第56話【 それぞれの役目 】


 <ドドドドドッ>


VAL印の紋章が入った2頭立ての荷馬車。

その中で、荷物の間で揺れる真剣な表情をした4人のハンターがいる。

このVAL印の紋章は、バルコリン商人が所有する荷馬車と言う事を表している。


ゴトゴトと揺られているのは、ブノーガギルドマスターのバジールと、同じギルドのテリアーノ。

そして、カークスギルドマスターのクラウディーと、同じギルドのヤブロス。


このメンバーで、行方不明となったエインセルギルドの情報を得ようと ” 極秘 “ で動いてるのだ。


本来は、局長からブノーガギルド数名で動いて欲しいとの事だったが、クラウディーが強引に割り込んだ形だ。



『リッサ……何があったんだ……』


不安気な表情を浮かべ、外を眺めているクラウディーがいる。

そんなクラウディーをよそに、バジールは腕を組み、少し不機嫌そうだ。


「クラウディー、お前の気持ちは分かるが、かなり強引だったぞ。局長もそうなる事を予想、心配してブノーガに依頼したんだぜ」


「……分かってる。焦りが全てを無駄にしてしまう事もあるからな……」


「でもな…エインセルギルドは……、リッサは……」


バジールは、クラウディーの肩を<ポンッ>と叩いた。


「何かの間違いかもしれねーし。今頃バルコリンに着いてたりしてな!」


「……そうだと良いんだが……」


暗い表情のクラウディーは、外を眺めるしか出来なかった。




 なぜ “ 極秘 ” なのか?

それはあらゆる政治や貴族、宗教やその他の事が複雑に絡んでいるからだ。


2週間程前、エインセルギルドが魔窟のクレモスダンジョンに入った頃、ブルーモン領の城下街であるスパータルから、ドラントスと言う街を経由して、貴族のウドクローヌ子爵と一緒に衛兵が遠くバルコリン迄視察に来ていた。


応対したのは街の町長・司祭を兼任するマルシゲル神父。


そして1週間程前に視察が終わった時、帰りのドラントスの街まで護衛を頼まれた。

ウドクローヌ子爵に同行した衛兵はいるが、これ迄の道中、魔物の出没が多かった事。また、魔窟のクレモスダンジョンのオレンジゲートの発生等があった為、安全を期してとの事らしい。


