情報


リア・ケイブス



クロードはガイとメイアに手を振り、宿の外へ出た。


雨が強く振り、眉を顰めるクロード。

上に羽織ったマントはフードが付いていたため、それを深く被った。


向かった先は、オクトー・ランヴィスターの自宅。

昨日のうちに宿の店主に場所を聞いていたのだ。


オクトー・ランヴィスターの自宅は宿からそう離れていない場所にあり、クロードは歩いて数分ほどで到着した。


家自宅は二階建てで、さほど大きくはない。

平民が住む家よりも、ほんの少しだけ大きい、そんな印象だった。


クロードは家のドアをノックする。


「早朝から申し訳ない」


クロードが、そう声をかけるとドアが開く。

顔を出したのは背の低い老婆だった。


「あらあら今日はお客様が多いですね。どなた様でしょう?」


「僕はクロードというものです。この町のギルドの依頼を受けて来ました」


この内容は嘘だ。

話をスムーズに進めるべくクロードはあえて、そう言った。


「ああ……そうでしたか」


「ここで、ギルドマスターの奥様とお子さんが殺められたと聞きました。少し中を見ても大丈夫でしょうか?」


「ええ。二階には行けませんが、それでよければどうぞ」


「お邪魔します」


そう言ってクロードは家へ入る。

家の中も大きさを感じなかった。

古びた木造建築の家で、室内は外が曇り空のせいか、かなり暗い印象だ。


入ると、そこはもうリビングで、中央に大きなテーブルが1つと、椅子が4つ向かい合って置かれている。


クロードは奥の部屋へ向かった。

そこはキッチンで、一階はリビングとキッチンしかない作りだ。


「犯行があったのは二階ですか?」


「ええ。そのようです」


「いつ頃のことでしょう?」


「半年ほど前です」


「そうですか。失礼ですが、あなたとギルドマスターとのご関係は?」


「私は、この家の掃除仕事で雇われております。そのかわり、家の物は自由に使っていいと」


「なるほど」


「ですが……まさかデレク様があんなことされるとは」


「ん?デレクと面識が?」


「ええ。デレク様は旦那様の親友で、"月の銀狼"のメンバーでしたから」


「それはギルドマスターのパーティですか?」


「ええ。旦那様とデレク様とマーリン様、そして奥様……ヘレン様の四人です」


クロードは新情報を得た。

ギルドマスターが追っているデレクという人物はかつてオクトーのパーティメンバーだ。


「初めは"王宮騎士団"が来て対応にあたっていたのですが、全く進展がないので痺れを切らした旦那様が自ら依頼を」


「騎士団?なぜ、こんな小さな町の事件に王宮騎士団が出てくるのです?」


「なんでも謎の盗賊団が関係しているとかで」


「盗賊団……ちなみに、その王宮騎士団はこの町に来ましたか?」


「ええ、来たみたいですよ。私は見てませんが。騎士団長様は、とても綺麗な女性だったと聞きました」


「そうですか……」


老婆もキッチンへ入った。

台所に立ち、クロードに背を向けて、お湯を沸かす。

それを見たクロードは、老婆に気づかれぬよう、壁に手を当てて目を閉じる。

そして、この家の"波動の残粒子"を感じ取った。


「座っていて下さい。今、お茶を入れますので」


「ええ」


クロードは、そう言われると、すぐにリビングに戻り、4つある椅子の一つに座った。


「ちなみに、もう一つ聞きたいことがあのですが」


「なんでしょうか?」


「デレクは"風の波動の使い手"ですか?」


「私には、そこまではわかりません」 


「そうですか」


ここでの事件関係の話はこれだけだった。

クロードもこれ以上聞いても何もわからないだろうと思ったからだ。


老婆も席に着くと2人は向かい合って、お茶を啜る。

2人の世間話は昼過ぎまで続いた。



____________




クロードがオクトーの自宅を出ると、もう夕方で雨はあがっており晴れ間が見えていた。


「出るのが遅くなった」


「また来てくださいな」


「ええ。お茶、ごちそうさまでした」


玄関先、老婆は笑みを浮かべてクロードに別れを告げた。

クロードも少し頭を下げると、その場を後にして宿の方へと向かう。



クロードが宿の前に到着すると、建物の横に大きな荷台の馬車が停まっており、ちょうど馬車を降りる女性がいた。


クロードは、その馬車に見覚えがあった。


「この馬車は確か……」


荷馬車から降りた女性は背が高く、長い黒髪のポニーテール。

体に合っていない、ぴちぴちの服装が印象的な女性、セリーナだった。


「あら、"クロードさん"じゃない。また会ったわね」


「遅かったな。僕らより前を進んでいた気がしたが」


「休憩してたら寝過ごしちゃって」


「随分、気楽な騎士様だな」


「よく言われるわ」


そう言ってセリーナは笑みを浮かべた。


「そういえば、一つ聞きたいことがあったんだ」


「なにかしら?」


「"君は一度、この町に来てるかい"?」


「……」


セリーナの笑みが消えた。

その無表情さは何を考えているのかわからない。

わずか数秒だけ間があって、すぐにセリーナに笑みが戻ると同時に口を開いた。


「来たわよ」


「君の"騎士団"が盗賊団員の捕縛任務を?」


「それは極秘よ」


「そうだったな、"目立たないように"って言われてたね。失礼。僕は宿へ戻るよ」


「ええ。ごゆっくり。私は買い出しにでも行くわ。お腹空いちゃった」


「そうか。ごゆっくり」


2人は、そう言い合って、お互い笑みを溢す。

セリーナは手を振って町へ消えていった。


それを見届けたクロードも宿へと入ろうとドアノブに手をかけるが、そのまま動きを止める。


そして馬車の"荷台"の方へ、鋭い視線を向けた。

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