四の炎・死炎鎖
西の遺跡
砂の闘技場の中央には巨大な体の魔物、バフォメットがいた。
山羊頭で筋肉質の黒い体、その背中の両羽を大きく広げてドス黒い瘴気を放つ。
周囲に散らばった5人の冒険者は絶望の眼差しでそれを見ていたが、それ以上に向かい合う少年の姿に息を呑む。
髪が赤く発光し、瞳も真紅だ。
何よりも凄まじい熱波を、その体を中心にして幾度も展開している。
円形の闘技場は壁が天まで伸び、空には太陽があるが、その差し込む太陽の暑さを超えるほどの熱が充満する。
ガイが放つ熱は高温すぎるのか、所持している4本のダガーの鉄刃を液体状になるまで溶かして地面に落とした。
「なんという熱量……」
後方に立つカトリーヌは後退りした。
少しでも離れなければ、おそらくガイの攻撃の巻き添えを食らうと自然と足が動いたのだ。
「波動を一回だけ……それなら第四の炎を……」
ガイは目を見開く。
あまりの圧に周囲にいた冒険者たちもバフォメットから視線を逸らすことなく、ゆっくりと後ろに下がった。
一方、バフォメットもガイの姿を認識して凝視する。
目の前の存在への"恐れ"なのか、すぐに行動した。
前へ一歩、力強く踏み込むと右拳を構えてガイへ、その拳を打とうとする。
瞬間、バフォメットの数メートル後方の地面から高速で真っ赤な鎖が伸びて、右手首に巻きつく。
熱を帯びた鎖はジリジリとバフォメットの腕を焼き始めた。
「"
ガイが叫ぶと、さらにバフォメットの後方の地面から鉄の擦れ合う音を響かせて3本の燃える鎖が伸びる。
すぐさま鎖はバフォメットの"首筋"、"左手首"、"腹周り"に何重にも巻きついて拘束した。
見ているだけの冒険者は、ただ驚くだけだ。
「なんという……あれを完全に動けなくしてしまうとは」
「どれほど高波動なんだ?」
「ありゃ絶対、"三大貴族"にも匹敵するほどの波動数値だぞ……」
「なんで、あの鎖はちぎれないんだ……?」
バフォメットが力を入れれば入れるほど、鎖は深く体を締め付けていた。
低い波動を打ち消すとされる"瘴気"など無いのも同然だ、なにしろ鎖一本が"150万"を優に超えるほどの波動数値で構成されたものなのだから。
ガイは手を広げ正面にかざす。
その手をゆっくりと握り締めていくと、鎖も反応してバフォメットを締めつけた。
「"チェーン・デスフレイム"!!これで終わりだ……!!」
そして一気に手を握る。
何重にも巻きつけられた四つの鎖は高速回転してバフォメットの後方地面へ引き戻され、胴体、両腕、首と瞬時に飛ばす。
同時に凄まじい熱量の炎柱がバフォメットを焼き、一瞬にして灰にした。
砂の闘技場は静まり返る。
レベル10の魔物はたった1人の少年の手によって討伐されてしまった。
それを目撃した冒険者たちは唖然としている。
ふと皆が我に返ると全員歓声を上げ、走ってガイへ近寄った。
「すげぇよ!!少年!!」
「もしかしてSクラスパーティメンバーとかか!?」
「あんな波動の使い方なんて見たことねぇ!!」
「どんだけ波動数値高いんだよ!!」
冒険者たちは笑顔でガイの頭を撫でている。
ガイの髪は発光をやめ、もとの赤髪へと戻っていた。
「やめてくれ!俺はまだDランクだよ!」
その発言に驚く冒険者たち。
ガイの後方にいたカトリーヌも近寄るが、少し驚いた様子だ。
「これなら確かに
「え?」
カトリーヌの言葉が気になった。
振り向くガイだが、それでもまだ冒険者から頭を撫でられている。
「波動数値が高すぎて、それに頼らざるおえなくなっている……私が間違ってましたわ」
「どういうことだ?」
ガイがそう聞き返すと、カトリーヌはすぐにスカートのポケットから光るものを取り出した。
それは少し黒ずんだ指輪だった。
「これを右手の薬指に」
「あ、ああ」
ガイはその指輪を受け取ると、なんの疑いもなく右手の薬指にはめた。
すぐに周りにいる冒険者たちがざわめきはじめ、カトリーヌはため息をつく。
「あなたは、もう少し社会勉強をしたほうがよろしくてよ」
「どういうことだよ、この指輪は?」
「"拘束の指輪"ですわ」
「は?」
「それは騎士たちが利用する囚人護送用の檻などに使用される波動を制御する鉱石で作られたもの。契約者は私ですから、私が外すまで指から取れません」
「な、なんで、そんなもの……」
「あなたに足りないものを学ばされるためです」
ガイは指輪を見た。
同時に体内の波動の粒子を探るが、全く見つけられない。
完全に波動が封じられたことを悟った。
「俺は……何を学べばいいんだ?」
「次に私に会った時、この私に勝てたら外して差し上げますわ」
「波動を使えないのに、あんたに勝つ?」
「ええ。もちろん、その時は私も波動を使いません」
「……」
「このままでは、あなたは、あなた自身の波動で身を滅ぼす。ガイ・ガラード、私は……あなたには死んで欲しくない」
カトリーヌは今までに見せない真剣な表情で言った。
その瞬間のことだ。
砂の迷宮が崩れはじめ、一気に地面に落ちる。
ガイたちは空が見える円柱状の場所にいたため巻き込まれなかった。
「あら、もしかしたらゴールにたどり着いた者がいたのかしら?」
ニヤリと笑うカトリーヌ。
その言葉に安堵の表情を浮かべている冒険者たち。
周囲は砂埃が舞い、何も見えないが徐々に視界が開けていった。
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