勇者の選択
山川ぼっか
世界の半分を手に入れる。
「勇者よ、よくここまで来たな。我がしもべの四天王があんなにあっさりと倒されるなんて思ってもいなかったぞ、しかし、ここまでだ。吾輩を倒せるわけがないであろう」
「僕に倒せない相手はいない!! 魔王だってなんだっ倒して見せる!!」
「ほほう、それはそれは威勢のいいこった。吾輩はそういう輩が大好きでな。ここで戦って倒してしまうのはもったいない。吾輩から一つ提案だ。どうだ、世界の半分はほしくないか?」
彼は魔王から誘いを受けていた。世界を救う勇者がこんな胡散臭い条件を飲むなんてこのとき、仲間たちは誰も思っていなかった。
「世界の半分?? 僕はそんな誘惑には乗らない! 魔王を倒し、世界を一つにして、みんなの笑顔を守るんだ!!」
「勇ましいことをいうじゃないか、でも考えてみろ。お前が俺を倒して、なにになる。確かに我輩を倒すためにここまで頑張ってきたのだろう。しかし疑問には思わなかったのか? なぜ、魔王を倒す勇者になれというのに、初心者向けの装備を買う程度の金銭しか渡して貰えないの。宿に泊まるにも他の冒険者共と同じ金額で止まらないといけないのか。国を守るために選ばれた勇者なのであろう? ならもっと優遇されたっていいとは思わないか?」
「そ、それは。。」
彼はこの時点でもう魔王側に落ちていたのかもしれない。だって、僕達が彼にかけられる言葉はなにもなかったから。勇者なんて所詮使い捨て。仲間として一緒にいた僕ですら感じていたのだから。本人はさらに強く感じていただろう。
「理不尽だとは思わんかね。吾輩の条件を飲んでさえくれば、世界の半分はお主のものだ。吾輩を倒して何を得られる。名声か? 地位か? それはどれほどのものだ。与えられたところで王家の娘と少しばかりの領土だけ。それなら吾輩側についてはみないか。世界の半分を手に入れられ、王家の娘どころではない。選びたい放題じゃ。どうだ?いいだろう?
「僕は、勇者で。魔王を倒して、、、」
「そうだ。お主は吾輩を倒したあとのことはなにも考えていない。そして、王家の奴らだって同じだ、なんなら吾輩を倒したあと、世界で一番強いのはお主になる。それを脅威だと感じないわけがない。消されてしまうかもな。それでもいいのか?」
彼は小さく首を横に降った。
「そうであろう? さあ、吾輩と一緒に世界を手に入れよう。お主とならできる!!」
「ぼ、僕は世界の半分が・・・」
「まって勇者様! 魔王の言うことを鵜呑みにしてはいけません! 勇者様がそんなことになるわけがありません!! 大丈夫です! 一緒に魔王を倒そうとここまで来たではないですか・・・。あと少しなのです! 戦う前から負けないでください!!
プリーストの彼女は涙目にしながら必死の訴えを勇者にする。今の彼に響いているのかは怪しい。しかし、ここで終わるわけにはいかないから。なぜなら・・・。
「勇者よ、まさかあの女の言葉で目が冷めたなどと思わないよな? 分かっているか、あいつは王家が信奉している宗教の出身だ。魔王を倒した勇者パーティーのプリーストという名声がほしいだけなのだ。お前なんてここで我輩を倒したらそれでお役ごめんとすら思っているだろう。そんなやつの言葉を信じられるのか?」
「お、お前そう思ってたのかよ。僕は仲間だってずっと思っていたのに・・・。」
「そんなわけないです! 勇者様にお使いできることがどれほど嬉しかったか。私の気持ちがわからないのですか!!」
「ここで魔王を倒せば僕なんかいらなくなるもんな! 僕は道具でしかなかったんだ!!」
「誰もそんなことは言っていないじゃないですか!! 魔王の言葉に耳を傾けてはだめです!」
ついに勇者は仲間すら信じられなくなってしまっていた。魔王の甘い言葉によって。それが真実だろうと偽りであろうと疑心暗鬼を埋められてしまった勇者。そんな彼の意識をコチラ側に連れ戻す方法はなかったのだ。
「もういいだろう。勇者よ。お前の中ではもう決まっているのだろう? 吾輩にはお主の心の中までしっかりとみえているのだから。さあ、吾輩と世界を分け合おう!」
勇者の選択 山川ぼっか @ke0122
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