潜在的殺人鬼に贈るナイフは

@fuka_doppo

第1話 俺、二十五で死んだってよ

「――やぁいらっしゃいイラッシャイ!」

「新宿のキャッチか」


 精神と時の部屋くらい何もない真っ白な空間で、えらいテンションの女性が場違いな大声で出迎えてくれた。硬直している俺の代わりに女性の隣にいた男性が打てば響くようにツッコむ。


「やー、ごめんね。待ちわびてたからついさ」


 気を取り直した女性が続けた一言に、思わず疑問が口から漏れた。


「待ち? 俺を、ですか?」


 俺の疑問に溌剌とした声が返ってくる。


「そのとおりだよ! 享年二十五、静かに生を全うしました。 ―ぃいった!?」


 茶化すような言い草をする女性の後頭部を恐ろしく速い平手が襲った。頭をはたいた小気味良い音が、どこまでも広がる白の場所に殷々いんいんと響き渡りそのあまりの馬鹿らしさに俺は思わず吹き出した。

 一度笑い出すとどうにも止まらなくなり、しまいには涙が出てきた。もちろん笑い過ぎたからで他意はない。

 しかし頭をさすっていた女性も、終始静かな目をしている男性も俺の涙が止まるまでずっと待ってくれていた。


「落ち着いたか」

「……はい、すみませんでした」


 謝ることは無い、と落ち着くボイスで続けると、見知らぬ男性は俺の目を覗き込んでから頷いた。


「理解しているようだな」


 俺も頷き返す。その通りだ。俺は理解している。ついでに目の前の二人の素性についてもパッと視るだけで・・・・・ある程度想像はできた。男性は振り返ると、一歩後ろで退屈そうにしていた女性に視線を送る。

 すると女性は、待ってましたとばかりにずいと前にでて俺の目の前で立ち止まり咳ばらいを一つ。

 そしておごそかに告げた。


「ごほん。小豆おず春野はるのよ。 ―変わった苗字と名前だよね」

「よく言われます」

「真面目にやれ」「「はい」」


 では気を取り直して、と言い置いて再度彼女は繰り返した。


小豆おずよ。其方は本日13:15、日本にて死亡が確認された。本来の所、よわいを全うした人間は属する彼の地の法則に従い死道の囚となるが、其方の特殊性質を鑑み正規の手続きに則り一度ひとたび我らが受け持つ事となったことを、この不可侵領域にて宣言する」


 特殊性質。特殊性質か。

 心当たりは、ある。


「自覚はあるようだね。……当たり前か。何年もその眼で暮らしてたわけだし」


 素直に頷く。


「希少種の、これが、とっても貴重なオリジナルなんだなぁ……」


 ほじくるような視線で、彼女は俺の黒い眼を覗き込みながらつぶやく。


「キミ、死相が見えるんでしょう?」


 そう言った女性と、その後ろに控えた男性からは今まで散々視てきた黒いもやや線が一切視えなかった。


 おそらく彼女らは、人ではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る