勇者の魔界入り
第18話 「いざ魔界へ」
俺たちはサキュバスのコルネーの空間転移の魔法によってモーテルの近くまでワープしていた。……絶体絶命のピンチとも思ったが、ひとまずは危機を回避できたらしい。
「た、助かったの…?」
「そ、そのようだな……。すまないコルネー、おかげで助かった。」
「………」
茫然とするモエカとは対照的に訝しげな顔をしているサクラ。その視線はコルネーに向けられていた。
「どうしてサキュバスが…?」
「あー、まぁ、なんだ。いろいろあってそのサキュバスとは付き合いがあるんだ」
「どういうこと…?オークにスライムにサキュバスって普通じゃないよ……」
そう言ってサクラは立ち上がろうとしたが、うまく力が入らないようで、力なく倒れこむように尻もちをついた。
「お、おい大丈夫かよ!?」
「アンタに言われたくないよ…!……ったく。すこし力が抜けただけだっての……」
やがて大きくため息をついて再びサクラが口を開いた。
「まぁ、とりあえず礼は言っておくよ。お陰で助かった。アンタとアズマがどういう関係かは知らないけど、悪いサキュバスではなさそうだね。見ず知らずのアタシたちまで助けてくれるなんてね」
「………」
小さく三角座りをしてこちらに視線を向けようともしないコルネー。なんだかばつが悪そうな表情をしている。
「私はこの人間に助けられたことがあるの。今回はその恩を返しただけ。アズマだけ助けたってアズマが悲しむだろうし、それだけだから」
「……そう」
微妙な沈黙が流れる。俺たちは行く当てもなく、とりあえずダーディアンに戻ることにした。
☆
俺たちはこれからどうするのかを話し合った。とりあえずは、ネメアの獅子の討伐は後回しにする事は決定だ。何か良い手掛かりはないものかと思っていると、コルネーが一つの提案をしてきた。
「私たちサキュバスっていうか魔族の元締めに会ってみない…?」
「……?どういうことだ?」
「どういうことってそういうことだけど……」
まるで意味が分からない。魔族の元締めって魔王か何かだろうか。
「サキュバスクイーンに会いに行こうって言うの?」
サクラが訊く。
「私たちが絶対服従する魔族の王。魔王様だよ。魔王様ならネメアの獅子を倒せる方法を知っているかもしれない」
「ま、魔王だって!!?」
驚いた。まさか本当に魔王に会おうと言ってくるとは…。俺は魔王を倒すために国王にその拝命を受け賜わった身だというのに、よりによって魔王に獅子を倒す相談をしに行くというのは……。
「………」
サクラがジトーっとした目で俺を見てくる。何故俺がそんな視線を向けられなければならないのか俺には分からなかった。
俺は悩んだ。俺たちの最終討伐目標である魔王を頼るべきか、俺たちが自分の力でネメアの獅子を討伐するべきか。
「………」
答えは明白だった。明白ではあるのだが、俺にその決断は難しかった。
「魔王を……」
そう言いかけたところで俺は言葉に詰まった。何故なら俺には到底受け入れがたい決断だったからだ。
「頼ろう……」
俺は勇者としてのプライドを捨てた。魔王討伐を志す勇者は、眼前の目標である獅子の討伐のために魔王を頼ることにしたのだ。
そうして俺の新たな旅路が始まるのだった。
☆
険しい山脈を俺とモエカ、サクラ、オークのホバ、スライム、サキュバスと進む。傍から見れば百鬼夜行にも見えただろう。スライムは獅子に粉砕されたことで身体がいたく小さくなっている。
「ニンゲン、ぜっっっっったい獅子のビッチをぶちのめすにゃ!よくもあたしのビッグな身体を粉々にしてくれたにゃあ……!」
せっかく築き上げた身体を木端微塵にされたことを根に持っているようだ。まぁ、誰だって築き上げた財産をメチャクチャにされれば怒りはするだろうが。
「この山脈を超えれば魔界と呼ばれるエリアに着くはずよ。いわゆるここは人間界と魔界の境界みたいな所だからね。分かっていると思うけど、魔界は人間界とは全然違うところ。それをよく肝に銘じておきなさい」
サキュバスのコロネーが言う。俺も噂には聞いたことがあるが、まさかこんなにも早くこの山脈を超えることになるとは思わなかった。なんだかネメアの谷に足を踏み入れた時の事を思い出すようだ。
「全然想像がつかないや……。コルネーさん、どんなところなの?」
「そうねぇ……。触手のような肉の木とか、私みたいな魔族が集落をつくってたりとか?枯れた木に魂が宿って動いてたりもするし、平行植物ってやつがそこらかしこに群生してたりするわよ?」
「へ、へぇ……。そっかぁ……」
なんだかよく分かっていない様子のモエカ。肉のような触手のような木とか魔族の集落は分かるとしても、木に魂が宿るとか平行植物とかまるで想像できない。カートゥーンのハロウィン作品に出てくるようなコミカルな木だったりするのだろうか?
なんとなく道と分かるような獣道らしきものを辿っていく。途中見張りや番兵ものらしきものを見かけて尋問などもされたが、俺が勇者という事もあり、何とか通してもらった。
そうして俺たちは、魔界へと足を踏み入れた。
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