選挙出てみた

たけなわうたげ

第1話

「選挙出るわ」

「は?」

 頭おかしくなったんか?


 姉、山本ありさは25歳。幼稚園教諭。

 昨年、俺と姉は交通事故で両親をなくし、天涯孤独?の身の上となった。住んでいた家や遺産をなんとか相続し、なんとか家事を回せるようになってきたところ。

 俺は17歳。受験もあるので冗談はほどほどにしてほしい。

「なんで?」

「いやさぁ、ウチら、このまま日本に住んでたらヤバくない?」

 姉は語彙が少ない部類だと思ってた。マジで言ってるのか。

「幼稚園で子供たち見てるとさ、悲しくなってきてー。こんな国で生きてくのか、って思ったらさ」

「え、日本でそんなに悪いか?治安いいし、飯うまいし」

「教育に力入れてなさすぎじゃん?」

 それはそうかも。と俺は思った。

 学校というシステムは100年前からほとんど変わっていない。詰め込み、つまらない授業、受験…。姉なりに考えがあってのことなのなら…。姉の人生だしな。

「じゃ、いいよね?」

「なんで俺の許可求めてんの?勝手にしたらいいじゃん」

「そうなんだけどさ、ポスターとか貼られるから、アレの弟かーとか思われるかもだし」

「え?なんか選挙?」

「市議会だよ」

「市議会か…」聞いてはみたもののサッパリである。

「選挙って金かかるイメージあるけど」

「それがそうでもないらしいんだなぁ」

 姉は持っていた本を2回振った。『誰でもなれる地方議員』という本だ。

「コレにそこまではお金かからないって書いてあったんだー」

 誰でもなれるわけじゃないだろ、選挙当選しなきゃなれないんだぞ。あやしすぎる本だ!

「選挙権は使うけどさ、被選挙権て使う人あんまりいないじゃん?使える権利は使っといた方が楽しいかなーって。ホラ、人生経験としてもさ」

 変な女だわー。両親がいたら絶対に止めてるだろうな。


「ま、いーんじゃね?」

 しかし、この家の中に止める者はいなかった。

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