調査へ


アダン・ダルへと帰還したクロードとローラ。

その頃にはもう日は落ちて夜も深かった。


ローラの表情には疲れが見えていた。

体力、精神ともに疲労しているのはクロードにもよくわかった。


「君は宿へ行って休むといい」


「クロードはどうするの?」


「僕は気になることがるから、調べてから戻るよ」


「そう……」


1人宿へ戻るローラを見届けて、クロードは中央広場へ向かった。

人通りは全くなく、すれ違う住民は1人もいない。


中央広場の目立つ場所にある雑貨屋。

なぜかカーテンは開いており、中からは灯りが見えていた。


「まさか……」


クロードは雑貨屋へと向かった。

扉を開けると、来客を知らせる鈴がカランと鳴る。


「いらっしゃい!」


奥のカウンターから声がした。

それは店番のケイトだった。


「どうも」


「ああ、今朝はどうも!」


クロードの言葉にケイトは笑顔で反応した。

本日、二度目の来店だったがケイトはクロードのことを覚えていた。


「西の遺跡に行かれたんじゃないんですか?」


「行ったんだけど戻ってきたんだ。買い忘れたものがあってね」


「そうなんですか」


ケイトはキョトンとした表情をした。

そこに店の扉が開き、カランと鈴の音が鳴る。


「あれ?今朝の人かい?」


「ええ。どうも」


入って来たのはドミニクだった。

少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になる。


「戻ってきたんですか?」


「ええ。買い忘れがあって」


「そうでしたか」


笑顔のままカウンターへと向かうドミニク。

ケイトと並んでクロードに対して笑顔を向けた。


「今日は遅いので明日また来ますよ。流石に迷惑な時間でしたね。2階にいるジョシュア君にもよろしく伝えておいて下さい」


「ええ。まったくジョシュアも悪戯好きで困りますよ」


ドミニクが笑顔でそう答えた。

隣に立つケイトも満面の笑みだ。

少し会釈をし、クロードは店を出る。

するとケイトは店のカーテンをすぐに閉めた。



____________________



翌朝



宿の前にクロードとローラが立っていた。

比較的に朝は涼しく嫌な汗はない。


「ここからどうするの?ガイはいいとしてもメイアが心配だわ……」


ローラには焦る気持ちがあった。

自分の弱さや不甲斐なさもある。

一刻も早く2人を救う手立てがなければいけない。


「メイアはいいんだ。心配なのはガイの方だ」


「え?いや、ガイはめちゃくちゃ強いじゃない」


「確かにガイは強い。だが、それは武具があることが前提なんだ」


「え?」


「ガイはダガーを七本所持している。昨日一本使ったから、残りは六本。それが無くなればガイは死ぬ」


「そんな……」


「その前に犯人の手がかりを掴むしかない」


「でもどうやって?」


「情報が必要だな」


クロードはそう言うとローラを真剣な表情で、じっと見た。

見られているローラは次第に顔が赤くなる。


「な、なによ!!」


「"オーレル卿"」


「ひぃ!!」


クロードが呟いた言葉に反応して、ローラは小さな悲鳴を上げた。


「やはり、知ってる人物なんだな。どういう関係だ?」


「し、知らないわ!」


「今は緊急事態だ。ガイとメイアがどうなってもいいのか?」


「……それは」


ローラは俯いて涙目になる。

それほど、この人物が嫌なのだろうとクロードは思った。


「あたしの婚約者です……」


「なるほど」


「でも、どうしてオーレル卿なの?」


「この依頼を出したのはオーレル卿だからさ。真っ先に調べるべき人物だ」


ローラはため息をついた。

これは、ぐうの音も出ない理由だった。


「行きましょう……」


「何かあれば僕が守る」


「ありがと」


気休めであることはわかっていた。

だが、なぜかクロードの言葉だとローラは安心できた。

2人はアダン・ダルでも貴族が多く住む地区へと向かった。



____________________




貴族地区というのか、中央広場から少し北へ行くと建物の形がガラリと変わった。

石を積み上げただけの安作りの家屋とは違い、ここまでわざわざ運ばせたのか木造の大きな屋敷が並ぶ。


「ここよ」


その屋敷は他の屋敷と比べ物にならないほど大きく、庭も広い。

平民たちが住む家と違う様を見たクロードはため息混じりに口を開いた。


「これはまた。巨大だな」


「ええ。なんでも"大っきい"のが好きなんですって。なんで、あたしを選んだんだか」


ローラの皮肉混じりの発言にクロードは苦笑しつつ、2人は庭を抜けて屋敷の玄関へと向かった。


すると玄関が突然開いて、中から女性が出てきた。


褐色肌でベリーショートの黒髪、白いシャツに軽装の鎧、ブラウンのパンツを履いた大柄の女性。

腰に差したレイピアから見るに、恐らく騎士なのだろうと2人は思う。


「ん?冒険者か?ああ、西の遺跡の攻略に来たのか……次から次へと。ここに何の用だ?」


「オーレル卿に会いに来たんだが」


「私は、"何の用"なのかと聞いたんだ」


女性は凄まじい眼光でクロードを睨んだ。

この圧には、いつも前に出るローラですら息を呑むほどだった。


「僕はオーレル卿の婚約者である"ローラ・スペルシオ嬢"の護衛で来ている。どこの誰だかわからないが、おいそれと用件を言うわけないだろ」


「スペルシオ?」


騎士風の女性はローラへと視線を向ける。

その視線は冷ややかだった。


「な、なによ」


「いや、なんでもない。オーレル卿は中にいる。さっさと用件を済ませて、この町から出ていけ」


それだけ言うと女性はクロード達を横に通り過ぎていった。


「な、なんなのよ!あの女!!」


「やめろ。聞こえるぞ」


「……」


クロードは少し振り向き、騎士風の女性が中央広場の方へと向かうのを見ると、すぐに空を見て"陽の位置"を確認した。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


クロードが玄関へ向き直るとすぐに、また玄関は開いた。

今のやり取りが聞こえていたのだろう。

中から出て来たのはヨボヨボの老人。

身につけているのは、これまたヨレヨレの執事服だった。


「あの、どなた様でいらっしゃいましょうか?」


「あ、あたし、ローラ・スペルシオです!」


クロードが出る前にローラが発言する。

"スペルシオ家"という名前に反応し、ヨボヨボの執事は何度も笑顔で頷いた。


「ローラ様、まさか遠路はるばる……旦那様はいらっしゃいますので中へどうぞ」


「僕もいいかな?」


「あなた様は?」


「クロードという者です。ローラ嬢の護衛で来ました」


「そうでしたか。では、ご一緒にどうぞ」


「ありがとうございます」


執事の笑顔にクロードは笑顔で返し、ローラと共に屋敷の中へ入る。


2人は長い廊下を歩き、オーレル卿の書斎へと通されるのだった。

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