異世界に転移したらギルドランキング最下位の魔獣使いになりました。スライムより弱いトカゲをテイムして上位を目指します〜え? おまえ、伝説のドラゴンだったの!?〜

神伊 咲児

第1話 最弱のトカゲをテイムする

「ギャハハ! マジかよ! プチトカゲっておま! ちょ、笑わせんなってぇええ!! ギャハハーー!!」


 ギルドの酒場は笑いに包まれていた。


 ああ、やっちゃったなぁ……。


「プチトカゲって最弱中の最弱だぞ? スライムより弱いんだぞ? それをわかってテイムしたのかよぉ!? ギャハハハーー!!」

「プチトカゲをテイムする魔物使いなんて初めて見たぜ! ガハハハ!」

「坊やは帰ってミルクでも飲んでなさいな。子供にゃ冒険は危険なんだからさ。アハハ!」


 レベル1の魔物使いは1匹のモンスターしかテイムできない。


 勿論知っていたさ。

 だって、空中に浮かび上がるステータス画面には注意書きがあったんだからな。


 それでも俺はテイムをしちゃったんだ……。

 この肩に乗っている小さなトカゲを。


 こいつと出会ったことを話す前に、俺がどうしてこんな世界にいるのかを話さなくちゃならない。

 この、剣と魔法の異世界にいる理由を──。




 俺の名前は麻尾あさお 蓮太れんた

 14歳の中学2年生だ。

 ……だった。というのが正確かもしれないな。


 病弱で、余命宣告をされてしまった。

 小学生の時から体が弱くて、体育の時間は見学ばかり。

 中学になっても入退院を繰り返してたっけ。


 入院中はラノベばっかり読んでたな。

 異世界に転生するヤツとかさ。

 剣と魔法とモンスターが出てきて、バトルして強くなって、最高に楽しい冒険なんだ。想像するとワクワクする。


 俺も死んだらさ。

 転生して、そんな風に冒険したいな……。

 転移でもいいけどさ。こんな病弱な体じゃなぁ……。


 そんな俺は昏睡状態に陥った。

 ああ、このまま死ぬんだ。って確信したね。


 楽しい人生じゃなかった。

 病弱で友達はいなかったしな。


 死んだら生まれ変われるのかな?

 なら、異世界とかさ……。


 神さま。

 お願いします。


 意識は深い闇に包まれる。


 欲はいいません。

 元気な体だけでいいです……。

 




「……あれ? ここどこだ?」


 俺は森の中で寝ていた。


 もしかしてここがあの世かな?


 でも、痛覚はあるな。

 木々の匂い。草の青臭さ。地面からは土の匂いがするし……。


「夢……に、してはリアルだな? てことは死んでないのか。それにしても、なんだこの服装?」


 ゲームでいうところの旅人の服みたいな感じ。

 死んだ人が行く世界にしても妙に中世っぽい……。


 近くの川の水面に、自分の姿を映して見る。


「俺じゃん」


 そう。

 14歳の麻尾 蓮太だ。


 でも……。血色がいい。肉付きだって健康そのもの。

 それに、


「動いても疲れないぞ? 走っても全然平気だ!」


 なぜか健康な体になっていた。

 神さまに願いが通じたのかな? それとも病院の治療が成功した?


 とにかく、俺は元気だった。


「うは!」


 誰が治してくれたのかはわからないけどさ。とにかくお礼を言っておこう。

 

「ありがとうございます!」


 さて……。


「ここはどこだろう?」


 病院の近くにこんな森あったかな?


カササ!!


 と、草木が揺れる。

 何かが潜む気配がした。

 こっそり、木の裏に隠れて、その気配を探った。


 え!? 嘘だろ??


『ゴブ……ゴブゴブ』


 緑の肌に尖った耳。

 鋭い瞳に口には大きな牙が見える。


 ゴ、ゴブリンだ!


 ゲームなんかでよく見かけるモンスター。

 背丈は俺より低いが凶悪な面構えだ。

 持ってる武器は石斧と弓矢。

 そんなのが3匹もいる。

 

 リアルで見るとめっちゃ怖い!

