第17話 「絶体絶命」
「アズマァ!!!」
「ッ!?」
不意に俺を呼ぶ声が聞こえた。聞き覚えのある妙に媚びたような甘い声。そして聞こえるドスドスという重い足音。絶望に折れかけていた俺の心が不意に首を持ち上げるような感覚を覚えた。
「あ、あれがネメアの獅子かにゃあ!?ひぇ、なんていう奴にゃ…!!」
「ぐぅ…!覚悟はしていたがおっそろしい奴だぁ…!!」
アレは……オークのホバと……エルフの森の牢屋で出会ったスライム……?どうしてここに……?
「おい、アズマッ!!!大丈夫かい!!?しっかりしろ!!!」
「さ、サクラか……?どうしてここに……?」
「バカ言ってんな……!くそっ、ひっどい怪我だね……!なんだって獅子の元に戻ったのさ、このバカたれ……!」
見知った仲が来てくれたこともあって何とも言えない脱力感に襲われる。安心感からか急激に意識が遠のく感じがした。
「バカッ!!!寝てんじゃないよっ!!!ここで寝ちゃ死んじゃうかもしれないんだよ!!?」
グッと頬をつねられ思いっきり平手打ちされる。重い瞼を必死に開けると今にも泣きだしそうなサクラの顔がそこにあった。
「うっ……!ぐっ……」
体を起こそうとして激痛が走った。それを見てかサクラが何やら薬のようなものを取り出した。
「ああ、待って……!鎮痛剤を打ってあげるから動かないで……!」
そう言ってサクラは俺に注射器のようなものを刺すと薬液を流し込んだ。
薬液が俺の中で広がっていくのが分かる。即効性が高いのか、みるみるうちに痛みが引いていくのが分かる。
「はぁ……はぁ……」
「落ち着いてきたみたいだね……。大丈夫かい?アタシがわかる?」
「さ、サクラだろ……?」
「あぁ、良かった……。意識はちゃんとあるようだね……。まったく……ホントに無茶をするよ……」
「ど、どうして……。サクラと……あのオークたちは……?」
「こっそりアタシたちをつけてたんだと。獅子から逃げてる最中にばったりと出くわしたもンだから肝を冷やしたよ」
ホバと獅子が拳を交える。さすがの獅子もオークの重い一撃は堪えるようで、拳を打ち合った衝撃から大きくのけぞった。
「ハッ、さすがはオークだ。力だけは一端にあるようだな!だが、その程度では俺を倒すことは出来んぞッ!!!」
「それはどうかにゃ!?」
「ッ!!?」
ホバの身体から離れたスライムが獅子を覆う。しかし、獅子は意にも介さずにスライムの身体を一刀両断すると、そのまま稲妻を放ってスライムの身体を焼き払った。
「ぎにゃ!!?」
「バカめ……!」
獅子が巧みなステップで一気にホバとの距離を詰める。ホバが呆気にとられるのも束の間、獅子はホバへ取っ掴まった。
「ぐおっ!?」
獅子の鋭い眼光がホバの小さな瞳を捉える。獅子は拳を力強く握ると、ホバの眉間目がけて勢い良く拳を飛ばした。
「ッ……!!!」
3mは優に超えるオークの身体が勢いよく岩盤に叩きつけられた。。力なく壁にもたれかかると、ホバはピクピクと痙攣したまま動かなくなってしまった。
ドドドドッ!
スライムが弓矢のような鋭い細かな粒を獅子の背後へ浴びせる。しかし、やはりと言うべきか獅子には傷一つ付けられなかった。
「ば、バケモノにゃ……!あ、あんなの勝てる訳が……!」
獅子が両手に稲妻を纏わせる。獅子はそのままスライムへと飛びかかると、纏っていた稲妻をスライムへと浴びせかかった。
「ぐぅ……!あんなのをまともに食らったら一発でお釈迦だにゃ……!」
見た目に寄らずスライムはぴょんぴょんと巨体を跳ねさせながら獅子の攻撃を回避していっている。獅子もじれったいのか、いら立ちに顔を歪ませながら必死にスライムを追いかけている。
「キッ……!」
獅子の放つ稲妻が一閃の矢となってスライムへと放たれた。
「ぎっ……!!?」
獅子の稲妻を真正面から受け止めたスライムが動きを止める。獅子はその一瞬の隙を逃さず、もう片方の手に纏われた稲妻を増幅させると、勢いよくスライムに浴びせた。獅子の会心の一撃を受けたスライムは、その巨大な身体を勢いよく爆散させてしまった。まるで爆弾が爆発したかのようだった。
「っっ……!」
サクラの声を詰まらせる音が聞こえた。増援に来た最強のスライムとホバが瞬殺されたのだ。俺にとってはこの上ない最強の仲間だった二匹が、簡単に倒されてしまった。
……万事休す。今度こそ終わりだと思った。
ドドドドッ!
突如獅子の周りで黒い爆発が起こった。それは獅子にとっても突然の出来事だったようで、慌てて上を見てみると、そこには宙に浮かぶ一人の悪魔がいた。
「コルネー…!」
「このバケモノ…!」
「ぐっ……!?」
獅子の身体が固まる。どうやらコルネーがチャームをかけたようだ。いくら無敵の身体を持っていようとも、サキュバスの肉体支配やデバフには抗えないらしい。
「アズマっ!逃げるよっ!」
「こ、コルネー!?」
コルネーが俺に飛びつく。瞬間、闇の波動が俺たちを包み込んだ。
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