第97話【 柩(ひつぎ)となる身体 】
暗く深い森の中が、一際明るくなっている場所がある。
エルが手に持ついつもの短剣が、バチバチと白く輝いているのだ。それは、霊力をまとう短剣の証。
その前には……。
<グオャオ━━━━ッ>
身体中鋭い突起物に覆われた巨体と、鬼に似た形相の魔物が雄叫びを上げながら腕を振り上げていた。
クラスS下位に相当するオーガの変異体、
「実験する様で心苦しいけど……、」
素早く振り下ろされる鋼の様なエキーノスオーガの腕を……。
<スパンッ>
簡単に斬り落とすエル。
同時に突起物が飛んでくるが、それを<ヒラリ>と交わしていく。
<ドガドガドガッ>
その突起物が地面をえぐり、重い音が響き渡る。
巻き上がる土煙と落ち葉や枝。
そんな中を掻い潜り、エキーノスオーガへと素早く近付くカルディアがいた。
クラスS下位のエキーノスオーガは、その巨体に似つかない素早さを持っているが、カルディアの姿を捉える事が出来てないみたいで無反応だ。
斬り落とされ地面に落ちた腕が ” 無 “ へと遷移されていく。
それを確認してから、カルディアはエキーノスオーガの腕にあの魔法を。
「
<パパァ━━━━━━━ンッ>
<…………………………>
「見てエル! やっぱり再生しない!!」
黒い光と白い光が混じる事無く交差しながらエキーノスオーガの腕から立ち上り消えていく。
それを見つめるエルとカルディアだが、当然エキーノスオーガの直ぐ横でそれを確かめている為、上から突起物を飛ばしながら噛み付こうと醜い牙剥き出しで襲ってきていた。
<ズバズバズバズバッ>
エルとカルディアの近くで、飛んでくる突起物も一緒に突然斬り刻まれ粉々になるエキーノスオーガ。
肉片が落ちるその先には、剣を握り締める目隠しされたアルガロスが立っていた。
エルとカルディアは、エキーノスオーガを全く気にしていないみたいだ。
そんな彼等の間から、鼻下をのばし覗き込んで来るアルガロスがいる。
「どうだ? 再生されなかったか?」
アルガロスも全く危機感無く、今の状況を確認している。
「うん!」
エルとカルディアは2人同時にそう返事をし、喜びを隠しきれず3人でハイタッチしていた。
そんな光景を見ながら、少し安心した様な笑みを浮かべるモサミスケール。
【 あの時、エルの腕が無くなったのは ” 無 “ に遷移されたんじゃなく、自身の残虐な魔力による単なる腐食、侵食じゃったのか! 】
【 と言う事は、やはりエルの器の強化が先決か… 】
笑みを浮かべた後、安堵と不安が入り混じる表情になり、今後の展開に深く複雑な思いが膨れ上がっていく。
「イテッ」
突然声を上げるアルガロス。
右手を振りながらちょっぴり涙目だ。
「どした? アルガロス」
とエルが声を掛けると、アルガロスは目隠しを取りながら麻袋の中から妙な塊を素手で触らない様に取り出した。
「すっかり忘れてたけどコレ……、イリヤスさんとこの鉱山で見つけた変な塊なんだけどな」
「あれっ?形が変わってる……」
鉱山で見つけた弾力のあるスライム状の小さな塊。
当初見つけた時は楕円形の丸い形だったが、少し凹凸があり長細くなっていた。
「素手じゃ痛いぜ?!」
と言いながら、それをエルに手渡した瞬間……、
<バチバチッ ブワッ>
と逆立つエルの髪。
その勢いで、モサミスケールが宙を舞ってしまう。
エルの回りでは黒と白の光が交差しながら立ち昇り、その表情はとても酷烈だ。
【 ど、どしたんじゃエル? 】
突然の事で焦りを隠せないモサミスケールは、エルの回りを右往左往しながら心配している。
「これ………、アルガロスの魔力が強いから分からなかったけど……」
「この異質な魔力は……、育つ前の悪魔の塊だ………」
「ええ━━━━━━━っっっ???」
アルガロス、カルディア、モサミスケールは声を合わせて驚いている。
彼等は[ 悪魔 ]と対峙した事があるからだ。
カークスギルドのメンバー達と一緒に入ったエレティコス秘境のイエローダンジョン。
その中で、悪魔である混迷の魔術師リーゾックと戦った事が……。
*第37話〜54話参照
<バチバチッ>
エルの手の上で、弾ける様に魔力の波が反発している。
“ 触るな ” ……とでも主張している様に。
「まだまだ小さく未熟だから、何の悪魔に育つか分からないけど……、とても危険な塊には違いない……」
エルの言葉を聞いて何かを思い出したのか、モサミスケールの表情が険しく一変し、ある言葉をつぶやく。
【 マヴロス・オーブ……… 】
「マヴロス・オーブ??」
エル達は聞き慣れない言葉に困惑していて、息を飲むようにモサミスケールの話を聞いていた。
【 又聞きじゃから確かかどうか分からんが、何らかの力により自身が消滅する前にマヴロス・オーブになると、時を経て復活をする事が出来る悪魔の秘策……と噂されとる…… 】
【 混迷の魔術師リーゾックは小さな偶然が重なった復活じゃったが、噂のあるマヴロス・オーブが確かなら、必然と考える事が出来る……。それが本当なら……由々しき事態じゃ…… 】
モサミスケールは、過去の記憶の糸を繋ぐ様に思い出しながら話をしていた。
そして、さらに古い記憶を紡いでいく。
【 ……アルガロス、上の服を脱いでみろ 】
「はぁ?何でだよ…」
【 確認したい事があるんじゃ。はよせんか! 】
悪魔の様な形相で睨まれたアルガロスは、ブツブツ言いながら上の服を脱いだ。
すると………。
みんなの驚いた顔がアルガロスの目に映る。
それに促される様に自身の身体を確認すると……。
「な、なんだぁ?? このヘンテコな模様は…!?」
アルガロスの身体には、幾重もの黒い模様が刻まれていたのだ。
モサミスケールの暗く重い表情が…何かを確信する様に沈んでいく。
【 ………安全に復活する為、
「
焦るアルガロスはその模様を手で擦り消そうとするが……、無情な言葉がモサミスケールからこぼれ出る。
【 一度刻印されてしまえば、死ぬまで消えぬと言われてるんじゃ……】
「えっ?……………」
夕暮れの綺麗な空とは対象的に、アルガロスの不安で焦る顔が浮かぶ。
そして……、エルの苦難に満ちた表情とともに、もろく崩れた決意が…沈みくすむ様に…流れて行った。
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