高校に帰ってこさせられたセクシーパラディン:S3
ユーキチはサキュバスを肩に乗せたまま校門を通り、御佐管野高校の中へ入った。しかし校舎へは入らず、そのままグラウンドへ向かう。今はもう放課後で各部はクラブ活動を開始していた。
彼は朝のHRに出席し転校生として紹介され校内を見学し……という手順を踏むつもりは無かった。しれっと部活にだけ顔を出し4校対抗リーグの試合へ出場してチームを勝たせ、インキュバスを解放してあちらへ帰るつもりなのだ。
「イッチニッサン! ニィニッサン!」
グランドに着くと、そんなかけ声と共にサッカー部の一員がダンスともジョギングとも呼べない謎の動きをしていた。
「ねえ、セクシーパラディン? あれは何?」
「たぶん御佐管野高校に伝わるブラジリアン体操やろ」
ユーキチは記憶を辿ってサッカー部につきもののウォーミングアップの名を告げた。
「あっ、それ知ってるぅ! 何日もかけてお互いの気持ちを高めあってから挿入へいたるプレイだよね?」
「それはポリネシアンセ……や! 国がちゃう!」
セクシーパラディンは思わず大きな声で突っ込んでしまったが、それは致し方ない事と言えよう。サキュバスの知識はある方面に偏っているのだ。
むしろ問題なのは、ツッコミの声が大きかった事だ。本来の望みと裏腹に、周囲の注目が集まってしまった。
「いや、なんでもないねん」
ユーキチは片手で顔を隠し片手で周囲に手を振った。彼の父親は生粋の関西人かつツッコミ体質である。ユーキチが覇霊寺へ修行に出る前は、家族や訪ねてきた教え子のボケに大きな声でツッコムのをずっと聞いてきた。その血が半分ではあるが、彼にも流れているのだ。
「あんたら、なに言ってんのん? てかなんでここにドスケベな感じのハーフエルフとサキュバスがおるんやね……」
ふと、彼らの背中へそんな声がかけられた。
その場にいたのはボサボサ髪に大きな眼鏡、そして明らかに運動慣れしていなさそうな体格をした女子高生であった。
「幻術を見破ったんか。ほな君がサッカー部のマネージャー、目渡(めわたり)さんなんやな?」
ユーキチは髪を耳にかけながら言う。ハーフエルフの彼は母親たちエルフほどではないが耳が尖っている。それを誤魔化す為と、その身から溢れ出るセクシーさを隠す為に凡庸な見かけになるような幻術をかけて貰ってきていた。
しかし声をかけてきた女子、目渡はそれを見破ってしまったのだ。透明のコウモリになってユーキチの肩に座るサキュバスともども。
「はぁ? なんでうちのことしっとるん?」
目渡は警戒しながらニーソックスの中に片手を差し込んだ。同時にボサボサの髪が蛇のように鎌首をもたげる。
「ニーソの中から呪符を出した! エッチでよいね!」
「喜んでいる場合ちゃうやろ! 待ってくれ、俺は話し合いにきたんや」
前半はサキュバスに、後半は目渡に向かってユーキチは言った。
「話し合い? それは隠語的な意味合いで?」
「ちゃうわ! アイツのことや!」
ニーソックスから取り出した呪符で涎を拭う目渡に向けてある方向を指さす。
「ドイツがオランダ?」
そう言いながら彼女が見た方向には、筋肉が盛りに盛り上がった長身の上にベビーフェイスが載った、一人の青年がいた。
「さっちゃん!」
「いんくん!」
その青年が叫び、ユーキチの元まで駆け寄ってくる。呼応したのはもちろん、肩に乗ったサキュバスだ。
「知り合い? ほなあんたら……」
「そうだ。俺の名はユーキチ、異世界から来た。隠田・キュバス・淳一君を返して欲しい!」
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