第27話 「最強のスライム」

「みんな、待たせたにゃ!って何にゃ!?何が起こってるにゃ!!?」

「………まだ一匹仲間が残っていたのね……。醜く肥え太ったスライム……。すぐに殺してあげるわ……!」

「にゃにゃっ!?」


 宙に浮かぶいくつもの深紅の槍の切っ先がスライムへ向けられる。ダラクが血の飛沫を宙へ撒くと、スライムへ向けて矢の弾丸が撃ちだされた。


「ぎにゃっ!?」


 ズブンズブンとスライムの体内へ深紅の槍が撃ち込まれる。スライムの中で深紅の槍が溶け、スライムの身体を赤黒く染めていく。スライムの身体がダラクの血に侵されていく。


「……にゃ?」


 スライムの様子がおかしい。スライムは奇妙に体をプルプル動かすと、何かを吟味するように呟き始めた。


「流石の巨体ね。ただ槍を撃ち込むだけじゃ死なないか……。だったら、醜く爆ぜて死になさい……!」


 手を前に突き出して、ぎゅっと握る。それに合わせて、スライムの身体がビクンと跳ねた。スライムの中でダラクの血が爆ぜたのだ。


「──────ッ!!!」


 スライムの目がカッと見開く。爆発の衝撃が身体の内側で起きたのだ。まともな生物であれば即死は免れないであろう衝撃の中、スライムはプルプルと身体を震わせている。


「……血にゃ」

「………?」

「血にゃ!!!アズマ、コイツ血で攻撃してるにゃ!!!アズマァ、任せろにゃ!!!あたしジェル=サマがコイツの血の一滴まで搾り尽くしてやるにゃあ!!!」

「ッ……!!こいつ……!」


 目をぎらつかせたスライムが体を広げてダラクへ襲い掛かる。不利を悟ったダラクは素早く引いてスライムと距離を取った。


「くっ……!死ね……!死ねっての……!」


 必死にスライムの身体を爆発させようと手を尽くすが、スライムは体を膨らませたり縮ませたりするだけで、まるで効果がない。

 ダラクも必死になっているのか、イライラと顔を歪ませてスライムの攻撃を避けるばかりだ。


「バァっ!」

「─────ッ!!!」


 いつの間に身体を分離させていたスライムの一部がダラクの背後を取る。虚を突かれたダラクは一瞬隙を見せるが、すぐに深紅の槍を手に取ると、スライムに斬りかかった。


「キヒヒッ!ムダムダムダにゃあ!!!」

「ぐっ……!クッソ……!」


 ボンッ!!!


「ぐふっ……!?」


 強烈な一撃がダラクのみぞおちにぶち込まれた。

 スライムの痛恨の一撃を食らって吹き飛ばされたダラクの身体が、スライムの本体に取り込まれる。ダラクの絶体絶命だ。


「ふふふ。さぁて、どうするかにゃあ~~?」

「ぐっ……!ただがスライムの分際でェ……!」


 スライムに呑み込まれるダラクが恨めしそうにつぶやく。やがて、頭が呑み込まれるその直前に、ダラクは呪文のようなものを唱えた。


「casus belli, in hoc signo vinces. veritas vos liberabit. in aeturnum, amen...」


 周囲の木々が騒めき始める。木々の枝という枝が不気味に踊り、ヒトの四肢のように動き始める。

 木々たちはくねくねと不定形に動き、やがてそれは何かに操られているかのような、"全身を樹皮で覆われた巨大なヒトのようなモノ"となった。

 それが一つ、二つと増えていく。やがてそれは、数を増やしながら俺たちの周りに次々と集まってきた。


「amen, amen, amen...」


 ダラクは呟き続ける。牡鹿の頭のような姿をした木の巨人は、不気味な叫び声をあげて、ダラクの祈りに応えるように俺たちを攻撃し始めた。


「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!!」


 およそ人の声とは思えない脳髄に響くような叫び声だ。まるで救いを求めるような、痛みに悶えるかのような、耳を塞ぎたくなるような叫び声だ。


 ズゥン!!!!


 バケモノは樹皮に覆われた腕をハンマーのように振り下ろす。ソレは手のような形をしているが、樹皮に覆われているせいか、思うように動かせないようだった。


「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!!」

「にゃにゃっ!!!まだ食べ残しがいたにゃ!!?」


 スライムが目を輝かせて眼前のバケモノたちを見渡す。まるでとびきりのごちそうを目にした犬のような喜びようだ。


「……まさか、この森に囚われた人間すべてを食べてしまったとでもいうの……?」

「そうにゃ!!!木という木に埋まっている人間さんはぜーーーーんぶジェル=サマが食べちゃったにゃ!!!」

「─────……この畜生めがっ……!!!永い時をかけて私が築き上げた深紅の芸術をよくもっ……!!!」

「にゃにゃにゃっ!!!」


 ダラクがスライムの身体から脱出する。しかし、スライムはそんな事を気にするでもなく、体を触手のように伸ばして、周囲の木々の巨人へとへばり付いた。


「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!?」

「─────ッ!やめなさいっ!!!」

「むっふっふ~~。ごちそうにゃあ♡」


 スライムの身体が木々の巨人の中に浸透していく。巨人は苦しそうに声をあげると徐々に動きを鈍らせていき、やがて動きを止めた。スライムが木の中に囚われているという人間を食べてしまったのだ。


「このォ……!!!」


 ダラクが怒りに身体を震わせる。怒りに顔は歪み、憎しみを湛えた目はまっすぐとスライムを貫いている。今にもスライムの身体をズタズタに引き裂かんとせんばかりだ。


「この私をコケにした報い、しっかりと受けてもらうわよ……!」

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