テンプレ通りの異世界生活
猫山知紀
第1話 今日俺はトラックに轢かれて死ぬ
はっ! 今日俺はトラックに轢かれて死ぬ気がする。
残業してすっかり遅くなった会社からの帰り道、突如としてそんな予感が頭をよぎった。
俺の趣味は『小説家になったろ!』という小説投稿サイトで小説を読むことだ。
そこで展開される話は魅力的で、俺はその膨大な作品群にすっかりハマってしまったのだ。
読者を引き込む掴みに、どんどん次を読みたくなる『引き』と設定。
そして物語を盛り上げるストーリー展開。
そんな物語の海を泳ぐように、大量の作品を読んだ俺だからわかる。
俺は今日、トラックに轢かれて死ぬ――。
「きゃー!!」
夜の街に女性の悲鳴が響いた。居眠り運転のトラックが子供を轢こうとしているに違いない!
その声を聞いて通行人達が振り向いたときには、俺はもう走り出していた。
「なんでこんな夜に子供が出歩いてんだよ!」
当たり前の疑問を脳裏に描きながら、俺は車道に飛び出し、今にも轢かれそうになっている子供を突き飛ばす。
車のヘッドライトがスポットライトのように俺を照らす。
この瞬間、俺は主人公だった。
光に包まれて、真っ白になった視界の中で俺の体に衝撃が走る。ハンマーよりも、ボーリングの球よりも、俺の友人のふとし君よりも重い、まともに喧嘩すらしたことのない俺が感じた人生最大の衝撃。
それは、人生の最後に感じた10tトラックに吹き飛ばされる衝撃だった。
薄れゆく意識の中、俺は思う。
ほら、やっぱりだ……。
こうして、俺の三十二年間の人生は終わった。
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