 バレたら絶対殺される!


 俺は息を殺してその場を去った。


「ふぅ……。ここなら安心だろう」


 それにしても、どうしてモンスターがいるんだ?

 ここは日本じゃないのか?

 もしかして異世界??


 ……正かだよな。ははは。

 でも、もしかして……。


「ステータス。オープン! ……なんちゃって、そんな風に叫んでも何も──」


 空中に数値が浮かび上がる。


「出たーーーー!! ステータス出ちゃったよーー!!」


 すげぇ!

 この展開は間違いない!


「俺は異世界に転移したんだ!」


 うはーー!

 やっほーーい!!


「おっと、喜んでる場合か。早速ステータスの確認だ」


 どれどれ……?





名前:レンタ・アサオ


ギルドランキング:9503位


LV:1


攻撃:2


体力:10


防御:3


速度:10


知力:10


魔力:10


職業:魔獣使い。


スキル

:魔獣契約。






「全体的に数値が低いな……。まぁ、レベル1だし、そんなもんか。ギルドランキングってなんだろ? やたら数値が高いけど……。もしかして、ランキングだから、相当下ってことかもしれないぞ。まぁ、これもいいや、レベル1だし当然だろう。んで、職業が……」


 魔獣使い。


 うーーん。

 ちょっと意外な職業だったな。

 剣士とか魔法使いが良かったような……。


 スキルが魔獣契約ねぇ。

 と、いうことは魔獣を仲間にできるってことだよね?

 日本では友達がいなかったからな。魔獣でも仲間にできれば楽しいか……。


 どうやって使うんだろ?


 文字を触ると説明文が現れる。



魔獣契約テイム レベル1


魔物を1体、仲間にすることができる。



 おお。

 なんか面白そうだな。

 懐かしいや。小学生の時はモンスターを捕まえてバトルさせるゲームでよく遊んだっけ。

 ふふ。魔獣の仲間か。いいね。


「んじゃあ、慎重に選ばないとな」


 さっきのゴブリンとかも魔獣契約テイムできるのかもしれないけどさ。どうせするんなら強いモンスターがいいよな。

 なにせ1匹しかできないんだからさ。


 などと思っていると、1匹のトカゲが倒れているのに遭遇する。


 うわ……。血だらけだな。

 背中に矢が刺さってる……。さっきのゴブリンにやられたんだろうか?


 大きさは日本のトカゲよりほんの少し大きいくらいかな。


 ピクピクと痙攣して、鳴き声を上げる。


『ク……クク……』


 うう。

 病院で寝たきりだった自分を見ているようだ。


 助けてあげたいけどさ。

 方法がわからないし……。


 ステータス画面をポチポチと触る。


「回復魔法とか使えないのかなぁ……、って?」



魔獣契約テイムの方法。


瀕死のモンスターか、意思疎通ができるモンスターが魔獣契約テイムできる条件である。

モンスターの額に手を当て、詠唱すれば魔獣契約テイムは完了する。

魔獣契約テイムされたモンスターは 主人マスターに忠誠を誓う。

尚、魔獣契約テイム特典として、体力は全快する。



 ほぉ。

 瀕死のモンスターなら魔獣契約テイムできるのか……。


「コイツ……。瀕死だよな」


 しかも、特典を使えば全快……。

 でも、絶対に弱いんだ。

 こんな小さなトカゲでさ。強いわけないもん。


 トカゲの大きな瞳は俺を見つめる。


「こいつ……。目が大きくて案外可愛いな……」


 その目には涙が滲んでいた。


「ああーーもう! わかったよ! 助けてやるよぉ!」


 えーーと、額に俺の手を合わせて詠唱だったな。



魔獣契約テイム



 その瞬間。強烈な光が俺とトカゲを包み込む。


「うわ! 眩しい!!」


 光が収まると、トカゲの体から矢は抜け落ち、その傷は治っていた。


『クク!!』


「良かった。治ったんだな」


 ふと、違和感に気が付く。

 俺の両手の甲は強烈な光を放っていたのだ。


「なんだこりゃ?」


 何かの絵のように見える。


 右手が鍵で左手が錠前……だよね?

