第8話 悔しさと決意

静かな会場の空気を破ったのは、司会者だった。

 

「…! 勝者!! 夏風空!!!」


『ウォォォオオ!』


 大歓声が起きる中、私は倒れ込みながら、空を見つめる


「ほ……ほんとっ! 強かったなぁ」


 ちょっと調子乗ってた部分があるな。反省しつつ勝ったことへの喜びを爆発させた!


「やったぁぁあ!!」


 天へ向けてガッツポーズをする! 私勝ったんだ! すごく激しい試合だったなぁ。


 一息ついて立ち上がると、場外へ吹き飛ばされた青葉さんの元へ歩く


「お、おめでとうございます。私も、久しぶりに……熱くなりました」


 まだ倒れ込んでいた青葉さんに、手を差し伸ばし、起き上がらせると私はハグをした。

 

「ありがとう! 本当に青葉さん強かった! 私、決勝を絶対勝つからね……!応援してね!」


 青葉さんにナイスゲームと心に想いながら、優しくハグするうちに、私の服が濡れ始める……。


「うわぁぁん!わ、私、お、応援してますから……ぐす……」


 私の胸で泣きじゃくって……。なんか妹って感じする……な?

 

「青葉さんいくつ?」


「十三ですけど……?」


 げげっ! 歳下!? 確かに小さいし、妹感あるわけだ……。てか、十三でこの実力って本当にすごいな。


「大丈夫ですかー!?」


 保健部の人が私たちに駆け寄ってくる。


「青葉さんから治療してあげてください」


 ラスト、私の攻撃を直接当たったんだから、相当なダメージを負ってるはず……。私は、青葉さんが地面に寝そべって治療されるのを考慮して、膝枕してあげる。


「大丈夫?青葉さん」

 

「す、すごく嬉しいです……。負けた相手にも、こうして優しくしてくれて……」


 私は、青葉の頭をそっと撫でてあげる。


「ふふ、私はみんなに優しいのだよ!」


「あり……がとう……ございます」


 私の膝枕で治療されながら、ぐっすり寝てしまった。身近で見ると青葉さんも可愛いなぁ……って歳下に青葉さんもおかしいのかな?


「夏風さんは、このまま治療しても大丈夫ですか?」


「はい、お願いします!」


 氷華ちゃんを膝枕した状態で私は、治療を受ける……。そう、まだここで終わりじゃない、私には、後一試合残っている。


「治療終わりました! 青葉さんどうしましょうか?」


「私がここの保健室に連れて行きますよ! ……氷華ちゃんちょっとごめんね」


 私は氷華ちゃんをおんぶすると、闘技場の保健室へ向かう。

 

『パチパチ』


『二人ともよくやった!』


 私たちは、沢山の人の温かい拍手や歓声に見守れながら、フィールドを後にした。


 闘技場の保健室に入ると、そこ居たのは……。


「にっちゃん!!」


 なんだか久々に見たなぁ……。にっちゃんは、すごいボロボロで、保健部の生徒さんに治療してもらってる最中だった。


「空ちゃん……その子は?」


 にっちゃんは、私の背中で未だ爆睡中の氷華ちゃんを見つめる。


「この子は青葉氷華ちゃん。私の準決勝で戦ったあい…」


 氷華ちゃんの説明をしようとしていると、廊下からコツコツと誰かが来る音がする。


「氷華、あんた、なにやってんの? もしかして負けたの?」


「貴女は更衣室の!」


 予選が始まる前、更衣室で私たちの話にケチ言ってきた人だ! 見た目はお嬢様なのに、口悪くて顔はすぐ覚えてた。


「あら……。なに? もしかして貴女が決勝の相手?」


 決勝の相手……?? ってことは!?


「ごめんね私負けちゃった……。」


 にっちゃんが先に言葉に出す。嘘? あのにっちゃんが負けたの?


「そうね! 一番苦戦した相手だったけど、終わってみれば、そうでもなかったわ!」


 少女は笑いながらにっちゃんを見る。にっちゃんは、無視して治療に専念していた。


「貴女、氷華ちゃんのこと知ってるみたいだけど……」


「だってクラスメイトだもの」


 なるほど、この二人はクラスメイトなのか……。


「す、すみません青葉さん預かりますよ?」


 ピリピリした空気の中、保健部の人は氷華ちゃんを預かり、ベットに寝かした。


「それで貴女の名前は? 決勝まできたんだから教えてよ」


 私の言葉に少女はニヤつき、手で髪をサラッと流しながら


「ウチは白野美羽みうよ! よく覚えておくことね!」


 白野さんは、自己紹介すると私のことを見下したような目で見る。


「氷華を倒したのは流石だと思うけど、まだ幼い子に苦戦してるようじゃ、ウチには勝てないわ! そこにいるニエベスって子と同じ結末を見せてあげるわよ!」


 嘲笑うかのような話し方……。やばいイライラしてきた……! 私はこの人のこと嫌いだ! 抑えろ……相手の挑発になるな!


「白野さん。貴女は私が倒す!!」


 静寂な保健室の中で、私は睨むような目で白野さんを見つめる! 白野さんはそれに屈することなく見つめてくる!


「すみません……。お二人ともそろそろお時間です」


 睨み合う中、保健室に実行委員会の人が入ってくる。


「それじゃ。決勝楽しみに……してるわよ?」


 ふっと笑うと長い髪をなびかせながら、白野さんは保健室を後にする。


「にっちゃん……。必ずあの人を倒してくるから!」


 私は、治療中のにっちゃんの手を両手で強く握りしめる。


「空ちゃんごめんね……約束守れなくて……。負けた後、空ちゃんの試合見たくて、こっちの闘技場の保健室で見てたんだ……。すごい試合だったね」


 にっちゃん。負けても応援してくれたんだ嬉しいな……


「ありがとう! それじゃ私行ってくる!」


 にっちゃんの手を離し、保健室を出ようとする。


「空ちゃん!! あの人の粒子には………」


名前を呼ばれ、再びにっちゃんの方を振り向く。


「ん? 粒子がなに?」

 

「夏風さん……。そろそろお願いします」


にっちゃんの言葉を最後まで聞けることなく、実行委員会の方に呼ばれる。


「行ってきます!」


「……行ってらっしゃい頑張ってね」


 私とにっちゃんは、お互いに言葉を交わし、私は保健室から出て廊下へ出る。


「イチャついちゃって〜。負ける前に勇気なんか貰わないでよね」


 廊下へ出ると白野さんが待っていた……。この人は本当に……!!


「白野さんこそ、独り身で悲しく散る前に、こんなところで呑気に立ってていいの?」


「へぇ。言ってくれるじゃない?」


 バチバチと目が合う。実行委員会の人はすごく戸惑いながらも……。


「そ、それでは二人ともフィールドへ。ど、どうぞ」


 その言葉を聞くと二人は、フィールドへ歩き始める。


 黒髪の少女と白髪の少女の決勝戦が、いよいよ幕を開ける!


(私負けないから! 見ててね! にっちゃん!)


 これまでの倍のような歓声が聞こえ始める中、私はゆっくりと決勝の地へ向かった。

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