それをマルシゲル神父からギルド管理局へ。そして、ギルド管理局がエインセルギルドに頼んだのだ。


ごく普通にあり得る事なのだが、問題なのは……。


貴族のウドクローヌ子爵と言うのが連れてきた……。

これが10年以上前から不穏な動きをしていると噂のある貴族、ヴァンデルジア侯爵に仕えるに一部装飾が酷似していた事。


” 師団 “ とはその呼び名の通り、近衛兵とは役目が違い、軍に相当するが独立戦闘部隊の事である。


それをグレインカブース局長に伝えてから約1週間後、エインセルギルドが行方不明になったと報告が来たのだ。


複数の貴族が絡む案件で、更に悪い噂が絶えない貴族も含まれると思われる事案……。

そんな貴族に目を付けられた民衆の街は……悲惨な経緯を辿る事になる……。

だから今回の調査を、” 極秘 “ としているのだ。




 <バサバサバサッ>


 深い森の中をエル達。

行方不明になったエインセルギルドを探す為、誰にも言わず単独行動をしている。


目指すは、ドラントスの街。

バルコリンから馬車で約1週間程の距離を、自分達ので移動する。


徒歩の民衆もそうだが、特に馬車や馬等の移動手段の場合、途中から “ イティメノス渓谷 ” と呼ばれる渓谷を通る事になる。

しかし広く深い森の為、迂回するルートしか無いので、時間が掛かるのだ。


イティメノス渓谷とは、エレティコス秘境より魔力濃度が高い地域で、強力で未知な魔物が出没する為、踏み入るハンターはほとんど居らず、当然開拓等は進んでいない。


そんなイティメノス渓谷を、無謀にも真っ直ぐ突っ切っているのがエル達だ。


何故なら……ドラントスの街へブノーガ・カークスギルドが到着するのが約1週間程。

それを目処に、ここ、イティメノス渓谷で訓練しようとしてるのだ。


エレティコス秘境の時と同様に、また…エルから無謀な指示が出ているのは言うまでも無い……。


「アルガロス、今回も剣を使っちゃあ駄目だよ! それに団子もカルディアからの回復も無いからね! 」


「ふぁ? おぃおぃ!?」


唐突に出て来るトンチンカンな指示。

剣を使うなと言うのは前回あったが、“ 回復が無い ” と言うのが意味不明で、アルガロスは少し不安気味だ。


「アルガロスには神からの祝福、基礎回復魔法スキルがあるからそれで対応してね!」


「ハァ? ちょっ、ちょっと待てよ。基礎回復魔法って!?……」


不安がさらに混乱となり、頭が回らない状態になっている。

しかし、エルはズカズカと強引に話を進めた。


「それと特に魔物との戦いは、を正確に感じながら戦って!」


と走りながらとんでもない事をにこやかに話すエル。

そんなエルに対して、当然荒ぶるアルガロスがいる。


「オニ! 悪魔! 極悪貴族!! 基礎回復魔法って使った事ねーんだぞ!! 簡単に言うなよな!!」


「じゃあアルガロスは左側から進んで! 目指すはドラントスの街。 またねー!! アハハハハー」


とエルはそそくさと、アルガロスに手を振って消えて行った…。


「ちょちょっ…、おぃおぃ待てよ、極悪人━━━」


アルガロスの悲痛な叫びが、深い森へと消えていく。




そんな超笑顔のエルを見て、身震いするカルディア……。


「ちょ、ちょっとエル。アルガロス大丈夫なの? 1人だよ??」


「大丈夫、大丈夫! アルガロス強いから!」


とまた根拠を示さず言い切るエル……。


「それよりカルディアも、お団子無しだよ! 」


「えっ?」


突然向けられた、カルディアへの指示にビックリしている。


「回復系魔法を自分に使う時は、杖を使わず基本素手でね! 出来れば詠唱無しで! それと、魔物からのも自分でね! 」


「ちょっ……何言ってるの?? 私、回復魔法メインなのよ!?」


「カルディアには神からの祝福、基礎攻撃魔法スキルがあるから。俺もアルガロスも手助け出来ないからね!!」


「ハァッ???」


「それと魔法の種類、いいからね!」


「ど、どう言う事??って?」


と、こちらも訳の分からない指示をにこやかに伝えている。


そんなエルに対して、普段は大人しいが当然荒ぶるカルディアがいる。


「オニ! 悪魔! 極悪貴族!! 基礎攻撃魔法って、使った事ないんだよ!! 簡単に言わないでよ!! それにってどう言う事なのよっ???」


「じゃあカルディアは右側から進んで! 目指すはドラントスの街。 またねー!! アハハハハー」


とエルはそそくさと、カルディアに手を振って消えて行った…。


「ちょ、ちょっと待ってよ、極悪人!━━━━━」


簡単に言うと、1週間、でこのイティメノス渓谷を乗り越えろと言う事だ。

クラスAを抱えるギルド単位でも踏み入るハンターがいないと言うのに………。


カルディアの悲痛な叫びが深い森へと消えていく。



「エルの馬鹿━━━━━━━━━!!!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

★参考資料━━━ギルド名と名前━━━

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

★ブノーガギルド

・マスター

 バジール男 :クラスA 猛爆身重魔剣士

        メイン武器:大戦斧

・テリアーノ女:クラスB 風魔補助魔法戦士

        メイン武器:双頭杖

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

★カークスギルド

・マスター

 クラウディー男:クラスA 火炎攻撃魔法剣士

         メイン武器:剣

・ヤブロス男  :クラスC 敏捷術戦士

         メイン武器:双剣

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

★別行動でエル、アルガロス、カルディア

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

行方不明者8名

★エインセルギルド

・マスター

 リッサ女  :クラスB 攻撃魔法剣士

        メイン武器:剣

・セカンドマスター

 デリス男  :クラスC 重戦士

        メイン武器:斧、盾

・ペトラオス男:クラスC 剣闘士

        メイン武器:短剣

・コラース男 :クラスC 回復魔法士

        メイン武器:杖

・ジョージ男 :クラスD 攻撃魔法士

        メイン武器:魔導書、杖

・フランク男 :クラスD 補助魔法士

        メイン武器:弓

・コリンジア女:クラスD 洞察能力士

        メイン武器:双剣

・ファイナ女 :クラスD 回復魔法士

        メイン武器:杖

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る