第4話 「初めての仲間」

 俺の話をしようと思う。俺の名前はアズマ。この世界に来るまでは滝毛沢東≪タキケザワ アズマ≫と呼ばれていた。俺の両親はどうしてこんな名前にしたかは分からないが、おかげで中学高校と主席と呼ばれるハメになった。


 勉強が嫌いだった俺は大学進学を早々に止め、就職することにした。喋る才能がなければ技術的なモノもなかったので、なし崩し的に土建業に入ることになった。

 バカで無能な俺は毎日怒られた。会社の中でも元受けの前でも容赦なく怒られた。先輩は何も助けてくれなかった。


 昼も夜も働いた。トラックで一日100km以上走ったりもした。そうした中のある日、俺の人生は突然終わりを迎えた。


 ボーっとトラックを走らせているとき、不注意からトラックで中央分離帯に乗り上げて、横転させてしまった。打ち所が悪かったのか首の骨を折ったらしく、ぽっくりと逝ってしまった。実にあっけない最期だった。そうして、俺は謎の声へと導かれるままに異世界へと転生した。



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名前:アズマ

種族:ヒューマン

年齢:18歳

スキル:直感

職業:魔法戦士

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「これがお前のステータスだ」

「はぁ……」


 立派なひげを蓄えた屈強そうな老人が俺に告げる。老人の背後には天をも貫くような超巨大な巨木がそびえ立っている。いや、木なのだろうか…?木というには人智を遥かに超えた大きさだ。

 いや、それも今はどうでもいい。とりあえず、今は目の前の状況を受け入れなければ。ステータスだとか目の前の老人だとか訳が分からない。


「とりあえず、どういうことなんです?」

「お前は不慮の事故で死んだ。そして、お前が新たな生を始めるにあたり、必要なステータスを決めるのだ」

「……?そういうものって、俺自身が決めるものじゃないんです?」

「バカ言え。みんながみんなそうしてみろ。世界がめちゃくちゃなことになるぞ」

「まぁ、そうですわね」


 確かにそうだと老人のいう事に一人納得する。とりあえず、俺は転生するために、この老人に新しくステータスを与えられるという訳だ。

 そうしていよいよ気になってくることがある。俺のステータスを決めたこの老人は何者なんだろうか?


「あンのぉ…。俺のステータスを決めるアナタはいったい何者なんです?」

「……この世界の法であり、神であると、今は言っておこう…」

「カミ…?カミサマ…?」

「もう良いであろう。お前の行き先はミッドガルドだ。では、さらばだ」

「え!?ちょっ…!」



 そうして俺は、神様の気まぐれ?により新しく生を受けた。いわゆる転生ってやつだ。便宜上勇者を名乗ってはいるけど、本職は魔法戦士という中途半端な職業だ。魔法使いと戦士の両方の職業をこなせるけど、本物の職人には遠く及ばないビミョーな職業だ。この世界に来て最初に学んだことは、欲張るのは良くないという事だった。


 魔法戦士という職業と直感スキルでゴブリンやスライムらを討伐し、着実に実績を重ねていった。冒険者養成学校というところで聖堂騎士団という聖府直属の騎士団とも繋がりを得たし、高名な魔術師ギルドとも知り合えた。魔法戦士というものは器用貧乏ではあるけど、広く浅くいろんなギルドを行き来できるのは明確な強みだと知った。


 そうして俺は聖堂騎士団第一親衛隊隊員のルーク、天の意志と奇蹟を追求する、聖府管轄の魔術師ギルドに所属するリム、風の精の加護を受けた永遠に幼きエルフの少年、ミラージュ…。国王の推薦もあり、俺たちはパーティーを組み、暗黒神の討伐に向かった。それからはお察しの通りだ。無能と言われた俺は仲間に裏切られた。


 ────ああ、意識が薄れていく。俺はまた現実に戻されるんだ。今日もまた、しがない毎日が始まっていく…。







 朝の陽ざしが部屋を照らす。見慣れたいつもの宿屋の一室だ。

 ……なんだか下半身がもぞもぞする。慣れない違和感に注意を向けると、そこにはいてはならない筈の女が一人いた。


「サ、サキュバス!!?」


 ……間違いない。こいつは昨日俺が退治したサキュバス、コルネーだ。憲兵に引き渡して牢獄にいるはずのコイツがなぜここにいるんだ?


「あーあ、起きちゃったかぁ。ちぇっ、もうすぐ一番搾りのおいしいごはんにありつけると思ったのになぁ」

「ふ、ふざけるな!こんなところで死んでたまるかよ!」


 目の前の現実に気が動転してしまってパニックになる。サキュバスはスンとした様子で口笛を吹いている。……何が何だか分からない。あらゆる疑問が沸き起こってくる。

 ……まずは、こいつの目的を聞いてみようかな…?


「な、なぁ。なんで憲兵に捕まったはずのお前がここにいるんだよ…?」

「あんなんで私を捕らえられると思った方が間違いなんだよ。あんなもの、霊体化したら簡単に抜けられるし。ってか、アングラという都市国家がゴースト対策してないことに驚きなんだけど!」

「……俺の元に来た理由は…?」

「おなかがすいたから」

「……メシって訳か」

「うん」


 ……実にサキュバスらしい理由だ。魔力補給のために俺の寝込みを襲って搾精しようとしたらしい。朝方に襲うとは間が悪すぎるとしか言いようがない。


「……っていうのは表向きの理由でぇ」

「……なに?」

「アンタの夢の中、見させてもらったんだけどさ。アンタといると面白そうって思ったんだ」

「俺の夢…?」

「うん。元いた世界でツライ目に遭って、不幸な事故で死んじゃって、転生したのはいいけどその転生先でも仲間に追い出されちゃってさ。私だったらやさぐれてどっか遠い所でマフィアになるか、闇落ちするけどね。けど、あんたは違う。諦めずに立ち向かおうとしてる。そんなあんたが、この先どうなるか見てみたくってさ。この先どういう選択をするか、見届けたいと思ったんだよ」

「………」

「別に変じゃないでしょ?私も獲って食おうだなんて思ってないし」

「さっき食おうとしたばっかじゃねえか!」

「アンタたちヒューマンでも私のやろうとした行為は食べるっていうの?」

「………」


 言い返せないのがなんか悔しいが、コルネーのしようとしていたことは間違いなく捕食行為だと断言できる。けど、このサキュバスは俺のこの先の行く末を見てみたいと言った。その気持ちに間違いはなさそうだけど…。


 俺は考えた。このサキュバスは俺と共に来てくれるのではないか。サキュバスという淫魔でも俺の貴重な戦力になるのではないか。そしてあわよくば…。


「……俺と一緒に来てくれるか?コルネー…」

「うん。アンタさえよければだけど」

「……いいだろう。では、コルネー。俺はお前を歓迎する。どう役立つかは分からないけど、パーティーの一員として活躍することを願っているぞ」

「はいよ~。アンタが思ってる以上に役立ってみせるからねー!」


 そうして俺の新たな冒険が始まるのだった。

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