月へ行く道

月に帰りたいと思いたち

夜の海に浮いた光の道を

私はひとりで歩いてゆく

白の浜辺にサンダル脱ぎ捨てて

服着たまんま波に脚をいれる

音が大きくて怖いけれど

くるぶしからふくらはぎへ

ふくらはぎから太ももへ

太ももから腰へ埋まってしまえば

もうこんなに遠くまで来た

ああ

と声が出る

ああと叫びが出て

上着の裾を水面に引き摺りながら

波を掻き分けて進んでゆく

帰りたい

月に帰りたい

竹から生まれたのでなければ

私はどうやって天に帰ろう

月の人は私を迎えに来ないだろう

ならば波よ

お前だけが頼りなのだ

私を攫ってくれ

この涙声を攫ってくれ

波の砕ける音に混じって

私の体を砕いてくれ

塵さえ残らず海に溶けたい

せめて月へ行く道が浮かぶ

海になりたい

波よ頼む

なあ頼むから

私の全てを攫ってくれ

頼むよ……

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