。立ってないで、座って座って」

「もう!お孫さんじゃなくて!」


 茜雲だってば!










(2023.4.21)







 

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