青髪のローラ


ギルドを出た、ガイとメイア、クロード。

ガイとメイアは困惑の表情だった。


「仕事受けないなら帰れって、どういうことだよ。依頼書、一枚しかなかったぞ」


「よくは見なかったけど、あれしか依頼が無いなんておかしいわ」


その依頼書を2人は詳しくは見ていなかった。


「僕が見たが、おかしな依頼だ」


「どういうことだ?」


「依頼は"デレク・ヴァディア"とかいう盗賊団員の捕縛だ。賞金額65万ゼクだそうだ」


「65万ゼク!?」


「私達の村なら一生働かなくても暮らしていけるわ……」


「たった一人の人間、しかも、ただの盗賊団員にかけられる賞金額じゃない。何かあるな」


「何かって?」


「それはわからない」


そんな会話をしていると、ギルドの中から白いローブ姿の冒険者が出て来た。

それはギルド内のテーブルに座っていた顔をフードを被った冒険者だった。


「あたしが教えてあげようかぁ〜」


その声は高い女性の声だった。

ガイやメイア並の小柄な背丈の、その冒険者はバッとフードを取った。


顔を見ると、まだ幼い女の子のように見える。

ショートカットの青い髪で、前があいたローブの下に見えるのは白いキャミソールと青いホットパンツ。

腰にはレイピアを差している。

そして首から下げた波動石の色は"濃い青色"だった。


「子供?」


「失礼なやつね!!あたしはこれでも17歳なのよ!!」


「はぁ?」


その見た目に反して、ありえない年齢と言動にガイとメイアは唖然としている。

だが、クロードだけは冷静だ。


「で?君は何者だ?」


「あたし?あたしはね!泣く子も黙る!大冒険者のローラ様よ!!」


「大冒険者……?」


親指立てて自分に向けるローラの姿を見たガイとメイアは呆れ顔だった。

だが一方、クロードの眼差しは真剣だ。


「あの依頼のこと、何か知ってるのか?」


「ええ。もちろん。あの依頼は、この町のギルドマスター、"オクトー・ラヴィンスター"が出した依頼なのよ」


「どういうことだ?」


「情報によると、あの依頼書に書かれた盗賊はオクトーの妻と子供を殺した犯人らしいわ」


「なるほどな。だが、あの懸賞金額はさすがに……」


「オクトーが冒険者時代に貯めた全財産って噂よ」


その発言にガイとメイアは驚く。

あの額なら現在は富豪でもおかしくないような金額だった。


「なぜ殺されたんだ?恨みか何かか?」


「それは知らないわ」


「うーむ……」


ローラの話は情報としては不十分だった。

妻と子供を殺害した犯人を追い詰めるといっても額が大きい。

普通に考えれば、こんな額なら逆に受ける人間が多いと思われる。


「あと、もう一つ噂だけど」


「なんだ?」


「あの依頼書に書かれた"デレク・ヴァディア"って男は、もう死んでるわ」


「なんだと」


「東の湿地帯で遺体を見た冒険者がいたみたい。ギルドマスターには報告したみたいだけど、結局あの依頼書は貼られたままなのよ」


「なるほどな。だから町に冒険者がいないのか」


この噂には、ずっと無表情だったクロードも驚いた。

もし、これが正しい情報ならギルドマスターのオクトーは亡霊を追い続けてることになる。


「死んでるなら、あの依頼は達成不可能だろう。"殺した場合は報酬は無い"と書いていた気がするが」 


「そうね。でも、あたしの目的はデレクじゃない。もう一人の方よ」


「もう一人?盗賊団の仲間のことか?」


「ええ。その仲間を捕まえて報酬をもらう。あの依頼書はそのために貼られていると、あたしは考えてるのよ」


そう言ったローラはニヤリと笑った。

このローラという女性が、そこまで考えてことに3人は感心していた。


「それで僕たちに話しかけたのは、どういう目的なんだ?情報を流したからには裏があるんだろ?」


「裏だなんて失礼ね。ただ、私とパーティを組んで、その"もう一人"を一緒に捕まえないかって話よ」


「あてはあるのか?」


「無いわよ」


ローラの言葉に真顔になる。

そして3人は先ほど抱いた感心を忘れ、ローラに背を向けて、その場を去ろうと歩き出していた。


「ちょ、ちょ、ちょ、あんたら!」


「なんだよ」


背を向けて歩いていたガイが立ち止まり振り向く。

つられてメイアとクロードもだ。

3人の目は冷ややかだ。


「まさか、こんなに情報を教えたのに無報酬ってことないわよね!?」


「僕たちは"君の独り言"を聞いてた。ただ、それだけだ」


「はぁ?」


「情報提供感謝する」


クロードが、それだけ言うと3人はその場を離れた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」


そのローラの悲痛な叫びに構うことなく、この町の宿の方へ歩いて行くのだった。



____________




リア・ケイブスの宿はギルド同様、ボロボロだった。

普通なら冒険者や商人が泊まって繁盛するものだが、この町には、ほとんどそれが無い。

建物を修繕する経済能力が失われていくのも当然なことだった。


その宿の前で3人は円を作った。

ガイが呆れた様子で口を開く。


「にしても、どうするんだ?ギルドマスターに会えないんじゃ、この先どうすることもできないだろ」


「私、さっきの話を聞いて思ったんだけど」


「なんだ?」


「ローラさんの言ってたこと、かなり人を介してて信憑性に乏しい気がするの。だって、犯人が死んだことを報告したのに、まだその依頼書を貼ってるなんておかしいわ」


「メイアの言う通りだ。ローラの情報は"100%デマ"というわけではないと思う。だが、ギルドマスターの行動があまりにも常軌を失している。いくら妻と子を亡くしたと言ってもな」


「じゃあ、確かめにでも行くか?東の湿地帯に、ほんとに遺体があるのか」


「そうだな。どれくらい前に見つけたのかわからないが、なにか情報くらいはありそうだ」


「なら、このまま依頼を受けたほうがいいと思うわ」


「え?死んでるかもしれないのに?」


「メイアは、"この依頼を受けることにデメリットが無い"ことを前提に話してるのさ。デレクが本当に死んでいたらそれまで、生きていたらそのまま捕縛したらいい」


「確かに、それもそうだな」


「それに、仕事を受けて湿地帯の状況を見に行った後なら、報告ということでギルドマスターに会えるかもしれないわね」


「決まりだな。今日は宿に一泊して、明日、あの依頼を受けよう」


クロードがそう言うとガイとメイアは頷いた。

3人は宿へ入ると、それぞれ部屋を取り、久しぶりのベッドでの寝心地を堪能するのだった。

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