なろう系小説の悪人を書きたい

 個人的な『なろう系小説』の定義とは。



 1 何者かからチート能力を貰い特別な存在となるが、その能力があれば誰でも思いつくであろうショボい活躍しかしない。


 2 特に脈略のないイベントが断続的に発生し、その先々で無双してあからさまに、必要以上に持ち上げられ主人公はすっトボける。


 3 女どもは基本的に主人公に即惚れするが格下で、更に惚れる因果関係と倫理観すら欠けていることも珍しくないため応援する気にならずエロシーンがムカつく。


 4 目的もなく散々世界を練り歩き無敵感を味わったあと、なんの結末もなく、かと言って人生の総括や得た物を語ることもなく無理やり終わるため読後感がない。


 5 キャラクターの人格が実年齢と比べ幼稚で言葉も薄く、作中で評価されているような強さや権力になんの説得力も無い。



 の5つのうち、3つくらいが当てはまる小説としています。



 まぁ、別にそれが悪いというワケではなく。よく、なろう系はコンビニ弁当に例えられますから、今日は疲れたし作るのも買いに行くのも面倒なのでコンビニで買って帰ろう、的な。



 頭使ったりスタミナ消費するような展開のある物語より、なろう系の方が優しくていいような日もありますから。なろう系は、ある意味用途用法を守って健康的に取り入れるべき成分なんじゃないかと思っています。



 作者よりも頭の良いキャラクターは書けない、とバカにされていても、逆に西尾維新みたいに作者の頭が良すぎてすべてのキャラのIQがクソ高く、少しも感情に共感出来ない上にトリックのネタバラシをされても納得より「分かるわけねぇだろ!」が先に来てしまうようなパターンもありますから。



 やはり、何事もバランスが大事なのです。ちょうどいい、というのがちょうどいいワケですな(小泉構文)。



 以下本編。



 基本的に、俺の好きな小説家といえば夏目漱石、太宰治などの文豪くらいでして。現代文学は特に何も考えず受賞作や「ミステリ 新作」と調べ出てきた持っていないモノを適当に買うものですから、『これ!』という推し作家みたいなのがいないのですよ。



 強いて言うなら、『毒入りチョコレート事件』のアントニー・バークリーと『氷菓』の米澤穂信でしょうか。コリン・ウィルソンというキチガイおじさんの著作である『現代殺人百科』も、宝物といえば宝物ですが。



 しかし、なぜ急にこんなことを言い出したかと言えば。今回はナチュラルに気が狂っているというか、明らかに違和感のあるキャラクターと、それを持て囃す周囲の異常な雰囲気を書ける作家が羨ましいという話だからです。



 プロ作家は緻密に組み立てられたキャラクターとストーリーを見事に操って作品を書き上げますから(例外はいっぱいありますが)、逆に今欲しているアイデアの参考にならないのです。本当に気が狂っている、絶対にヤバすぎる異常な空間がある、という違和感は、やはり本物にしか描けない才能めいた代物だと俺は思っているのです。



 それが、タイトルであるなろう系小説の悪人を書きたいという欲求の根本。コンビニ弁当の先にある、圧倒的に狂った世界観が欲しいという話なのです。つまり、『悪役』ではなく『悪人』を書きたいという言葉の本懐は、客観的なキャラクターの生き様から受ける印象の話なのですよ。



 ……いや、今回に限ってはマジで褒めてます。本当の本当です。



 本稿はサイコパスを書くのが苦手で、常識から外そうとして書くとどうしても一般人特有の作ったような偽物感が滲み出てしまい、狂い方に納得感があるという俺の悩みを打ち明けるモノとなっています。



 実を言うと、俺は何度か追放モノや婚約破棄モノを書いたことがあります。投稿しているメタ的なカウンターカルチャーではなく、ちゃんと小説サイトのランキング上位にあるようなモノです。



 もちろん、模倣です。読者からのポイントという分かりやすい結果で負けているワケですから、上位にいる作家の実力に俺が並んでるとは少しも思いませんが。とにかく、それっぽいモノを書いてはいるという話です。



 では、なぜ投稿出来なかったかといえば、俺が書くと俺が求めている狂気的な展開にならなかったからに他なりません。何がおかしいのかを説明できてしまう、この時点でもう三流以下なのですよ。



 俺的には、ですよ。



 スタンリー・キューブリック監督の映画作品に『シャイニング』という映画があります。まぁ、あのレベルの名作を例に出して俺程度のちょいオタが語るなどおこがましいという話もあるのですが、中盤の「何かがおかしくなっていってるけど、何がおかしいのか上手く説明できない気持ち悪さ」といえば分かりやすいでしょうか。



 みなさんがどう感じているかはわかりませんが、なろう系にはあのよく分からない空気感が充満していることがあるのですよ。鬼才であり天才でもあるキューブリックが心血を注ぎ作り上げた珠玉の雰囲気を、なろう作家はナチュラルに書き上げることが出来ていたりするのですよ。



 羨ましすぎんだよなぁ。



 ならば、なぜジャック・ニコルソンは大人気なのになろう系主人公が嫌われるのかといえば、そんなキャラクターを善として周囲が持ち上げ読者(と言ってもなろう系のメイン読者層は共感してるのでしょうが)と作中の評価がズレているからに他ならないのです。あれを悪役に据えることが出来れば、とんでもない名作が生まれるハズなんです。



 俺が次に書くのは、魔術世界のミステリ風ファンタジー。あくまで『風』であり、結局はファンタジー小説なワケですから。ガッツリ殺人を扱っていく、しかも手法が魔術であるならばナチュラルサイコなキャラが必要不可欠なのです。



 は、犯人にしてぇよぉ……っ。



 あぁいう、倫理観がブチ壊れていて完全なる他責思考を貫けて、信念とか理念とかねぇから中身は薄っぺらなのに強さだけは常軌を逸していて上辺だけの救いで市民たちに力を貸して、しかも自分の強さの異常性に気付かないくらい自分の世界にのめり込んでいて、あり得ないような気色悪さの口説き文句を言わせて、それに惚れるヤベェ女とか出して、しかもどうせゴミみてぇに捨てられるのに刹那的な快感に酔いしれる低能なハーレム侍らせてるような。



 そんな悪役を書きてぇんだよぉ……っ。



 うぅ……っ。う、うぅ、うぅ〜〜……っ。



 というワケで、サイコパス用に誂えた割とヤバめの魔術的トリック(ぼくがかんがえたさいきょうのまじゅつ)は、そういうキャラクターが書けるようになるまで温存しておきます。納得できるレベルのクズが生まれなければ、このアイデアは没にします。



 すいません、創作に関するネガティブな意見を聞かせてしまって。しかし、俺はストレスを解消するのがエシディシ並みに苦手なので、こうして書き起こして今どう思っているのかを形にし確認して、自分なりに噛み砕くしかないのです。



 そんな、なんてことのないエッセイでした。



 ところで、非現実的なトリックと言えば今年の『このミステリーがすごい!』の大賞を受賞した『ファラオの密室』は読みましたでしょうか。俺は、あぁいうエジプト系の褐色黒髪ぱっつん美女みたいなキャラクターが大好きすぎるので、思わず表紙買いして読んでみたのですが(クイーンズブレイドのメナスのせい、学生時代死ぬほどエロ同人買った)。



 あれ、物語的には面白かったです。謎解きは少し弱めですが、ビギナーにはちょうどいい塩梅だと思います。世界観が気に入れば最後まで一気に読んでしまえる作品だったので、もしも今読むミステリーに迷っているなら買ってみるといいかもしれません。

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