忘却の熾天使（セラフィム）、堕天使ルシファーの力を得た少年は、残虐な力の事を分かっちゃいない。無敵、最強、無双？そんなもんじゃなく世界の破壊！？

第41話【 変異種のまばゆい光 】

　「トロールカレット！！！」

敏捷術戦士のヤブロスが、驚いた表情でそう叫んだ。

「トロールカレット！？？」

クラウディー含む他のメンバーがそれに呼応する。

「こ……こいつが……！？」

普通、“ カレット ” とは、破砕した状態の［ ガラス屑 ］のことをさすのだが、それに似た外殻を持ち合わせているトロールなのでそう呼ばれているのだ。

「そう……。あの鈍く輝く外殻は魔力を帯びた魔光石の屑で出来ている為、非常に硬く剣では斬れない……」

「万が一運良く斬れたとしても、体組織が再生出来て、斬られた腕を繋ぎ治せる様な性質を持っている……」

そう言いながらヤブロスの表情がこわばっていく。

ゴブリンの中でも、上位種であるゴブリンデフォームと言う希少な魔物に続いて、トロールカレットは同じく非常に希少な変異種。

しかも、イエローダンジョンに生息する筈の無い強い魔物なのだ……。

クラウディーは困惑した表情をしていた。

「こいつが、ダンジョンの魔力濃度を上げていたのか！？……」

「物理攻撃がほぼ効かない上に再生……。何でそんな奴がこの地に………」

＜ゴウルルル＞

トロールカレットが腕を振り上げ、目の前のクラウディーへと手を伸ばす。

＜ガジャジャーン、パキーン、キーン＞

手を振り下ろした先にクラウディーは居らず、散らばる魔光石の弾けるガラス音がダンジョンに響く。

＜ガキンッ＞

その腕に力一杯剣を振り下ろしたが、剣が弾き飛ばされ危うく手放しそうになった。

『動きは遅い……が、硬いな………』

＜グルルルル……＞

クラウディーは目を細め、喉が鳴るトロールカレットと呼ばれる魔物を見上げていた。

『こいつの魔力濃度……、確実にオレンジダンジョンを上回る…。それがイエローで留まっているって事は………。このまま進むのは危険だ……。こいつを足止めしつつダンジョンを出るしかないか……』

『しかし…戦い方がよく分からない上、斬れないんじゃぁ……、魔法しか通用しないって事………』

『この中で、攻撃系魔法が得意なのは…俺だけだな………』

クラウディーは自身が持つ剣を鞘へ収め、背中越しに指示を出した。

「ゴブリンデフォームは任せたぞ、マイケル！！」

マイケルはクラスＢで、剣術士。

魔法などのスキルは持っていないが、剣さばきだけならクラスＡのクラウディーに劣らない実力を持っている。

＜バッ＞

「フレイム （炎）ショット（弾）」

＜ブババババッ＞

クラウディーは後ろをマイケルに任せて、炎の弾と共にトロールカレットへと走り込んで行った。

　エル達の前では、残りのゴブリンデフォームと戦うカークスギルドのメンバー達がマイケルと共に力強く剣を振るっている。

そしてヘルンとリースは、エル達を守る様に回りを警戒していた。

【 トロールカレット……。何者かが手引したな…。種族の違うゴブリンデフォームと同じ場所で活動するはずが無い……】

「やっぱりそう思う！？」

この不安定で雑然とした戦いの中、エルとモサミスケールは声を出して会話をしている。

「じゃあ……ダンジョンの奥には手引した魔物が！？」

【 多分な…。じゃが魔力が感じられんのじゃ… 】

エルは、みんなが戦うそのさらに奥に神経を集中させていた。まばらに散らばる弱い魔力の影は感じるが、その奥からは何も感じ取れない。

「……ほんとだ。何もない……」

「こんな時は、一旦下がった方がよさそうだ……」

エルもモサミスケールも、この様な状況は幾度となく経験している。

あの……膨大な魔力が渦巻く ” 漂う大陸 “ で。

怪しいと感じた時は、どんなに善戦していても一度立ち止まるか引くかして、正確な状況判断をしないといけない。

それを怠ると、たちまち戦況が逆転し飲み込まれる事があるからだ。

エルは、数多くの苦い経験を思い出していた。

カークスギルドの人にその事を伝えようと、エルが一歩を踏み出した時、

━━━━━━━ ≫ ドクンッ ≪ ━━━━━━━

大きく弾ける魔力と霊力の波。

「ぐはっ」

＜バチバチバズン＞

身体全身に亀裂が走った様な激痛が、エルを襲う。

コントロールの効かない魔力と霊力が……、エルの身体を貫いたのだ。

【 エル！！？ 】

突然の出来事の中、モサミスケールの呼び掛けが虚しく空間に消散する。

意識無く崩れ落ちていくエル………。

その異変にアルガロスとカルディアが気付いたが………。

　手を伸ばし襲ってくるトロールカレット。

動きが鈍い事が唯一の救いだ。

クラウディーが手を交差し、火炎魔法を詠唱する。

「エクスプロージョン フレイム（爆破裂炎）」

＜ゴフッ、ドドドゴーオッ＞

トロールカレットに直撃し嫌がっている様に見えるが、黒く滲むだけで効果があまり無い様にみえる。

「くそっ…、ダメージは少ないか……。火力を上げるしかないが、ダンジョンの中……仲間が近過ぎる……」

その時、トロールカレットの身体の中の光が……勢い良く渦を巻きだした。

クラウディーの目が大きく開く。

何が起こるか分からないが、とてつもなく危険な予感がしたのだ。

「みんな伏せろ！！！」

クラウディーが声を張り上げた瞬間、その光の渦が、突如身体表面へと高速移動して………。

輝いた━━━━━

＜ブババババババババババババババババババッ＞

地鳴りの様な地響きと轟音が鳴り響く。

トロールカレットが………身体から魔光石の屑を勢い良く飛ばしたのだ。

その屑がカークスギルドのメンバーを襲い、それ以外の屑がダンジョンの岩を………。

＜ドガガガガガガガガ………ガズーン………＞

ダンジョンの岩が崩れ落ちていき、帰り道が塞がれてしまった。

「グワあっっ」

「ごふっ」

「うグッ」

土煙が漂う薄暗いダンジョンの中……、

　　　至る所で………うめき声が響き渡っていた。