第27話――想定外の球宴
ダイナソーズのナインは、ピりついていた。
前の攻撃の回で、味方の四番ガブリエル・アンダーソンが、相手チームのピッチャーから顔面スレスレの危険球を間一髪で
一触即発の空気になり、ベンチからナインたちが飛び出そうとしたが、立ち上がったガブリエルが紳士らしく片手を上げてベンチを制したおかげで事なきを得た。
その回の裏だった。
リリーフでその回から登板したジャックは、相手の三番四番打者から、持ち前の制球力で瞬く間にツーアウトを勝ち取る。
しかし、そのアウトの取り方のタイミングが悪かった。
いずれも内角に鋭く曲がるツーシームで、根本から相手のバットをへし折り、内野ゴロで凡退。
これはクリーンナップのバッターとしては、かなり屈辱的だ。
しかも、ジャックは一軍登板して、まだ五戦目、二十二歳の新人だった。
その若手に、連続でいとも簡単にバットをへし折られたのだから相手のベテラン勢としては堪ったもんじゃない。
さきほどの危険球の報復として見られても、不思議ではなかった。
そういう状況にも関わらず、ジャックは全く怯まなかった。
ワンポール、ツーストライクからの四球目。
外角ギリギリ一杯のコースに向かってストレートが走る――
相手チームであるサンダーズの五番バッター、アンドレアはその配球を読み、外へ踏み込んで流し打ちを決めようとした。
しかし、ボールはまるで独自に意志を持つかのごとく、ホームベース直前で「シュ――」という息吹を立てると、想像した以上に内へ食い込んで来て、運悪くそれが外へ踏み込んだアンドレアの左肘のプロテクターに直撃した。
ジャックとしては狙っていたのだ。
内角スレスレのストライクを。
しかし、相手がそれほど踏み込んでくるとは、想定外だったらしい。
五番バッターである巨体の白人アンドレアは、その場で黒のヘルメットを地面に叩き付けると、すぐさまマウンドにいるジャックに飛びかかってきた。
しかし、ジャックは意味がわからないように両手を上げながら、
“Why?”
と真正面から抗弁しようとした。
“
確かにもっともな意見だが、頭に血が
ジャックのジェスチャーを、新人選手からの挑発ととらえたベテランのアンドレアは迷わず彼の顔面に右ストレートパンチを繰り出した。
しかし、ジャックはそれを紙一重で身を反らし、鼻先で
前のめりになったアンドレアは、背後から慌てて近づいて来たジャックとコンビを組んでいた捕手マイク・ゴードンに背後から体を抑えつけられた。
気づいたアンドレアは、すかさずそのプロテクターで固めた肘をマイクの顔面に直撃させると、彼は仰け反りながら地面に倒れた。畳み掛けるようにアンドレアが倒れたマイクの上に圧し掛かろうとすると、ジャックが慌てて背後からその巨体の肩を掴んでこちらに振り向かせた。
邪魔をされたことにさらに激昂したアンドレアは、ジャックに顔目がけて迷わず右フックを繰り出したが、難なく屈んで
“
予想だにしていなかった展開に、実況者の声が思わず跳ね上がる。
瞬く間に巨体のアンドレアは両膝をつきながら、前のめりになって芝生の地面にノックダウンした。
その後は、もはや、制御不可能だった。
双方のベンチにいた選手、監督、コーチたちが一斉に飛び出し、互いに入り乱れて掴み合い、殴り合い、蹴り合いのカオス状態。
チームの誇り高き古株をノックダウンされたサンダーズの面々が次々とジャックに襲い掛かる。
“
しかし、ジャックはまるでアクションシーンのごとく、左右上下に体を揺らしながら、それらの攻撃を軽い身のこなしでことごとく
“
今まで見たことのない球場の光景に、実況者も興奮の色を隠せない。
その隣にいた解説者も立ち上がると、悪乗りしたように、煽るような声を上げる。
“
アナウンサーも負けじと語調を強め、野次馬根性丸出しで、笑い声を交えながら流暢な実況を紡いでいく。
“
“
その声で振り返ると、ジャックよりも二回り大きな黒人選手が突進してきた。
身を翻してそれを華麗に避けると、その回転の反動に身を任すように相手の
ジャックは反射的に手が出た後、その相手が、年間80本塁打を記録したあのレジェンド選手であるブライアン・ジョーンズであることに気づいたが、時すでに遅しだった。
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