第7話 「死闘!エルフの森」

「ひえっ!」

「うわぁ、エルフがいっぱいにゃあ~」


 魔力のよどみに敏感なエルフたちはすぐに異変を察知した。エルフたちは俺たちを認めるや否や、すぐに弓やダガーナイフを構えて俺たちを見据えた。


「ふふん、ゆうしゃクンはあたしに隠れてるにゃ」

「えっ!?」

「これくらいだったら、あたしがあっという間に終わらせるにゃ!」


 スライムが人の姿を形作る。全裸でむちむちとしたネコミミの女の子の姿とは随分と俗な姿をしているが、あえて黙っておこう。エルフも無反応だ。


「……あのスライム、我が同胞を一人捕食しているようだな…」

「ッ……。ただがスライム一匹に怯える必要はない…!各員、放てッ!」


 ヒュンと一斉に矢が放たれる。スライムは両腕を広げると、全身でその矢の嵐を受け止めた。スライムに捕食された中のエルフの亡骸がずたずたに引き裂かれて思わず目を背けてしまう。しかし、スライムにとってはどうでも良いことのようで、ケロッとした様子で目の前のエルフたちを睨んでいる。特別なダメージもないようだ。


「その程度かにゃ?その程度じゃあたしは倒せないにゃ~?」

「ッ……!各員、任意射撃ッ!くそっ、ただの低級な雑魚モンスがよくもここまで成長できたもんだ…!」


 次々と矢が射られる。スライムはそれらを次々と受け止めていくと、受け止めた矢を自らの体内で溶かしていった。繊維状に溶かされた矢の一本一本がスライムの身体で溶かされて、吸収されていく。スライムにとっては、これらの矢もただの栄養の一つでしかないのだろう。気が付けば、エルフの死体もきれいに溶けてなくなっていた。


 リーダー格のエルフが剣を構える。そいつは切っ先をスライムに向けると、激しいイカヅチを発射した。


「ぎにゃっ!!!」

「お、おい!大丈夫か!?」

「心配ないにゃ!キミはさっさとトンズラするにゃ!」

「ッ!!?」


 突如耳元でスライムの声が聞こえた。目の前のスライムは苦しそうに体を震わせていてとても大丈夫のようには思えないのだが…。頭が混乱するかのようだ。


「さっさと行くにゃ!」

「いでっ!!!」


 首をつねられるような痛みに襲われる。俺はその声に従って、訳も分からず言われるがままに走りだした。


「よくいう事を聞いたにゃ!今キミに話しかけてるあたしは本体から分離したもう一匹のあたしにゃ!悪いけどこの小さな体じゃすぐに死んでしまうから、お前の生き血を少しずつ吸わせてもらうにゃ!」

「んなっ!?」

「大丈夫にゃ!ほんの少しずつだから死にはしない筈にゃ!たぶん!」


 必死に森の中を駆けていく。やはり所々にエルフ共が潜伏しているようで、あちこちからガサガサと草木をかき分ける音が聞こえてくる。


「うえ!アサシンにゃ!」

「くそっ!」


 前に飛び込んで回避行動をとる。急いで距離を取り、剣を抜いてエルフのアサシンと対峙する。アサシンは何ら動揺することなく、獲物を追い詰めた虎のように俺を睨んでいる。


「奴の攻撃は未来予知に等しい直感のスキルでもなければ勝つのは厳しいにゃ。個々の戦闘力は大したことはなくても、奴の殺しのスキルは折り紙付きだにゃ!」

「未来予知、ねぇ…」


 未来予知、直感。平々凡々な魔法やスキルをたくさん持ってる俺だけど、俺の持つこの直感スキルにはいつもお世話になっている。これのおかげで俺はパーティーを追放された後も生きながらえてきたのだ。野盗にもならずに済んだのも直感スキルあってのことだ。


「いっちょやってみるか…!」

「にゃっ!?正気かにゃ!?」


 腰を低く落として剣先を相手の眼に向ける。エルフは右手を引っ込めると俺に飛びつき、勢いよくダガーナイフで切り付けてきた。


「見切った…!」


 半歩踏み込み、剣を切り上げる。俺には見えた。相手は俺の首を狙い、切り落とすと。ならば俺はそれを回避し、その腕ごと切り落とす。簡単な話だ。


「ッ……!!」

「もらったぁッ!!!」


 ガムシャラに剣でぶった切る。斬るというより殴るに近かった。肉を切り裂く感触、骨を砕く感触が直接手に伝わるようだった。俺は、勝ったのだ。

 ぶった切られたエルフが地面に伏す。どうやら即死のようだった。


「ハァッ…!ハァッ…!ハァッ…!」

「すっ…、すごいにゃ!エルフのアサシンに勝ったにゃ!!!」

「し、死ぬかと思った…!」


 緊張から解放されて一気に脱力する。脱力した俺はそのままへたり込んでしまった。


「きゅ、休憩してる暇はないにゃ!さっさと行くにゃ!!!」

「いででっ!つ、つまむなつまむなっ!行くからやめろォ!!!」


 そうして俺はスライムに言われるがままに森の中を走っていった。ガムシャラに、ただひたすらに。

 走っていく中で何人ものエルフを切り伏せていった。アサシン、シャーマン、アーチャー…。剣士みたいなエルフもいた。すべて、俺の直感と剣の前に倒れていった。


「はぁっ…。はぁっ…。」


 血を払って目の前の建物を前にする。スライムが言うには、どうやらこの建物に件の友達がいるらしい。……それに、覚えのある闇属性の魔力を感じた。コルネーのものだ。


「コルネー…。ここにいるのか…」

「待ってろホバ…。今オマエを助けてやるからにゃ…!」

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