第95話【 歪みという摂理 】


 <パチンッ>


 熱に弾ける焚き火の木。


タナトス死の渓谷での焚き火は死に値する。

夜に活性しやすい魔物が、見えない暗闇の中から襲って来る可能性が高いからだ。


特に火の光に慣れた目はその煽りを受け、動く物を捉えられなくなる。

しかし彼等は……そんな中でも平然と焚き火をしていた。


何故なら魔物は……、あまりにも魔力には怯えて近付いてこないからだ。

エルが……自身の魔力の一部を開放していたから……。



 <ゴゥオオオー………>


 彼等の上空で、エルの魔力と風がぶつかる音が響く。


エルの軌跡を、3段石の悲劇からこの地に戻って来る迄の詳しい話を……、アルガロス、カルディアに全て話していた。


下界の3段石⇒漂う大陸⇒天空に浮ぶ精霊の地。

そして、天空に浮ぶ精霊の地⇒漂う大陸⇒下界の3段石と戻って来た事を。

3っつの世界を守る世界樹姉妹、ユグ、ドラ、シル。

出会った精霊達や戦ってきた魔物達。


エルは、思い出せる全てを……2人に伝えた。


「ふぅ〜ん。地獄みたいなえげつない世界があるんだなぁ」


「見て見たいわね! 世界樹の女の子達!!」


アルガロス、カルディアは…………………………。

何故か平然と話を受け入れていた。


「なぁエル、もっとビックリする話かと思ったら、そんな事かよ!大した事ないじゃん」


「確かに信じられない様な世界が有るってのには驚きだけどよ、俺はそれでも生きる事が出来たにビックリだよ!!」


アルガロスは、全てを曝け出してくれたエルに、正直な気持ちを伝えていた。

カルディアも同じで、綺麗な夜空を見上げながら微笑んでいる。


「個々の深い話は恐ろしい事も含まれてるけど、私はエルと出会ってからビックリする事だらけだから、慣れてきたのかもね!」


2人は………、やはりいつもの2人だった。


エルは分かっていたのかもしれない。今迄一緒に歩んで来た道。かなり濃い日々を共に過ごした仲間。

だから、今迄の自分の事を全て伝え、これからの事を一緒に考えていこうとしているのだ。


カサトスとラミラの後を追う様な事は…絶対に……。

アルガロスとカルディアの安全の為に……。



 モサミスケールがエルの頭の上で空を仰いでいる。

彼もまた、今迄の事を思い返していた。

エルと出会って降り立った下界。アルガロスやカルディアとの暮らし。そして人間達。


世界樹のシルから口止めされている事柄を全て話す為に覚悟を……。


<ゴゴオォ………>


【 魔力を宿し扱う罪深き人間。彼等が得る魔力の祝福は、神から授かる最初で最後の贈り物 】


【 霊力を宿し扱う精霊達も同様に、彼等が得る霊力の祝福は、神から授かる最初で最後の贈り物 】


【 罪深き人間も精霊達も、自身の努力によって成長し、強く、たくましく育っていく 】



モサミスケールは、おもむろに口を動かしていく。

エル達は、それを遮る事無く聞き入っていた。



【 しかし、魔物はそれらに値しない。漂う魔力を吸収しながら醜く強く変異していく 】


【 これらは……… 】


【 遥か…遥か昔。この星に漂う土を基に罪深き人間が創られた頃、人間を管理していたのは神の遣いである天使達。神の力を分け与えられた天使達が不遜により反乱を起し、神からを奪われ追放された 】


【 追放され、堕天使となった彼等はこの星に漂う魔力を吸収し、力をつけ、再度神へと戦いを挑んだ。が、結果は同じ…。この時、堕天使達はみな……神の神機で “ 無 ” へと遷移されてしまった 】


【 こうして、この世界は平穏を取り戻したと古言されておる。ワシや精霊達、世界樹すらうかがい知れない太古の話じゃ 】



夜空に一筋の流れ星。

珍しく静まり返ったタナトス死の渓谷に、モサミスケールの言葉が重く響き渡る。



【 しかし…見えない歪み…… 】


【 この世界の歪みは誰にも治す事は出来ない。あの神でさえ……。歪みと言うより………それがなのかもしれん 】


【 幾世もの時を経て、魔力が大気を埋め尽くす様になる。その魔力の根源は………、天を追放され “ 無 ” へと遷移されてしまった堕天使達の魔力…… 】


【 本来、魔力が “ 無 ” へと遷移されると、飛散する事無く消滅するが、堕天使達の魔力は余りにも濃く強大過ぎる為、歪みを作り出し流れ出ていったのじゃ 】


【 流れ出た魔力は霊界の下に溜まり、濃度が濃くなると下界へと落ちていく。それを防ぐ為に漂う大陸を造り受け皿としたが、流れ出る魔力は余りにも多く、下界にも少しずつ染み出している 】


【 強大で無秩序で……残虐で混沌とした魔力……。膨大な魔力が流れ出し、それが古の魔物を創り出す種となって、魔物は現在も成長・進化を続けている 】


モサミスケールは下界から望める空を…、天を仰ぎ、忌み嫌う様に怪訝な表情を浮かべた。


【 魔物達の上に万劫と遍満する堕天使達の魔力。遥か昔に、その凶悪な堕天使達を束ねていた王がいた 】


【 その名が……… 】









       【 ルシファー 】

  ◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈

       L U C I F E R

    אֵיךְ נָפַלְתָּ מִשָּׁמַיִם הֵילֵל בֶּן שָּׁחַר

  ◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈









<フオオォォォー………>


魔力と大地の風がお互いを牽制し合うようにゆっくり渦を巻く。

何かに……怯えている様に………。


【 エルが祝福で授かった力じゃ……… 】


「ええっ!? 俺の!?」


【 そうじゃ。ただ……、授かった鍵は白く輝いていた。それは紛れもなく。刻まれた文字はルシファー………紛れもなく……… 】


【 さらに不自然なのは……、数千年と続き、例外なくスキル能力を祝福として授けてきた筈が……、ルシファーと言う “ 個 ” が祝福されてしまった事…… 】


【 これら話した事はワシも含め、あの世界樹達も理解出来ぬ事。何故、魔力と霊力が1つの身体に宿る事が出来るのか。何故 ” 個 “ が授かったのか…… 】


【 時間をかけ、深く考えたんじゃが答えは分からぬままじゃ……… 】


そう言ってモサミスケールはまた……、天を仰いだ。



<ゴオオ━━………………………………>



天へと昇る魔力が弱まり、和やかな風が大地の香りを空へと運ぶ。風が空を癒やすかの様に……。



「んー……」


カルディアが、今迄の話を聞いて腑に落ちないと言いたげな顔をしている。


「あのねモサミ……、 “ 個 ” の事は分からないからちょっと置いとくけどさぁ、何で魔力と霊力をと考えてるの?」


【 ん? どう言う事じゃ? 】



「元々1つだったんじゃないの?」

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