 なんのマークだこれ?


『クケケ』


 トカゲは俺の体に頭を擦り付けていた。


「ははは。おまえ喜んでんのか? ふふふ。くすぐったいよ」


 トカゲの額には小さな紋様が浮かび上がる。

 おそらく魔獣契約の証だろう。


 じゃあ、この手の甲の模様はなんだ??


 小首を傾げていると、甲に記された模様の輝きは消滅してしまった。

 トカゲの紋様も消える。


 よくわからんな。

 まぁいっか。


 と、その時である。

 草むらからゼリー状の物体が現れた。


「おお! もしかしてスライムか!?」


 プルプルと震えるその体は体長およそ40センチ。

 まぁ、脅威的な怖さはないわな。


「よし。これならお前でも勝てるだろ」


 と、トカゲを見ると、スライムに捕まって溺れていた。


『クケ……クケ……』


「トカゲーーーー!!」


 俺は即座にそこからトカゲの体を引き出した。

 そして、


「フン!」


グチャ!


 踏みつけるとスライムは消滅した。

 

「おお……。モンスターに初勝利」


 スライム弱いな……。


 それにしても、転移してからの初バトルがこれでいいのだろうか?

 魔獣使いが魔獣を助けて本体で倒しちゃったよ。


 トカゲは俺の体に顔を擦り付けて喜んでいた。


『ククケ〜〜』


 やれやれ。


「お前、弱すぎだよな……」


カササ。


 再び、草むら揺れる。


「またスライムかな?」

 

 今度は3体のゴブリンだった。


『『『 ゴブゴブ! 』』』


「えええええ!?」


 1体ならまだしも、3体は多いって!

 スライムに負けるレベルのトカゲじゃ刃が立たないぞ。

 しかも、ゴブリンは武器を持ってるしな。こっちは丸腰なんだ。


 ゴブリンは矢を飛ばしてきた。


「ひぃいい!!」


 こんな矢が体に刺さったら重症だぞ。


 トカゲを見ると臨戦体制。

 尻尾をピンと立ててキシャーーと威嚇していた。


 いやいや。

 戦って勝てる相手じゃないって!


 俺はトカゲを掬い上げて、


『クケ?』

「逃げるが勝ちーーーー!!」


 川沿いを下って走り続ける。

 何かの本で読んだことがあるんだ。

 川の下流には人が住む場所があるって。


 にしても、こんなに元気に走れるなんてすごい体に転生したもんだよ。


 トカゲは俺の腕の中で暴れていた。

 

「クケーー! ククケケーー!!」


 その動きは、まるで戻って戦いたい、とでもいうような仕草だった。


「おまえ、攻めっ気だけはあるんだな……」


 もう何キロ走っただろうか?

 流石にバテてきたな。


「ちょっと休憩だ。ここまでくれば安心だろう」


 川の水は澄んでいて綺麗だった。

 飲むとほんのり甘くて美味い。

 トカゲは俺の仕草を見て、真似るように水を飲んでいた。

 水を飲み終えると俺の肩に乗って頬に顔を擦りつける。


「おまえにも名前は必要だよな」


『クク?』


「んーー。じゃあ、シンプルに『クク』にしようか」


『クク!』


「あ、嬉しい?」


『クク! クククク♪』


 なんか上機嫌っぽいぞ。


 ふふふ。

 弱いモンスターを魔獣契約テイムしちゃったけどさ。

 俺も病弱で弱かったからな。2人でゆっくり強くなればいっか。


「俺はレンタだ。よろしくなクク」


『クック?』


「ふふふ。、だよ」


『クック! クック!』


「ふふふ。なんか理解してくれたっぽいな。おまえ、結構、頭はいいのかもな」


 それから数十キロ歩いた。


「お! 村だ……。村があるぞクク!」


『クキャ!』


 そこはカイシノ村。

 そこには小さな冒険者ギルドがあった。



──

公募用作品。

全4話です。12000字程度。

よろしくお願いします。

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