第50話【 醜い魔物 】
<ウグッ>
マイケルが苦しそうな表情で、強い痺れを封じる様に自分の腕を手で押さえている。
やはりモリンシゴーレムの体液から、状態異常を誘発した様だ。口からは少量の血が流れており、痺れや毒が徐々に身体を蝕んでいる様だった。
それを見てクラウディーの表情がさらに歪む。
仲間を襲う痺れや、毒。早く外へ出て、安全な場所で治療を施してやりたいのだが………。
ヘルンが何度も防御力増強の魔法を掛けているが、やはり効果は薄い。本来は状態異常を回避する魔法が必要だが、それを扱えるメンバーは誰一人いないのだ。
そんな中での逃げられない過酷な状況……。
それに、知恵があり、操り、喋る魔物が鎮座する空間……。
喋り、操る事が出来る魔物……。そんな事が出来る魔物は、現存しないはず。
遥か昔の架空の物語が書かれた古文書なんかで読んだ記憶があるくらいだ。
魔法が使えて知能が高く、力はクラスS以上………。
噂でしか聞いた事のない、存在しない魔術師リッチ。
だが、もしリッチならアンデッドを扱う魔物と物語には書かれていたはずなのだが……。
<ブギャッガッガッガッ>
玉座の上で意味ありげに笑う、醜い魔物。
彼等が受け入れる事が出来ない提案と分かっていて、あえて言葉にして遊んでいるみたいだ。
それに釣られる様に、トロゴコングも醜い顔で笑い出した。醜い魔物とトロゴコングの異様な笑い声がダンジョンの中に響き渡る………。
そんな中クラウディーは、相手から剣を握ろうとする所を見られない様に身体をねじり……トロゴコング越しに、醜い魔物を睨んでいた。
<ガシッ>
「うぐっ」
クラウディーのうめき声と共に、突然身体が宙に浮く。
トロゴコングがクラウディーの頭を鷲掴みし、持ち上げたのだ。その素早さにクラウディーは気付けなかった……。
そしてまたトロゴコングの目が赤く光り、ぎこちなく口が開く。
【 <ゴグッ>無謀な企み<グギッ>価値の無い命 】
クラウディーの行動は、醜い魔物に見抜かれていたのだ。
<ギシギシッ>
「ぐおっ」
締め付けられるクラウディーの頭。
ギルドメンバー達は……恐怖で身体が動かず、ただ………、眺めているしか出来なかった。
<ブシュッ>
突然クラウディーを掴んでいたトロゴコングの腕から血しぶきが上がる。
驚いた表情でクラウディーを離し、よろけ、後退りするトロゴコング。
その前では……、茶褐色の髪がフワリとなびいていた。
アルガロスが意表を突き、トロゴコングの腕を斬りつけ、クラウディーから手を離させたのだ。
「知恵が有るとか無いとか、言葉を喋るとか喋らないとか、そんなもんどーでもいい」
「どうせ、皆殺ししたいだけだろ! だったら……死にものぐるいであがいてやるぜ!」
アルガロスは
醜い魔物がゆっくりと顔を傾ける。
『【 ごく小さな魔力……しかしあの不自然な力は?……… 】』
<シュンッ>
トロゴコングの素早い動き。アルガロスも、クラウディーも……それを見切れる者は……誰一人いなかった。
<ザザンッ>
<ブシュッシュッ>
アルガロスとクラウディーの身体から、大量の血しぶきが上がる。
トロゴコングが、素早い動きでアルガロスとクラウディーの身体を……深く斬ったのだ。
メンバーの前で、力無く落ちて行く2人。
強烈な一撃で……既に意識が飛んでいる様だった……。
衝撃的な瞬間を目の前で見たカルディアは、言葉が詰まり目が大きく開く。
『即死に近いっ…』
切羽詰まった必死な形相でアルガロスとクラウディーに近付き、素手で素早く2人同時に回復魔法を詠唱する。
「
<パパァーン>
暖かく、激しく、強く、優しい光がアルガロスとクラウディーを包む。
今までに無く強い光。一瞬にして2人の深い傷が治っていく。
<ブハッ>
強引で強烈過ぎる回復魔法に、アルガロスとクラウディーは思わず息を吐き出す。一瞬の出来事で意識は飛んだが、彼等は自分が死にかけてた事は理解していた。
その前でカルディアの目から涙が流れる。
この状況を打開出来ない未熟な自分。仲間が死にかけても治す事しか出来ない自分……。
どうしょうもない状況に心が折れかけていたのだ。
それを見ていた醜い魔物が眉を潜め、少し身を乗り出した。
『【 また不自然な力……。不可解……。ごく小さな魔力………。潰しておくか 】』
醜い魔物が異様に長い指を小さく回す。
すると、またトロゴコングの目が赤く光り、斧の柄を素早く握った。
<バシュンッ>
トロゴコングの斧が、カルディア目掛けて飛んでいく。全く動けない彼女の頭へと……。
<ガキンッ>
間一髪でアルガロスが剣で斧を弾くと同時に……、
<ガボンッ>
聞き慣れない響きと衝撃……。
トロゴコングの指が………アルガロスの身体を貫いていたのだ………。
トロゴコングの指に突き刺さった状態で、上へと持ち上げられるアルガロスの身体。
既に意識を失い、ぐにゃりと曲った身体がカルディアの目に映る。
近付く事が出来ない、回復魔法が掛けれない状況になり………カルディアの目から……大粒の涙が溢れ出す。
「いやあああああああああああああ━━━━━━」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます