第6話 そうだ、王都に行こう

 昨日、ケモミミ様たちに舐めた口をきいて、オレから懲らしめられた店主が「これはサービスなので、朝食をどうぞ」なんて、最高のタイミングで持ってきてくれたので、なんだか悪いことをしてしまった気分になってしまった。




 4人で一緒に朝食をとる。




「さて、今日も夢の中に居るみたいだし、何しようかなー」




 とりあえず、優先してやることは『お金の確保』と決まっているが、具体的に何をすればいいのかがさっぱりわからない状況だからな。少し3人にも聞いてみるか。




「ねぇ、3人とも。少し聞きたいんだけど」




「どうしたの?」




 シアンがうれしそうにこちらを見て、聞き返してくる。




「ん、オレはこの世界のことあまり知らないんだけど、お金ってどうやって稼ぐのか知らない?」




「そうだなー。依頼を集めてるところがあるよ、そこで依頼をまとめて外注してるんだよ」


「なるほど、ギルドみたいなもんか」




「あ、でもね。この町は依頼自体が少ないから、生活するのも難しいくらいなの」




「ふむ。他の町人たちは、どうやって生活しているのかな?」


「みんなね、お互いに支え合って生きてるの、この人は動物狩ってくる、あの人はお野菜作る、こっちの人は遠い街に仕入れをする、そっちの人はお魚釣りする、みんなで支え合ってるから、お金が無くても生きていけるの」




 なるほどな、かなり昔の日本みたいだな。


 ん、それよりも気になることがあるぞ。




「獣人たちがいじめられているみたいだけど、どうして3人はここに居るの?」




「ワタシはね、遠くの街から来たんだけど、お金が無くなっちゃって困ってたの」


「レストはねー、ずいぶん前からここに居るんだけど、お腹が空いたらいたずらすればご飯くれるから何ともないのぉー」


「わたしはお酒くれないと暴れるから、毎晩少しのご飯とお酒もらってました…」




「シアンはともかく…レストにポミナは完全に迷惑なやつじゃん!」




「だってー、お金稼げないならしょうがないのー」


「わ、わたしも…」




 町人たちが邪見にしているのも納得だなぁ…。まぁでも、そこに至るためには原因もあるか。




「じゃあ、ここで生きていくのは難しそうだな」




「その通りなんだけど、ここから大きな街に行くために、最低でも7日以上歩かないといけないの」




「なるほど…、どのくらいの速度かにもよるけど、それって大変なの?」




「歩くのは簡単だけど、ご飯とお水が問題で…」


「つまり?」




「そんなに長い時間、水と食料を確保できないの」




 シアンとレストが説明してくれる。




「なるほどな。この町で、少しだけでも水とか食料は手に入るの?」


「手に入るけど、3日以上経つと腐っちゃうの。それに、この町では保存食を作ってないから…」




「それもそうだな、冷蔵庫なんてないしな…」


「だから、ボクも帰れなくなっちゃって…」




「さて、どうするか」


 サバイバルの知識は最低限ならある、でもそれは実践したことのない『アニメで得た知識』だ。困ったことにこちらの世界でも通用するかどうかは怪しい…。




「よし、じゃあこうしよう」




「何かいいこと思いついた?」




「まず始めに、ここでしばらく生活できるかの確認。次に、このあたりの周辺調査をする。周囲に、オレの使えそうな知識があれば、近くの街を目指すことにしよう」




「信希すごいの、なんだか冒険者みたい!」


「お、この世界にも冒険者がいるの?」




「いるよ!でも、すぐ死んじゃうの」


「どうしてかな?理由は分かる?」




「ご飯が無くなっちゃうの、それと獣人でも倒せない魔獣はいっぱいいるの」




 レストは物知りだな。この世界のことを色々知っているみたいだ。




「それはポミナにも難しいことかな?」




 ポミナは、オレが実際に感じた強い力を持っていた。




「魔獣は、怖いのはそんなに多くないけど、ご飯がダメです」


「なるほど」




「ん?待てよ、そう言えば町中に獣人か?トカゲみたいな人とかエルフみたいな人いたよな?あの人たちは?差別されたりしないの?」




「ああ、彼らはね『神に近い存在』なんだよ!少しだけ特殊な力を持ってるの」


「ふーん、それだけで差別されないんだ?3人とは何か違うの?」




「わたしたちはね、本当の獣と人間の血が混じってるの、あの人たちも獣の種類が違うだけなんだけど『神に近しい存在』になれるのー」




「なんだそりゃ…」


「上位種っていうんだよ、この世界には居なくちゃダメな存在なんだって」


「なるほど…なんだか複雑そうだな…。それ以上に知ってることとかある?」




「ん-、わかんない!」


「そう、か…」




 なんだか、この世界は弱者には厳しい世界みたいだな。まぁ、日本がある世界でも差別やそれに似たことは問題になっていたよな。どんな世界でも一緒なのかよ…。気分が悪くなりかけたので、強引に話を戻す。




