第7話――殿下
(泣いている母親の姿さえも、もう見れないかもしれない)
恐る恐る
その顔がちらっと見えた。
マスクで隠れてわからないが、その表情はさっきと変わらず感情の
(だから、私は怪しいって言ったのに)
心の中で、その子に対して怒りをぶちまけそうになったが、思い直す。
(いや……自分も、まさか
こうなった
なんでこんなことになったのか?
それは、他でもない。
投資に失敗した、自分の落ち度からだ。
周りの誰も、自分の失態には気づいていない。
しかし、
いや……。
ふと、
赤革のベルト、縦に細長いクオーツ。スイス製で有名な長い歴史を持つブランドのものだ。
まだ、自分が投資の駆け出しだった頃、周りに
その針は、
それを見て、彼女はあらためて思った。
(今日、
今の
でも、この時計を売ることだけは
自分にとって人生の
それをたった一万二千円の電気代を払うためだけに売るのは、あまりに
そんな時に求人バイトサイトで目にしたのが、この
初めての経験だった。
しかし、求人欄には、
『男女不問。現地で勤務終了後に、給料直接手渡し』とあった。
しかも、時間は
『面接後、すぐにマイクロバスに乗って直行』とも。
いつもより早く仕事を終えた自分は、十七時にオフィスを後にし、急いで面接会場へと向かった――
その結果が、これだ。
慣れない事に
(
そう思ったのと同時に、またホール全体に
「少しでも、変な動きをした者は撃つ」
小柄とも大柄も言えない、言うならばスマートという表現が一番しっくりくる、その黒髪を下ろした青年は銃を
(こんな事をして、逃げられるとでも思っているのだろうか?)
ふと、
(もし、
彼女は
大勢が身を伏せている
その周りにも、銀色のジャンパー複数の者達が立ったままだ。全部で、十数名ほどだろうか。
今、ホールで伏せている銀ジャンパーの人数と同等くらいだ。
立っている者の中には、
目を
(最悪だ)
一人ならまだしも……。
(いや……待て)
(……銃なんて、そんなに簡単に手に入る物なのか? 実は……一人だけ本物で、残りはダミーなんてこともあり得る――)
そう思った次の瞬間、また
「そこのお前! 頭をもっと下げろ!」
(……思い切り、
「えー皆さん。大変、お
さきほどの
「緊急事態が発生し、今日の
「その場を決して動かないでください」
そう告げたリーダーの至近距離で、完全に
リーダーが、
一人は茶髪に近い金髪の男。
もう一人は、
その背中まで垂れ下がった
彼等二人は自身の不安を悟られまいとするような強張った表情で、銃を持ったニット帽姿の屈強な銀ジャンパーに付き
あれは、確か……。
インシュロック。
通常は電気工事などで配線を
よく見ると、あどけない男女二人の表情は、
素人の
「ぐずぐずするな。早くしろ」
ニット帽の男が、
そう言われた
「ちっ……! もう! 何やってんだよ! グズ! あたしがやるよ! 引っ込んでな!」
近くに立っていた同じ銀ジャンパーを着たボーイッシュな
少女とは対照的に、その
とても初めての
仕事を強引に奪われた少女が何もできず
それに気づき、振り返ると、少女は
「すっ! すいません……
すると、リーダーはその少女の体をそっと抱き寄せたかと思うと、髪の毛を優しく
「大丈夫だ。そのうち
そう言って彼女の肩に手を回しながら、背の高いアーチ状のゲートの方に歩き始めた。
二人の背後からその光景を見ていた金髪ショート女の表情に、
女が舌打ちをし、
白いコンクリートのゲート前を
「見張っておけ。すぐ戻る」
彼等は戸惑いを抑えるように、すぐに道を空けた。
だだっ広い玄関の方へゆっくりと歩いて行くその背中を見ながら、
「こんな時に、よくヤレる気になるな」
すると、リーゼント頭も声を潜めながら返した。
「こういう状況が、
少女を連れたリーダーは、多くの靴が並べられた玄関のタタキの前で足を止めた。
その地面に
その両目は
口には、あらためて声が出せないように布が巻き付けられていた。
すると、リーダーは、
「
全く感情を込めず、まるで
再び暴れようとして、スキンヘッドと
リーダーは少女を連れたまま、すぐ
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