悩める貴族助けます~貴族相談役の策略~

LAYLA

第1話 ようこそ、ここは貴族相談室です

トントントン!

「突然すいません。ブロア家のジェニファーと申します」

 緊張と焦りから、声が少しうわずっている。

少し間が開いてから、ドアの向こうから声がした。

「どうぞ、お入りください」

 そう言われ、ジェニファーはドアを開け部屋に入る。部屋に入るとまず背が高く幅広のついたてが目に入った。ついたては、机の向こう側の人間を隠すようにして置かれていた。

「どうぞ、椅子におかけください」

 女性の声がついたての向こう側から聞こえた。

ジェニファーは戸惑いながらも、女性の指示通り椅子に座る。

「ようこそお越しくださいました。さっそく本題に入りたいのですが、本日いらしたのは……」

 相手の顔が見えない事に不安を感じる令嬢は口を挟む。

「あ、あの。お顔を見てお話は出来ませんの?プライベートな事柄なので、ちゃんとお顔を見て相談したいのですが……」

「なるほど。そのお気持ちは理解できます」

「で、でしたら、このついたて外しませんか?」

「う~ん。それは出来兼ねます。あなたは親しいどなたからか私の評判を聞いて、今日ここの戸を叩いたのではありませんか?」

「……それはそうです」

「その方は、私を信用してあなたの助けになると思い教えたのですから、私の事はその方の信用度と同じに捉えていただきたいかと思います。それが難しいようでしたら、どうぞお引き取りください」

「……わかりました。このままで構いません」

「では、本題に入ります。今日こちらにいらしたのは、婚約破棄の件でよろしいですか?」

「あ、あの!まだわたくし何も話しておりませんが……」

 いきなり相談の内容を当てられて、ジェニファーは戸惑う。

「この職業をやっていると、色々な情報が入ってくるんですよ。もちろん社交界のものもね」

「ブロア家と言えば、ここ数年で急成長した商人の家柄ですよね?確か婚約者はシーモア家の長男マリウス卿でしたよね?シーモア家といえば辺境伯、あなたの実家の事を考えると、これはまたとないチャンスかと思いますが?」

「父にはです……」

 ジェニファーは少しむっとして答えた。

「なるほど。あなたにはありがたくない婚約話と言うわけですね?」

「私は!……私には愛する男性がいます。父にもその事を話しましたが、私が愛する男性は王に使える騎士です。そんな相手はダメだと言われました。事業拡大の為にも、爵位は必須だと……」

「お父様の意見はもっともかと思います。ですがあなたの事を思うと気の毒になりますね。私も女性ですから、好きな相手と結ばれないのが悲しいのも十分理解できます」

「あ、あなたは今までどんな相手との婚約破棄だろうが、婚約締結だろうが叶えてきたと友人から聞きました。その友人もあなたに助けて貰たったと言っていました。どうか私の婚約も何とかしてくれませんか?」

「わかりました。では、料金は前金で金貨10枚で請け負いましょう」

*この世界の通貨は金貨、銀貨、銅貨の3種類。金貨1枚20万円の価値がある。

「金貨10枚!?」

「何か不都合が?」

「いえ、思ったより高額だったもので……。誰にも言わずに用意できるものか……」

 ジェニファーの困った顔をついたて越しに見て、女性は提案する。

「そうですか、では、手付金として金貨5枚を頂きます。婚約破棄が無事できたら残り5枚頂くことにしましょう」

「あ、ありがとうございます!分割なら何とかなるかと思います」

「では、こちらの契約書にサインを……」

ついたてについている小窓から黒い手袋をした手がにゅっと伸び、契約書が差し出された。ジェニファーは机に要されていたペンを使いサインをし、紙を窓口に入れた。

「確かにサインいただきました。では、本日より婚約破棄に向けて動きたいと思います。婚約破棄が完了するまで、絶対に今日のやりとりを他言しないようにお願いします」

「わかりました。宜しくお願い致します」

ジェニファーは少し不安気な様子で部屋を後にした。

ジェニファーが帰ったのを確認し、女性は椅子から立ち上がった。凛とした声からは想像できない、可愛らしい顔、気品あふれる令嬢がついたての向こうから姿を現した。

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