「シアンはここに来るとき、どうやって来たの?」


「ボクは王都から来たんだけど、来るときは、色々なご飯があったから来られた感じだね」




「王都?」


「とっても大きな街だよ!王様がいるの!」




「シアンも魔獣は倒せる?」


「強い魔獣に合っても逃げられるからねっ!」




 最高のドヤ顔である。「エッヘン!」と言っているあたり、逃げ足には自信があるようだ。




 なんだか、RPGゲームをやっているみたいで楽しくなってくる。現実では、食事などのプラス要素も含まれるが、ワクワクしてきた。




「とりあえず、町の確認と外の確認をしてみようか」


「「はーい!」」




 ──。




「これは、まずい状況になったな」




 町人たちから反感を買ってしまったみたいだ。さすがにやりすぎたか…。




「どなたかは存じませんが、今日でこの町から出ていってもらえませんか。あなたみたいな存在がいると、みんなからの暗殺依頼がすごくてね」




 そう言っているのは、いかにも町長のような風格であるおじいさんだ。




「では、出ていくので少しだけの期間をしのげるだけの食料をいただけますか?もちろん、金銭はお支払いしますし、望むものがあれば可能な限り相談に乗ります」




 ここで暴れるのは簡単だが、相手の強さも、3人の強さも把握できていないから戦闘は望ましくないな…。




「食料は構わん、質の良いものを用意させる」




 おじいさんはそう言うと、近くに居た連中に指示をだす。




「それからもう1つ。その獣人の娘たちも連れて行ってくれ、彼女たちはこの町では生きづらいだろうからな」




 つまり、邪魔者すべて追い出したいわけだ。まぁ、オレはケモミミ様たちにすべてをささげる覚悟だからな。問題ないが。




「了解した、それで構わない。可能な限り食料をください」




 そうして、昨日の銀貨1枚のおつりだった小銭を全て町長に渡した。




 ─しばらくしてから、指示されていた若い連中が戻ってきて、大きなリュックに3つ分の食料を分けてくれた。




「すまん、金以下の食料しか用意することができなかった。お返しする」




「いや、それはもらっておいてくれ。宿も壊したし、それで修理してくれ」




 町長と話している時に、外套が後ろから引っ張られる。




「ねぇ、信希ワタシたち邪魔になってない…?」




 シアンが泣きそうな顔でこっちを見てくる。




「シアン、大丈夫だよ。オレが何とかしてあげるから」




「心強いの、頼りにしてるの、レストにできることあったら言ってほしいの」


「わたしも力仕事ならできます…」




「ああ、3人とも全員王都まで連れていくと約束するよ。それじゃあ行こうか」




 ほぼ強引な状況だったが、彼らを全員殺す気分にもならないし、彼女たちにそんな光景は見せられないだろう。オレは時間が惜しいと考え、すぐに町を出ることにした。




 それにしても、追い出すつもりなら、どうして宿のばあさんは朝飯くれたんだろ…。以外に良い奴だったんかな?まぁ、いいか。考えても仕方がないな。




 そんなことを考えつつ町を出発しようとした時に、彼女が出口の外で待っていた。




「あ…昨日の…」




 そう、あの一番最初に見つけた獣人である。




「すこしだけ確認したいことがあ─」


「本っ当にごめんっ!」




 オレは勢いよく、彼女の前で土下座する。




「なっ─」


「ケモミミ美女を初めて見たからと言って、つい興奮してしまった!本当に悪気はなかったんだ!少しだけ話してみたいと思っただけなんだ!許してくれ!」




「わ、分かったから!ワタシの話を聞いてぇ!」




「え…許してくれるのか!?」


「ああ、だから落ち着いて…」




 どうやら許してくれるみたいだ…。




「ありがとう!」




「んんっ!ワタシの話を聞いてくれますか?」


「もちろんだとも!」




 最初に出会ったケモミミ美少女は、なんだかオレに聞きたいことがあるみたいだ。




「あなたは、この世界のことをどれくらい知っている?」




 なんだか意味ありげな質問だな…。




「あー、オレはこの世界のことについて、ほとんど何も知らない。信じられないだろうけど、気が付いたらこの世界に居たんだよ」




 そういうとケモミミ美少女は、思案する顔をしている。




「…あの?」


「ああ、すみません。やはりあなたは怪しい存在のようですね」




「それは…オレが『くさい』ってやつですかっ!?」




 これ以上美女に嫌われるのは嫌だ!絶対に確認する!!


 彼女に勢いよく近づき、オレの匂いについて確認しようとする。




「はあぁっ!?何を言っていって、離れてぇ!」




 思い切り蹴り飛ばされる、あまり痛くないが、結構ショックだ…。




「やっぱオレってくさいの…?」




「信希はいい匂いだよね?」


「「うん」」




 後ろで3人が「何言ってるんだろうねー」とつぶやいているが、オレには『ニオイ』の問題が優先事項だ。




「どういう風にくさいのか教えてくれぇ!」


「ち、ちがう!くさいわけじゃない!落ち着いてぇ!!」




「じゃ、どういう…」


「んんっ!彼女たちに危害を加えるかもしれない!だから近くに居て確認させてもらいます!」




 これが棚ぼた…か?一目見た時から最高のケモミミだとは思っていたが、そんな彼女とこれから先冒険できるのか?




「おお…神よ…我に希望をくれてありがとう…」




「ん、あなたは神を信じるのですか?」


「え?これ?オレが居た世界では、信仰してる人が居るだけで、実在はしないとされてるけど?」




「じゃあ、それは…?」


「うーん、感謝の気持ちを伝えるための手段…?かな」




「そう…」




 しかし、このケモミミ美少女は、小さい割にしっかりとした喋り方で、妙な貫禄みたいなものがあるな。3人も静かにしてるみたいだし、もしかして『強い人』だったりするのかな…。




 突然、4人での旅が1名プラスになって出発した。

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