第21話【 師匠のモサミ 】



「じゃあクラスEになろうよ!」


<ブッ>


アルガロスは、口に入ってた食べ物を吐き出しそうになっている。意表を突いたエルの発言に驚いたのだ。


「ク、クラスEになろうよだって? お前は何言ってんだ!?」


「俺の話し聞いてたか? 2年間必死に……」


とアルガロスは怒りながら言いかけたが、エルはそれに被せる様に自分の考えを伝えた。


「アルガロスはオーラ循環が出来てないんだ。その循環速度を上げる訓練をすれば、直ぐにでもクラスは上がると思うよ」


エルは、真剣な表情で自分の考えをアルガロスに訴えている。その姿がアルガロスには新鮮だった。


今までも、色んなハンターの意見を聞いて実践してきたが、全て成長には繋がらなかった。しかしエルの意見は、今まで聞いた事の無い内容だったのだ。



「………お…お前………、何だそれ……」




〜〜翌日〜〜



 太陽が真上に登る昼過ぎ、切り立った岩壁近くの森の中に、少量の荷物を持つエルとアルガロスの姿があった。


バルコリンの街から歩いて3時間程。弱い魔物しかいない地域をアルガロスが選び、この森の中を歩いているのだ。


「この辺りでも……、俺達だけならかなり辛いかもしれないぜ…。用心しないと」


アルガロスは、心配そうに辺りを警戒しながらそう話す。


「前にクラスF3人で来た時、ゴブリンが5体出てきて戦ったけど、結局逃げ帰ったからな……」


口を尖らせながら情けなそうに語るアルガロスは、頭を掻きながら気まずそうに背を向けた。

そんなアルガロスをよそに、エルは笑顔だ。


「大丈夫だよ! まずは、オーラ循環速度を高めていこうぜ!」


とアルガロスの方へ腕を伸ばし、親指を突き上げながら片目をつむった。ギルド・ハンター管理局のゼブロスの真似だ。


彼等がこの地に来た理由は、そのオーラ循環速度を高める為なのだ。


「……何だよ…その自信は…。それにさっきから言ってるオーラ循環って何だよ」


エルは自身の持つ鞘から短剣を抜いて手に取り、軽く振りかざした。


「オーラ循環と言われる “ 気の流れ ”を整え速くすると、魔力の循環速度も上がって力が出やすくなるんだって!」


アルガロスは、驚きと興奮が入り混じった表情をしている。色々試して行き詰まり、クラスUPを諦めて、昨日までハンターを辞めようとしていたのだから。


「そ、それまじか!? 何でそんな事知ってるんだ?」


「あっ……、師匠に教えてもらったんだ!」


『【 ……… 】』


モサミスケールは、目を閉じたまま空を仰いでいる。


「し、師匠!?」


「そうだよ。これ!!」


とエルは、自分の帽子を指差した。

が、アルガロスはその帽子を見つめ、身体を少し歪めて佇んでるだけ…。


「……ただの帽子じゃねーかよ……」


「そ!! これが俺の師匠なんだ!!」

 

突然パッと目を見開き、魔物の様な視線をアルガロスへ送るモサミスケール。


「エエ━━━━━━━━━━━━━━??!!!」


アルガロスの大絶叫が森の近くの岩壁に響き、反響してくる。


<エエ━━━━━━━━━━>


  <エエ━━━━━━━━━━━>


    <エエ━━━━━━━━━━━>


仰け反りながらたじろぐアルガロスの瞳には、魔物の様な形相に見えるモサミスケールの姿があった。


「………なっ……なっ………」


言葉にならない驚きが口から溢れる。エルの頭の上の帽子の目が……動いているのだから………。


「そ……それ…、魔物か?」


「違うよ。俺の召喚獣だ!」


「エエ━━━━━━━━━━━━━━??!!!」


アルガロスの大絶叫がまた森の近くの岩壁に響き、反響してくる。


<エエ━━━━━━━━━━>


  <エエ━━━━━━━━━━━>


    <エエ━━━━━━━━━━━>


また仰け反りながらたじろぐアルガロス。召喚魔法は非常にレアなスキルだからだ。古株ハンターでも見たことが無いくらい、召喚魔法を扱えるハンターは希少で珍しいのだ。


「しょ…召喚って……おまっ……」


やはり言葉にならない。噂話でしか出てこない召喚魔法。幻のスキルとも言われるその魔法が、目の前に存在している事が信じられないのだ。


「でも……俺の魔力が小さ過ぎて、召喚したけど戻らなくなっちゃって。テヘッ」


「エエ━━━━━━━━━━━━━━??!!!」


アルガロスの大絶叫が、またまた森の近くの岩壁に響き反響してくる。


<エエ━━━━━━━━━━>


  <エエ━━━━━━━━━━━>


    <エエ━━━━━━━━━━━>


またまた仰け反りながらたじろぎ、座り込むアルガロス。


『戻らない? 戻らない??』


もう理解の範疇を越えた現象に驚く事しか出来なかった。


「今はまだ召喚獣だって事、内緒だよ! 皆驚くから」


そう言って、エルは眉を下げながら人差し指を口へもっていった。

アルガロスは、指を指しながら動揺している。


「……おまっ……おまっ………」


【 ほれっ、訓練じゃ。剣を持て! 】


モサミスケールは驚いてるアルガロスをよそに、早速指示を出して睨んでいる。


「しゃ…喋った! 喋ったぞ、その召喚獣!!」


【 早くするんじゃ。食っちまうぞ!! 】



「ハ…ハイ!!!」



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