第23話【 イエローダンジョン 】


 魔力は様々な苦難と小さな恩恵をもたらす。


魔力によりゲートやダンジョン、魔物が作られ、人々を死へ追いやる事もあれば、魔力により、人間に恩恵をもたらす植物が生まれる事もある。


鉱物等も同様で、硬度の高い物は剣や防具等に流用されたり、宝石等と同等に扱われる物もある。




<ゴオオオオー>


 月明かりに照らされて、薄っすらと浮かび上がる岩壁群。風が岩壁に当たり、魔物の唸り声の様な振動が響き渡る。


そんな中、とある洞窟の入口に魔力が溜まり、ゆっくりと渦を巻いている所があった。



ダンジョンだ。



ここは通称、” 魔窟のクレモス岩壁“ と呼ばれる地域で、その一角に佇むダンジョン。

渦の色はイエロー。レベルDのダンジョンと言う事だ。


この地域では、少し危険度の高いレベルである。


比較的安全に攻略する為には、クラスCのハンターが3人以上と、クラスDのハンターが4人以上は必要と言われている。



<ゴオオオオー>


 薄暗い岩壁近くの森の中を、まとまりながら歩いてるハンター達の姿が見える。


「最後のダンジョンね。気合い入れて頑張ってよ!」


赤色の防具に身を包んだショートカットの女、リッサが、軽く振り向き笑顔でウィンク。


そんなリッサの仕草をよそに、髪の毛が上に長く軽装な防具を着けている男、ペトラオスが口を歪めている。


「1週間前から立て続けに ” 魔窟のクレモス岩壁“ ダンジョンに来てるけど、この響き……慣れねーな…」


「そうなの? ペトラオス。私は心地いいけど! ねえデリス」


リッサからデリスと呼ばれた、重装備でヒゲを生やした身体の大きい男が、両手を上げて首を振っている。


「げえ〜……、やっぱリッサの感覚には付いてけねーなぁ。コラースはどうだ?」


ローブの様な長い服を着て、手には杖を持つコラースと呼ばれる男も、苦笑いしている。


「僕も慣れないですよ…。この響きのせいで魔物の存在が分かりにくいし…」


彼等はエインセルギルドのハンター達だ。

全員で8人と少数だが、ギルドマスターのリッサはクラスB。


そしてクラスCがセカンドマスターのデリス、他、ペトラオス、コラースの3人で、クラスDが4人と、バルコリンを拠点として活動するギルドでは、人材が充実している方だ。


「今回も、ブルーモンのオートノミー管理局からギルド管理局経由で依頼が来たみたいだけど、そんなに警戒しなきゃいけねーダンジョンか?」


ペトラオスはまた口を歪めてそう言った。

オートノミー管理局とは、各街や村に点在するギルド管理局とハンター管理局を管理する統括管理局の事だ。


「魔窟のクレモスダンジョンは、危険度が上がりやすいと考えているんだろう。何度討伐してもその後の経過が知りたいんだろな。魔力濃度が濃くなってたら大変だから」


デリスはオートノミー管理局の考えを察っして、眉を下げながらそう答えた。


リッサは、肩に掛けた袋からウーシア石で出来た機器を取り出し、片目をつむりながら月に照らして眺めている。


「このウーシア石で魔力濃度を測って、中を捜索。魔物がいれば討伐してから報告ってのが基本だからね」


「まあここ何年も魔力濃度が変わってないから、あれ以上濃くなる事は無いと思うけど、万が一があったら大変だからね!」


この1週間、各岩壁にあるダンジョンを回って来たが、魔物との戦いはあったものの、大事には至らず比較的スムーズに調査、攻略が出来ていた。


その為リッサは、皆の気を引き締める為にそういったのだ。



<オオオオオー………>


 森を抜け岩壁までくると、目の前に魔力の渦が見えて来た。


ダンジョンだ。


「私達は2度目ね」


リッサがダンジョンの渦を眺めながらそう言った。

渦の色はイエロー。レベルDのダンジョンだ。


2年程前の1度目は、同じ魔力濃度イエローに引き寄せられ、ゴブリンの溜まり場となっていた。

比較的弱いとされるゴブリンでも個体差があり、注意が必要なのだ。


「みんな、回りに警戒しててね。今回はE以下のダンジョンが多かったけど、ここだけはDだから」


そう言いながら、リッサは袋からウーシア石が備えられた機器を取り出し、魔力の渦にかざした。


ダンジョンの渦の動きはゆっくりで、ゲートの渦の動きは速いので直ぐ見分けが出来る。


「渦の色は前回と同じイエローだけど、魔力濃度はどうかしら」


リッサの両脇で、デリスとペトラオスが辺りを警戒している。その回りにクラスDのハンターが4人いて、コラースは後方から全体を警戒していた。


「魔力濃度、1,438……。前回より濃度が百少し上がってるわ……」


リッサはウーシア石を見ながら心配そうに、そうつぶやく。


「魔力濃度の誤差の範囲を超えてるなあ……。もしかしたら、ゴブリンより強い魔物の溜まり場になってるかもしれないぜ……」


手を上げ首を振りながらそう言うデリスの胸を、リッサは<ドン>と叩き、気合を入れた。



「よし、行くよ!!」




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